第七話 ー緊張事態ー
凜と二人きりでC会議室にいる。
う、うーん、ものすごく緊張する。
緊張といっても女の子と二人きりになっているからという甘酸っぱいものではない。
先ほどからこちらを見つめ、微動だにしない凜。
ちょっと怒ってるようにも見える彼女を前に、今から何をされるのか全く分からないという恐怖からくるものが全てだ。
一応、引継ぎ資料は用意してきたんだ。
ちゃんと見やすいよう作ったし、誤字脱字が無いよう二重チェックもした。
抜かりはないはず、だけど…。
何か言ってくれぇ。
このままでは心臓が持たないです。
「あ、あの~。僕に話って、な、なんでしょうか。」
僕は、沈黙に耐え切れず恐る恐る言葉を発した。
「引継ぎの件とか、ですかね? ほ、ほらここに。ちゃんと資料作ってますよ! 見やすいように作ったけど、見にくかったら言ってね。 すぐ直すから!!」
いや、自分でも情けないとは思う。
5つも年下の女の子相手にびくびくしてるのは。
でも怖いもん。仕方ない。
今だ無反応に見つめる切れ長の瞳を前に、タジタジになる僕。
気絶しそう。
「引継ぎの資料はいただきます。ですが、佐藤さんをここに呼んだのは、違う用事があるからです。」
ついに凜が話してくれた。
た、助かったけど。
「引継ぎの件じゃないの?ほ、他にどんな用事が.....?」
呼び出される心当たりはない。
しかも、二人きりで話がしたい内容となると
「佐藤さんは、父の失踪に関して、何か知っていませんか。例えば父が何か普段と違う様子だったとか。」
やっぱり仁さん関係か。
それもそうだ、二人に共通するものとなれば仁さん以外は無いし。
引継ぎ資料、無駄に凝ってしまったな。
「いや、悪いけど何も知らないんだ。僕も仁さんの失踪は不思議に思ってるんだよ。」
僕は正直に答える。
あの日の仁さんは、本当にいつも通りだった。
朝「おはよう、今日も頑張ろうな」と優しく言ってくれたし、社長室でいつも通り働いていた。
基本、社長室なんて平社員である僕は入らないし、仁さんの動向を注視してるわけでもない。
仕事終わりに社長室を見たときには、まだ明かりがついていたからいたはずだ。
「凜、、さんの方では、何か変わったことはなかったの?家に帰ってきてないんだったよね?」
僕も仁さんの情報はなるべく集めるようにしていた。
僕を育ててくれた人だ。
心配でたまらない。
だから凜にも同じように聞いてみた。
すると
「いえ得には。」
短く返事が来た。
しかしすぐに話し始める。
「忙しい方でしたから.....帰ってくるのも毎日遅いですし。でも、連絡を一度も入れないなんてこと無かったので。」
相変わらず表情が動かなくて淡々と話しているが、その顔は焦燥感があるように思えた。
毎日顔を合わせていた実の親がいなくなったんだ。
表情が硬くても、心の中では凜も相当心配で焦っているのだろう。
「少し前に父が、「俺に何かあったときは、佐藤から離れるな」と言ってました。」
え?僕から離れるなって、そんなこと聞いてないけど本当なのか?
「僕を頼れって意味なのかな?…本当に何も知らないし無能力者だから助けにはならないとおもうけど。」
仁さんは無意味にそういう事は言わない人だけど、どういうつもりだろう。
「父がどういうつもりで言ったのかは分からないですけど、ちょうど失踪について一人で調べていたんです。でも私では限界がありましたし、佐藤さんなら父から何か聞いているのかと思いました。」
それで半ば強引に、僕を呼び出して聞いている訳か。
凜に前もって自分の身に何か起きたらと話していたということは、仁さんはこのことを予見していたのかな。
僕らに何も言わなかったのは、事件に巻き込むのを防ぐためとか?
そうだとしたらいったい何から.....。
「私は、父は何らかの事件に巻き込まれたと考えてます。異能災害を取り扱う会社ですから、あらぬ恨みを買う可能性もありますし。」
凜も同じ考えのようだ。
「僕もそう思ったんだ。一応できる限り調べてはみたんだけど、手掛かりという手掛かりは全く見つからなかったよ。」
本当に仁さんの失踪に関しては、何も情報が見つかってない。
社内の出入り口の監視カメラにも、人の出入りしたログにも何も残っていなかった。
警察が来て色々調べてもらったが、本当に突如消えたとしか言いようがないぐらいなにも分からずじまいだった。
しばらく無言で考え込む凜。
そして何か決めたようにこちらをまたジーっと見つめる。
また灰色の双眸に見つめられて、会話で忘れてた緊張が戻ってくる。
改めて、あの快活な仁さんとは似ても似つかぬクールさにタジタジになる。
「佐藤さん。私の異能についてお話しておきたいです。」




