第九話 ー凜の情報ー
結局散々、どう社長室に入るか意見を交わしてもいい案は出なかったので、今日はここまでにしようということになった。
そしてC会議室を出る準備をしていた時
「佐藤さん。今更ですが、1週間前の事故は何があったんですか?」
凛が質問してくる。
「あー、あれは…ね…。」
思わず言葉につまる。
言いたくない訳では無いけど、隊員達が死ぬ瞬間を思い出してしまった。
「話辛いことを聞いてしまったようですみません。」
凛が気を遣ってくれている。
「だ、大丈夫だよ。ちょっとだけヤなことを思い出しただけだから。」
椅子に座り直し、気持ちを落ち着かせて、僕は正直に事故の真相を全て伝えた。
不思議と、凜には嘘をつきたくないと思ってしまう。
僕が一通り話し終わると、真剣な表情で聞いてくれていた凜が話す。
「やはり報道は事実ではありませんでしたか。」
「え?やはりって?」
予想外の反応で驚いてしまう。
「佐藤さん。私が会社に来ていなかったのはご存じですよね。父の失踪は不自然な点が多いですし、事件に巻き込まれたんじゃないかと思って、一人でいろいろと調べていたんです。」
そういえば、さっき一人で失踪について調べてるって言ってたな。
仁さんがいなくなってから半年ほどになる。
凜はその間一人で調べていたわけか。
「最初は異能災害を中心に調べました。父が関わった事件などを中心に。人を攫うだとか、神隠しとか、あったにはあったのですが、すべて犯人や魂獣は処理されて解決済みでしたし。特にめぼしい情報はなかったんです。そこで今度は異能災害関係なく、父と似たように失踪している人がいないか探してみました。」
現在行方不明届を出される人は生死を問わず、年間10万人程度だ。
そのうちの8割はすぐに見つかる。
後は異能災害によるもので、年間約2万人が行方不明者になるが、本当に見つからない人は5000人にも満たない。
凜はそんな中から父親の失踪と関係のありそうなものを探していたのだ。
「手掛かりを求めて、失踪者の関係者を調べたりしました。そこで不自然な失踪事件を発見したんです。偶然、私の異能で失踪関係者を直接調べているときに、異能暴走事故の報道内容を意図的に変えている記憶を見つけたんです。今回の鳳PMCのように、表向きに異能暴走事故とされているものは、実は他のPMCでもあったんです。」
5000人から見つけ出す行動力がすごすぎるし、凜が異能を使って調べたことなら間違いないだろう。
「報道の内容が意図的に変えられていたってそれってまずいんじゃないの?」
報道と真相が違うことを見て見ぬ振りした僕が言えることじゃないけど、今回のようなケースが他のPMCでもあったという事はかなり問題があるんじゃないか?
世間に混乱を起こさない為と銘打っていたけど、やっぱり今からでも警察に届け出るべきなのかな.....。
「そうですね。情報が操作されているのは確かに大問題です。特に佐藤さんにとっては…。でも私が伝えたいのはそこではなく、私が報道内容を意図的に変えている記憶を見つけた時、その記憶の中に気になるものを見つけたんです。
それは、他のPMCで異能暴走事故が起きる数か月前に、現場を仕切る人間の失踪事件が別で起こっているというものです。」
僕にとって大問題という箇所も気になるが、現場を仕切る人間が失踪するなんて、それは本当なのだろうか?
確かに、仁さんは社長でありながらも、現場の割り振りや、人員の選抜をよくしていたが....。
「調べていくうちに、過去に数件。大小様々なPMCで、役員や現場の指揮者などが失踪しています。件数こそ少ないですが、その後、異能暴走事故がほぼ確定で起きてます。そして漏れなく異能暴走事故の報道があったものは、記憶が操作された形跡があります。」
....それが本当だとしたら、かなり笑えなくなってくる。
嘘だと思いたいが、凜の異能は正確だ。
否定させてくれない。
「佐藤さん。あなたから直接事故の真相を聞いて確信を持てました。父は間違いなく事件に巻き込まれていて、そして巻き込んだものは報道を操作できる。ということは、かなり権力のある者で間違いないでしょう。」
大変なことになった。
社長室を調べている暇なんてないんじゃないか?
....いや、待ってくれ…。
僕は社長に真実を伝えている。
でも報道は全く違うものになっていた。
社長は僕や故人のために情報を伏せたのではなく.....真実を隠すため....?
「凜、さん....。僕、凜さん以外にも事故の真相を話した人がいるんだけど…。しゃ、社長なんだ。僕らの為に情報は伏せるって言ってくれてたけど、もしかして....…。」
その答えは僕が考えないようにしていた可能性を容赦なく突いてきた。
言葉に起こすたび、背筋が冷たくなるのを感じる。
「そうですね。間違いなく黒崎社長は黒で、私たちの敵側だと思っていいでしょう。だから社長室を調べたいんです。」
そしてさらに凜が続ける。
「佐藤さん。異能暴走事故とされる中で、報道が真実と違うことが、今まで公にならなかった理由をご存じですか?」
背中に冷たい汗がつたう。
「情報が操作された異能暴走事故で、過去数件の中、生存者は誰一人としていません。」
余計なことに巻き込まれたくなかっただけなのにどうして…。
「そして報道を操作するのなら、異能暴走事故は故意に起こされた可能性が高いです。事故に見せたい誰かが、真実を知っている可能性のある人間がいると分かれば、放っておくことはしないでしょう。」
「そう、真実を知りながら生存しているのは、佐藤さん。あなた一人なんです。」
僕の日常がまたもや崩れる音が聞こえた。




