なに食べたい?
野郎。
ほんとに書き上げるまで、赦してもららえなかった。
「はい、はい、PDFですぐ送ります。」
ほぼ同じ時間起きてるはずなのに、やつは涼しい顔で電話してやがる。
対する俺は満身創痍、グロッキー状態だ。
「はい、では。」
やつが振り返った。
「ほら。」
やつがスーツの内ポケットからなにか投げてよこす。
新品のセブンスター!!
俺は早速一本火を点けた。
「あれ?Wi-fi繋がんねぇぞ。」
「あー払ってない。」
「…え?」
「だから原稿料入らないと払えない。」
「お前、このデータどうやって送るんだよ…」
やばい、やつの声のトーンが危険領域に向かってる。
「え、え~っと…どうしよう?」
俺は精いっぱいのサービススマイルでやつを見上げる。
「はぁ…」
やつは深いため息をつくと、またもやスーツのポケットから何か取り出した。
「へぇ~スマホでも送れんのか。」
やつはPCとスマホを繋ぐとサクサクと書き上げた原稿を送り始めた。
「お前いったい幾つだよ。」
メガネをかけたやつが、俺を睨みつける。
「27だが?」
「知ってるよ!俺より若いんだから、これくらいわかれよ!」
「二つしか違わねぇじゃねぇか!」
「それでも下は下だろうが!」
画面には、送信中の表示。
「お前、通信費払ってないって…電気代や携帯代いったいどうしてんの?」
「だから、払ってないって。」
威張れることじゃ無いが、隠しても仕方ない。
「それじゃ、お前…」
バツン!
部屋が暗くなった。
俺はセッタを一吸い、煙を吐き出した。
ブツン!
その時、ノートもブラックアウトした。
「え?なんでPCも落ちた?」
「そりゃそうだ、稀代のSO○Yフリークの俺が使う年代物のV○IOだぞ。」
「バカ!言ってる場合か!」
やつが、明らかに慌てだす。
「フフン、慌てめさるな。」
「ハァ?」
「こんなこともあろうかと。」
俺はカーテンの裏をまさぐる。
「大家の部屋から引っ張ったコンセントー。」
やつは茫然と俺を見ている。
「お前なぁ…それって盗電だぞ?」
「気にしない、気にしない。」
「第一どうやって気付かれずに、コンセント引っ張ったんだよ。」
「そこは俺の元電機屋のスキルがね。」
「あーもうわかったから、手を動かせ。」
アダプターを接続すると、VA○Oが息を吹き返した。
「もう一度初めからだな。」
やつが眼鏡をかけたまま呟く。
こいつ眼鏡かけると、ちょっと可愛くなるのなんでだろう?
「どうせ飯代もないんだろ?」
画面を見ながらやつが言った。
「自慢じゃないがないぞ。」
「なに食いたい?」
「おごりか?」
「貸しだよ!貸し!」
「じゃ、肉が良いな。」
「って!す○家かい!」
近所の商店街を歩きながら、盛大に突っ込んだ。
「仕方ないだろ?一番近いし、焼肉だと臭い着くからな。」
近いって2キロありますが?
「あれ!秀ちゃん!」
パブやってる美咲が声をかけてきた。
「お~す。」
「そっちのイケメンさんは?」
「仕事関係。」
「こんにちは。」
こいつはぁ!俺にもそんな極上スマイルしてみろや!
「素敵。 借金取りじゃなさそうね。」
「あーもう、今から飯いくからまた今度な!」
「えー秀ちゃん来るの待ってたら、おばあちゃんになるよ。」
「ね、イケメンさん。」
「じゃ、僕が連れて行きますよ。」
「こいつ、近々金が入るんで。」
「えー嬉しい!約束ね!」
「あと秀ちゃん!ツケも精算してよね!」
余計なことをペラペラと!!
「お前、ああいうタイプが好みなの?」
やつが、美咲の後ろ姿を見ながら聞いてきた。
「んータイプって言うか10代から知ってるから…幼馴染み?」
「ふーん、まぁ今のでお前の事色々分かるわ。」
どういう意味じゃい!!
腹立ちまぎれに頼んだメガをかきこんでいると、やつと目が合う。
「なんだよ?」
「いや、旨そうに食うなと思って。」
頬杖をつきながらやつが答える。
「実際旨いしな!でもメガは調子のり過ぎた。」
「今度なんか作ってやろうか?」
「へ?」
我ながら情けない声が出た。
「俺、ずっと自炊してるから料理得意なんだ。」
いや、なにアピール!?
そんなのは女にしろよ!
「あ、あーまた今度な。」
困惑した俺の返答は、消防車のサイレンにかき消された。
「○○区で先日発生した火災は、漏電が原因と…」
大型のテレビからはニュースがながれる。
空調の効いた快適な部屋だ。
室内の装飾もモダンで良い感じ。
やつにはもったいない!
あんな安月給であろう一介の編集に、不釣り合いな部屋だ。
なんか悪事でもしてんのか?
「ただいま。」
やつのご帰還だ。
「少し待っててな、なんか作るから。」
「うむ。」
腕組みしテレビを凝視しながら、返事を返す。
「♪~」
鼻唄なんぞ歌いおって!
そんな楽しいことがあったのか?
これじゃ…これじゃまるで…
「あ?辛かったか?」
「いや…」
「パクチー苦手だったか?」
「いや…」
「じゃなんだよ!不満そうにしやがって!」
「旨いし不満なんかねぇよ!ありがたいよ!アパート焼けて路頭に迷いそうな時に助けてくれて!」
くそぅ、ありがたくて涙がでる。
「え?泣いてんのか?」
「泣いてるよ!泣いちゃ悪いかよ!」
「あ、いや…ごめん。」
「とりあえず、原稿料入ったらすぐ出ていくから。」
旨いなぁこの料理。
「いや…別に焦んなくてもいいけどな。」
「へ?」
「いや、ほら、食べてくれるやついると料理しがいがあるし。」
なに顔赤くしてんだこいつ。
「俺にいてほしいの?」
「はぁ?勘違いすんなよ!その、あれだ…編集者として管理しやすいっつーか、なんだ。」
あーもうこいつ、なに言いたいのかわかんねぇよ。
「なにが言いたいんだよ!」
「あ~もう!じゃなに食べたいんだよ!」
その時インターホンが鳴った。
「夜分すいません。こちらで言い争う声がすると通報がありまして。」




