第四話 ー圧倒的な死ー
ズシ……。ズシッ…。
次第に大きくなる足音。
不可視の圧力が増えている。
「皆、戦闘準備」
毛利の低く通る声で、隊員達はすぐさま戦闘態勢に移行する。
さすがに精鋭揃いのだけあって動きに無駄はない。
近付いてくる未知を前に、鋭い視線を送り続けている。
そして
「ズンッ!」
重い足音と共に現れたのは、巨大な猪。
完全に異能化した動物――『魂獣』だった。
「で、でけぇ」
大型トラック並の思わず見上げてしまうような体躯、鋭い4本の牙、発達した脚。
全てを蹂躙しようと凶器と化している。
だが得に異常なのはその背中だ。
隆起した筋肉の中に抉れるように機械が食い込んでいた。
何かの器具のようだが、赤黒く光っている。
「じょ、冗談だろ…」
こちらを一瞥した後、魂獣が咆哮する。
直後、魂獣を中心に資材置き場全体の「重力」が反転した。
「聞いてないぞ、ただの亜獣のはずだ!」
誰かの叫びと共に、戦闘員の1人が信じられないスピードで切り込む。
肉体強化系の異能だろうか?
「うおぉぉぉお!」
「おい!松崎!やめろ!!」
毛利の声は届かず、一瞬で魂獣との間が縮まった。
魂獣に刃が届こうとしたその瞬間。
「バキャッ」
耳を覆いたくなるような、骨が砕ける音と共に、地面にめり込んだ松崎隊員だったものは血溜まりに変わる。
「う、うわぁぁ!」
「何が起きたんだ!?」
パニックになった隊員たちは、次々と炎や電撃を飛ばし攻撃した。
しかし
異能の攻撃は、猪の重力障壁のようなものにねじ曲げられ、聞いた様子は無い。
「隊長!攻撃が効かねぇ!!」
「わかっている!もう一度攻撃を加えつつ、一旦距離を取るぞ!」
応の掛け声とともに、再度異能の攻撃が飛んだ瞬間
魂獣の重力場が紫色に発光した。
その瞬間
「ドオォォォォォン!」
さっきまで目の前にいた魂獣が、背後のコンクリートの壁に突っ込んでいた。
「は?」
「な、何が起こった…?」
隊長も予想外のことに、間抜けな声を出している。
「澤田と竹内は…。」
二人足りないことに気づく。
砂埃を上げた魂獣がゆっくりとこっちに向き直ると、背後の壁には二人分の人間だったものが肉塊となってへばりついていた。
「や、やばすぎるぜ!隊長!!」
「わかっている!!」
普通の魂獣と明らかに違いすぎる戦闘力に、パニックになる隊員。
なんなのだ、この個体は。普通の重力系異能を使う魂獣は、人を瞬時に潰すだけの出力は持てないはず。それにあの超速の突進。速い敵はさんざん見てきたが、これは次元が違う。
大技を連発するには、膨大なエネルギーが必要だ。
不可解なのはあの背中の機械だな。
あれが能力を底上げしている可能性が高いが…。
毛利は冷静に分析しながら機会をうかがう。
「背中の機械を狙え!能力を増大させているぞ!」
「了解!」
残った4人で、何としてでもここで食い止めねば!
そう強く決意し、肉薄していく隊長たち。
だけど
誰1人生き残れない。
勝てるはずがないと。
理由はわからないが、僕は腰が抜けたまま、非現実的な光景を前にそう強く思うのだった。
ーーー
その後、突入部隊は善戦すら許されず、ひとりまた一人と、クリートの壁に叩きつけられ、潰され、周りは血の海と化していた。
「ばか、な…」
ついに最後まで立っていた毛利も事切れる。
戦闘が始まってから1分も経っていない。
全滅だった。
しかし、一番後ろで怯えて縮こまっていた僕だけが、五体満足でポツンと生き残っていた。
「なんなんだよこれ…。」
理解が追いつかない。
これは現実なのか、はたまた悪い夢なのか。
圧倒的な死を前に、僕の体は動こうとしない。
「グオォォォォォオ!」
魂獣が吠える。
瞬間、僕の目は真っ黒な空を見ていた。
浮遊感と共に地面に叩きつけられる。
声にならない声が口から漏れる。
「ぐ、ぁ、あ」
痛い。
うまく息が出来ない。
でも、更に耐え難い鋭い痛みが足元から登ってくる。
「ぎゃぁぁああ!」
痛い!痛い痛い!
その場でのたうち回りながら足元に視線を移す。
見ればさっきの隊員のように、重力波により足が片方潰されている。
死ぬ。
そう強く思うと同時に魂獣の方を見る。
僕の視界に映ったのは、魂獣が最後の獲物を仕留めようと、ゆっくりこちらに狙いを定めている姿だった。
ああ、逃げられない。
僕はここで死ぬのか.....。
何十倍にも引き延ばされた意識の先で、魂獣の重力場が紫色に発光した。




