第23話 ダンジョンの世界、そして……
優里、デューク、テルマの三人は、
《クルム・ダンジョン》の門を潜り――地下へと続く巨大な階段を降りていく。
足音が、石壁に反響する。
やがて視界が開けた先で、テルマがぽつりと呟いた。
「……やっぱり、不思議ですね」
「何がだ?」
「ダンジョンです。世界中にあって、場所ごとに形も規模も違うなんて」
その言葉に、デュークも静かに頷く。
「このクルムのものは、特に広大だと聞きますな」
優里は少し考え、口を開いた。
「僕も詳しいわけじゃないけど――」
視線を前へ向けたまま続ける。
「ダンジョンの謎を解くには、“コア”の解析が必要らしい」
「コア……」
テルマが小さく復唱する。
「最下層に存在する、心臓部みたいなものだよ」
優里の声は淡々としていた。
「それがある限り、モンスターは何度でも湧くし、壊れた地形も元に戻る」
「つまり……」
「下へ行くほど、コアの影響は強くなる」
一拍置く。
「環境も、出てくるモンスターも、全部が変わっていく」
デュークが低く唸る。
「まるで、生きているかのようですな」
「実際、そう考えてる研究者もいるみたいだよ」
優里は苦笑した。
「“神の試練”とか、“古代遺跡の暴走”とか……色々説はあるけど」
「カグヤでも解明できていない、と」
「うん」
短く頷く。
「だからこそ、面白い」
――その時。
三人の視界が、一気に開けた。
青空。
揺れる木々。
そして、穏やかに草を食むモンスターの群れ。
「……すごい」
思わず、優里の口から感嘆が漏れる。
「外と、変わらない……」
「主殿」
だがデュークはすぐに現実へ引き戻す。
「任務をお忘れなく。我々の目的は――」
「分かってるよ」
優里は軽く笑った。
「ダンジョンで功績を積んで、冒険者ランクを上げる」
視線が鋭くなる。
「それが、《冒険者計画》の第一段階だ」
テルマが頷く。
「では、進みましょう」
「うん。時間も無駄にできない」
三人は、次のフロアへ向けて歩き出した。
――
その頃。
同じ第一層の、別の森。
「チッ……!」
鈍い音とともに、ホブゴブリンの首が飛ぶ。
血が舞う。
「クソが……クソが……!!」
フードの男は、怒りのままに斧を振るっていた。
背中の包みはすでに破れ――
現れたのは、巨大な戦斧。
中央には、禍々しい赤い宝石が埋め込まれている。
振るうたびに、空気が歪む。
「何が“放してやれ”だ……!」
一体、また一体。
ホブゴブリンが蹂躙されていく。
やがて――
静寂。
血の匂いだけが残った。
フードが落ち、素顔が露わになる。
額には角。
背後には、鱗に覆われた尾。
「……オレ様を誰だと思ってやがる!?」
吐き捨てる。
「オレ様は、ガートランド帝国最強――“竜の騎士団”」
「その最年少入団者……!」
歪んだ笑み。
「《星契者》の血を引き、未来の英雄となる!
竜人族のレオン様だぞ!!」
その瞬間――
『落ち着いてください、レオン殿』
無機質な声が、耳元で響いた。
レオンは舌打ちする。
「うるせぇ」
『目的をお忘れなく。第四層のオーガ討伐――それが任務です』
「分かってるっつってんだろ!!」
斧を地面に叩きつける。
「だがな……」
声が低くなる。
「人間族ごときにコケにされて、黙ってられるかよ。《星契者》の血を持つこのオレ様が!」
その目には、明確な殺意が宿っていた。
「……すべては、このレベルのせいだ!」
空中に、ステータスが浮かぶ。
――レオン
LV:2000
『十分に高い数値です』
「ふざけんな」
即答だった。
「将来“英雄”になるオレ様が、2000程度でレベルが止まっていいはずがねぇ」
沈黙。
そして、低く呟く。
「限界を……壊せばいい」
空気が変わる。
『……そのための研究です』
声の主が、わずかに笑った気配。
『我々は同志。互いの目的のために協力しているだけです』
レオンは鼻で笑う。
(……胡散臭ぇ野郎だ)
だが――
(使えるなら、それでいい)
斧を肩に担ぐ。
「いいか。さっさと結果を出せ」
「オレ様は――」
口元が歪む。
「“あいつら”を、踏み潰すためにここにいるんだからな」
森の奥へと、歩き出す。
――その背後で。
誰もいないはずの空間に、微かな魔力の揺らぎが残っていた。




