プロローグ
某所 安アパート「平安荘」
「秀―、居るかぁ?」
ちっ、やつだ。
「おおい!生きてんのかぁ?」
布団の中で眠っていた俺は、奴の声で目を覚ました。
「おおい!聞いてんだろ!」
布団を剥ぎとられた。
「ったく…で?原稿は?」
相変わらず整った顔で、睨みつけてきやがる。
こいつは俺の担当編集、茶井新之助。
この令和の時代に「新之助」って、親の顔を見てみたいぜ。
俺は上半身を起こすと、不貞腐れながら答えた。
「まだ。」
やつは目頭を指で押さえる。
「締め切り…わかってるよなぁ?…先生。」
嫌みったらしく言いやがる。
「で?あと何ページ?」
新之助が作業机に目をやる。
開きっぱなしのノートPC、新之助が俺を踏み越えて操作する。
「なにこれ?」
やばい。
「1ページ?いや…半ページ?…落とす気か?」
またも切れ長の目で睨みつけてきやがる。
俺は布団の横にあった灰皿から、シケモクを拾い上げると火を点けた。
「締め切り、明日だよなぁ…」
新之助がわなわなと、体を震わせながら呟いた。
「ん?そうだっけ?」
すっとぼける俺。
新之助の平手打ちが咥えた煙草を吹っ飛ばす。
「…いいから…吸わなくて…早く書け。」
やつはいつも以上に無表情だ。
こうなると手の付けようがない。
俺は小さく、
「ひゃい。」
「ったく!今日は終わるまで寝かせねぇからな!」
その言葉に俺はニヤッとしながら。
「えぇぇぇぇ!新之助くん!それってどういう…」
ゴキッ。
やつが指を鳴らす。
「ひゃい。」
その時、
「なんか焦げ臭くね?」
俺が声を上げる。
すると天井の報知器が突然うなり出した。
「火事です、火事です。」
大家のおばさんに2人してみっちり絞られた。




