第五話 ー不思議な力ー
僕の今の人生は後悔だらけだ。
小さい頃から無能力者としていじめは日常茶飯事だったし、大人になっても上司から毎日のようにパワハラの嵐。
僕を肯定してくれた、前社長も失踪してしまって生きてるか分からない。
なんで、僕の人生はこんななんだ。
小さい頃は希望があった。夢があった。
いつか力に目覚めて、変われるのだと。
だが、大人になればなるほど、現状の身の程を痛いほど知った。
異能が無いから仕方ない。
そう、仕方ない。
正直疲れてしまった。
もう生きてる意味も最近は見い出せない。
命を諦め、断頭台に首を添えれば楽になれる。
今、目の前にいる魂獣は、そんな僕の願いを神様が叶えてくれたモノなんじゃないかなんて思ったりもする。
だから僕は、諦めて目を閉じる…。
25年も生きて結局意味はなかった。
彼女の1人でもいれば変わったのかな。
本当の父さん母さんが生きていたなら人生違ったのかな。
ああ、ああ、と僕は命をゆっくり手放す。
………………………………………
………………………………
……………………
ふと目の前に前社長の顔が現れる。
父親同然のその人は酷く悲しそうで、泣きそうで。
でも優しい顔で僕に言ってくれる。
「とりあえず、お前は俺を信じてくれればいい。」
!!
その瞬間心が暖かくなった。
そうだ、僕が生きて来れたのはあの人のおかげだ。
まだ、置いていかれたなんて分からないのに、先に信じることを諦めてどうする?
この人はいつも僕の苦しい時に支えてくれたじゃないか。
僕が先に諦めてどうする!
そう自分に言い聞かせるように。
――身体が熱い。
身体が動く。
直後、圧倒的な質量が真横を通り過ぎた。
コンクリートに突っ込んだ魂獣が見える。
あ、危なかった。
間一髪勘で避けられた。
余波で吹き飛ばされたが、片足でも人間動けるもんだと感心してしまう。
潰れた足はめちゃくちゃ痛いけど!
――身体が熱い。
あの突進がくれば、次は避けられない。
そう確信する。
魂獣が苛立ったようにこちらを睨んだ。
「グオォォオオオ!!」
雄叫びと共に魂獣の周りが発光し始め、重力場がさらに拡大する。
この一撃で仕留める気なんだろう。
「くそ、せっかく避けたのに範囲攻撃とかありかよ…。」
悪態をついてみるが効く訳もなく。
超重力場となった魂獣の周りは、紫に光り輝き、獲物を逃がさんと拡大を続ける。
目の前まで迫る、死の領域。
今度こそ僕はここまでなのか…。
――身体が熱い!
猪が放った死の超重力波が佐藤の肉体に触れた瞬間、なぜか「シュウウ……」とただのそよ風になって消え去った。
静まり返る血の海。
「な、にが?」
僕は何が何かわからない。
重力場が消え失せ驚いた魂獣は、姿勢を変え突進に切り替える。
再びバチバチと紫色に発光する魂獣。
迫り来る猪に向けて、咄嗟に手のひらを突き出した。
「ッ!〜〜〜〜〜!!」
そして
ーーシュウウウウ!!
猪の鼻先が佐藤の手に触れた瞬間、空間を支配していた重力異常が、完全に消失した。
それだけではない。
「ドゴォォオ!!!」
魂獣は自分の重力が何倍にもなって襲ってきたように、瞬間に潰れてしまった。
静寂。
潰れ、血だまりと化した魂獣を前に、僕は立ち尽くしていた。
身体を焼くような熱さが消えたと同時に、激しい頭痛と吐き気に襲われて嘔吐した。
「う、うぁ…あぁ」
足元に目をやると、自分の目を疑った。
潰れたはずの足が治っているのだ。
「なんなんだ、なんなんだよ!?」
異常な事態に頭が回らない。
足が治ってる?
魂獣が急に潰れた、なんで?
突進されたのになんで生きてるんだ?
その前にあの超重力場はなんで消えた?
考えても答えは出る訳もなく、さっきまで生きていた同僚たちの死体が目の前に広がる。
「……なん、で、僕だけが生きてるんだよ……」
唐突に襲ってきた圧倒的な孤独に僕は震えた。
「はやく、ここを離れない、と。」
焦り、喉が急に乾く。
警察を呼ぶとか、会社に報告とか、そんなものは頭から完全に抜け落ちている。
今はただ、その場からいち早く離れたい一心で、僕は逃げ帰った。




