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第十話 ー緊急事態ー

何が僕を消さないといけない可能性のある情報なんだろう。


先遣隊がいなかった件?

臨時で参加した使えない事務員がいたこと?

やっぱりあのでかい猪魂獣なのかな?


大変なことに巻き込まれてしまったという実感が湧かなさすぎて、意外にも落ち着いて考えていられる自分に驚きだ。


実際、命に係わる事が起きている訳でもないけど、それにしても僕ってこんなに危機感無かったっけ?


ある種の平和ボケをしているのだろうか。


「黒崎社長が何か隠していることは確定として、佐藤さんにこの一週間何も起こっていなくてよかったです。」


「・・・・」


僕がぼーっと考えている間に凜が話し出した。


「....…もしかしたら全部偶然起こったもので、私の勘違いが先行しているだけかもしれませんよ。」


ぼーっとしている姿が、思い詰めているように見えてしまっていたみたいだ。

凜が気を遣ってフォローをしてくれた。


「あ、ありがとう。流石に裏が取れまくっているから、勘違いじゃないと思うよ…。はぁ、これからどうしたらいいんだろう。」


会社を辞めて少し落ち着こうと考えていた矢先の急展開。

正直、無能力者の自分にどうこうできる範疇を超えているし、一人でこの状況に陥ってたら、人生やめてたかもしれない。


「佐藤さんは父との唯一の手掛かりですし、私ができる範囲サポートします。」


凜がいつもより凄みのある真顔で言う。


「あ、ありがとう。凜さんがいると心強いよ。」


本気でそう思う。

無能力者の僕からしたら、相手の心が読める能力者がいるだけで心の持ちようが違うってもんだ。


「私が佐藤さんを守ります。」


凜さんかっこいいです。

男として負けた気がしているけど、無能力者だから素直に守られます。

仕方ないよね。


かっこいい真顔の凜が使い終わったC会議室の鍵を取り、先に出ようとする。


「佐藤さん、色々聞いてしまいましたね。改めて、ありがとうございました。」


扉あたりで止まった凜が、お礼の言葉を言ってきた。


「僕こそありがとうだよ。自分の置かれてる状況が、凜さんのおかげで分かったから。」


僕も素直に感謝を伝える。

凜のおかげで最悪の状況からは脱したんじゃないだろうか?

凜の異能あってこそだ。


「それと父の事、大切に思っていただいて嬉しいです。」


人から感謝されるのに慣れてないせいか、ちょっとムズ痒い。


「僕は仁さんに返しきれない恩があるし、いっぱい救われたから。今度は僕の番だーって気合入れて頑張るよ。」


凜の方を見てそう言うと、少し微笑んでいるように見えた。

最初の怖い印象はだいぶ緩和されたし、結構普通に喋れたように思う。

この短時間で僕も成長したかな。


そう思いながら二人で部屋を出て鍵をかけようとする。


しかし、凜が鍵穴に刺し損ねて鍵を落としそうになった。

それを二人が同時に片手で掴もうとした、その瞬間。

凛の革手袋の手首の隙間――剥き出しの肌に、僕の指先が直接触れてしまった。


その瞬間、凛の異能『サイコメトリー』が発動する。


普段なら数日間の他人の記憶が流れる程度。

だが

佐藤に触れた瞬間、凜の脳内に流れ込んだのは、記憶ではなく何もない空間に広がる一つの「巨大な白いブラックホール」だった。

眼下に広がるそれに、ゆっくりと落ちていく感覚。

幻想的とも思える光景だが、中心に近づく瞬間、凜を襲ったのは「天文学的な質量の地獄」だった。

叩きつけるのは、無数の人の記憶。人間が肉体を焼かれ、魂を引き剥がされる瞬間の絶叫。呪詛。怨嗟。

それら「爆発的なイメージ」が、直接脳内に刻まれる感覚。


「うあ、あ、ああああああ……ッ!!!」


凜は体ををガタガタと鳴らし、白目を剥いて叫ぶ。脳の処理能力を遥かに超えた精神負荷。


接触からわずか2秒後、凛は激しく鼻血を流しながら、持っていた佐藤の引継ぎ資料を血で汚し、そのまま佐藤の胸元へと崩れ落ちて気絶した。


「えっ!? う、うわぁ!、凜さん!? ひぃっ、血……! な、なんで!? やばい!!」

涙目になりながら、気絶した凜を抱きかかえ、完全にパニックになる僕。


な、なにが起きたんだ!?

ゆすっても起きないし、顔が蒼白だ。

は、早く救急車呼ばないと!


近くにいる人に、自分でも驚くような大きな声で助けを呼びながら、僕は救急車が来るまで凜を抱きかかえていた。



ーーー


「あー俺だ。なんだ。」

・・・

「佐藤と桐生院が病院に運ばれた?どういうことだ。」

・・・

「ほう、桐生院が突如倒れたとな。あの警戒心の塊のような女が珍しい。」

・・・

「そうだな、これは好機だな。あの女の異能は厄介極まりない。目が覚める前にお前の方で何とかなるだろう。」

・・・

「それと、佐藤もついでに処分しておくんだ。桐生院が何かと目を光らせていたからな、手が出しにくくてな。一週間も延命させてしまったよ。」

・・・

「ああ、お前の得意分野だろう。手際よく頼んだよ。」

・・・

「あーそれと、今回の佐藤の方は上からの重要依頼でね。早急に排除してくれとのお達しだ。なんでも実験での初の生存者だそうでな、信じられるか?あの失魂野郎がプロジェクト初の生存者だそうだ。上も情報が洩れるんじゃないかと相当焦っているようでね、これ以上生きていられると私の立場が危ういのだよ。」

・・・

「では、頼んだよ。」



「これでやっとこの会社が本当の意味で私のものになる。これで私も役員への昇格が近くなるな。ハハハ…上々上々。桐生院 仁よ、お前の守ってきたものを全て、この私が壊してやろう。全てな.....。」


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