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第22話 不吉の予兆

翌日――


優里たちは街の外れに位置する《クルム・ダンジョン》へと足を運んでいた。


ダンジョン周辺は、すでに一つの小さな街のように発展している。

武具屋、防具屋、回復薬を扱う露店、さらには宿泊用のテントや保存食まで――


あらゆる準備を整えるための店が軒を連ねていた。


「聞いていた以上に、賑わっていますね」


テルマが優里の肩に手を置いたまま、周囲を見渡す。


「それだけ価値のあるダンジョンってことだね」


優里は静かに頷いた。


視線を巡らせると、周囲の冒険者たちもまたこちらを見ている。


「おい見ろよ、あの黒い鎧……」

「隣の女、相当な腕だぞ」

「真ん中のガキ、仮面つけてるぞ。怪しすぎるだろ……」


(……悪くない反応だけど、少し目立ちすぎかな)


内心で苦笑する。


その時、デュークが低い声で口を開いた。


「主殿。このダンジョンは各階層が広く、内部での宿泊が一般的とのことです」


「うん、分かってる」


優里は頷く。


「僕たちは転移で戻れるけど、それに頼りすぎるのも良くない。念のため、通常の探索装備も揃えておこう」


三人は店を回り、必要な物資を手早く買い揃えていく。


そして――


人気の少ない路地へ入り、荷物をアイテムボックスへと収納した。


「これで準備は問題なさそうだね」


軽く手を払う。


「それじゃ、入口に――」


――ガシャッ!!


突如、金属がぶつかるような激しい音が響いた。


優里たちは顔を見合わせ、すぐに音のした方へ向かう。


そこでは――


「おい! 何でねぇんだよ!?」


フードを被った男が、店主の胸ぐらを掴み上げていた。


背中には不釣り合いなほど大きな包み。


それを背負ったまま、乱暴に動いているにも関わらず――


(……息一つ乱れていない)


優里の目が細くなる。


(相当鍛えてる……それに――)


わずかな違和感。


“ただの冒険者”ではない何か。


周囲の人々もざわついていた。


「止めるか……?」

「でも、あいつ……只者じゃないぞ」


躊躇い。


空気が張り詰める。


その中で、優里は一歩前へ出た。


「あの、そこのフードの人」


「ああ?」


男の視線が鋭く向けられる。


「その人を放してあげてください」


静かな声音だった。


だが、確かな意思が宿っている。


「オレ様に命令してんのか?」


「いいえ。ただ――」


優里は淡々と続ける。


「その行為は、周囲にも迷惑です」


一瞬の沈黙。


「テメェ……オレ様が誰だか分かって言ってんのか?」


「分かるはずないでしょう」


即答だった。


「顔を隠している人のことなんて」


一拍置く。


「仮に高名な方なら、なおさら恥になる行動は控えるべきです」


空気が凍る。


「主殿のお言葉は尤もだ」


デュークが一歩前に出る。


「それで名が通るなら、むしろ恐ろしい」


「さっさと手を放せ」


テルマも睨みつけた。


「その程度の判断もできないのか?」


「……テメェら……!」


男の殺気が一気に膨れ上がる。


背中の包みに手が伸びた――その瞬間。


『――落ち着いてください』


電子のような無機質な声。


それは、男の耳元でのみ響いていた。


『ここで騒ぎを起こせば、“計画”に支障が出ます』


男の動きが止まる。


『それに――それを使えば、あなたの祖国にも知れ渡ります』


沈黙。


舌打ち。


そして――


男はゆっくりと手を離した。


「……チッ」


店主を突き放す。


「時間の無駄だ」


優里の横を通り過ぎながら、低く吐き捨てた。


「覚えてろ……人間族風情が」


そのまま、群衆の中へ消えていく。


(……今のは)


優里の視線がわずかに揺れる。


(途中で“止められた”……?)


明らかに不自然だった。


だが――


「大丈夫ですか?」


優里はすぐに店主へ手を差し伸べる。


「あ、ああ……助かりました……」


男は震える手でそれを取った。


――


やがて三人は列に並び、


《クルム・ダンジョン》の入口へと辿り着く。


巨大な門。


その奥に広がる未知の領域。


だが――


優里の意識は、先ほどの出来事に残っていた。


(それにしても、さっきの男の様子。アレは何だったんだろう……?)


静かに、思考が巡る。


そして。


まだ誰も気づいていない。


このクルムの街で――


確かに何かが、動き始めていることに。

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