再会
季節は冬になり、帝国の町は一面銀色に染まった。
しんしんと降り積もる雪の中、銀色の世界に溶け込むように銀色の髪を靡かせ、桃色の手袋で赤く染った頬を包み、雪道に足跡を残すバルシア大帝国第一皇女。
「ルーク、寒くないですか?」
_____全然寒くないよぉ〜僕の毛皮は暖かいからね〜!
ルークが正式に皇宮に住み始めてから3ヶ月。真っ黒だった毛並みは今ではルティシアとお揃いの銀色に染まり、その姿は最初にルティシアが見た姿と同じだった。
なぜ黒い毛並みの姿の時、ルークは元気がなかったのか。なぜ色が変わったのか。なんとなく、まだ聞いてはいけない気がして、ルティシアはその疑問をそっと心の奥にしまった。
きっといつか、ルークから話してくれる。そう信じて。
「ルティシア様、聖獣様。そろそろ宮廷の方へお戻りの時間です。」
_____ええ〜もうそんな時間なの!
「聖獣様。ルティシア様が風邪ひかないように、室内の遊びに切り替えましょう。」
_____ん〜ルティーのためなら仕方ないかぁ
アンナとルークのやり取りにルティシアは目を見開いた。
「アンナ、ルークの言っていることがわかるのですか?」
「いいえ。ただ、聖獣様は感情が尻尾に出やすいので、あくまでも勘です。」
「アンナすごいですね。確かにルークは分かりやすくてとても可愛らしいです。」
ふふ、と思わず笑うルティシアを、雪の妖精ではないかと真剣に考え込むアンナ。そんなアンナの考えを知る由もなく、ルティシアはルークを優しく撫でた。
ルティシアに撫でられるのが大好きなルークはそれはそれは分かりやすく大きく尻尾を振り出した。
「もうそろそろ戻りましょうか。今日はお客様がいらっしゃるのですよね。」
「はい。スチュワード公爵及びそのご子息がいらっしゃいます。」
スチュワード公爵家。前回の誘拐事件で一度会った以来。あれからは度々ルカージュと手紙のやり取りをしているルティシア。
今日はどうやら、仕事の要件で来ているらしいが、せっかくだからとダイアナがお茶会をセッティングし、ルティシアも含めお茶をすることになった。
部屋に戻り、少し冷えてしまった体を温め、アンナの手入れによって肌の乾燥は免れた。6歳にしては落ち着いた雰囲気にどこか大人びた顔立ち。アンナは仕上がったルティシアを見て満足気に頷く。
「お茶会には第一皇太子様もご参加の予定です。」
「エドリックお兄様も?人数が増えて賑やかになりますね。ルークはどう………」
「あらま」
雪の中はしゃぎすぎたのか、ルークはルティシアの布団の下で丸まって眠っていた。
そんな様子に、ルティシアとアンナは顔を合わせクスクスと笑う。
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「本日は貴重なお時間と場を設けていただき感謝致します。皇后殿下、第一皇子殿下、第一皇女殿下。」
肩で切り揃えられた黒髪に翡翠色の鋭い瞳。冷たい表情と裏腹に、その声は思ったより柔らかく落ち着く低音だった。
そして、その隣に並ぶは同じく黒い髪を一つ縛りにした翡翠色の瞳を持つ少年。ルカージュ・スチュワード。
「前回の件で忙しくなったのは陛下からも聞いているわ。今日のお茶会は気休めだと思っていただけたらと思ってね。それに…」
ダイアナの目線はルカージュへと移る。
「ルティシアと仲良くしてくれて嬉しいわ。まだ社交界デビューしていないから、エドリック達以外に歳近い子と交流がないのよ。」
ルカージュは少し緊張しながらも、頭を下げた。
「皇女殿下に救われた身です。感謝や尊敬をいくら伝えても足りません。」
「ふふ、そんなに畏まらなくていいわよ。ルティシアとも、これから仲良くしてくれると嬉しいわ。そうでしょう、ルティー。」
はっ、とダイアナに声をかけられ、我に返るルティシア。
久しぶりに再開したルカージュは相変わらず美しい顔立ちで、最初の頃もそうだが、ルティシアはまたもや見とれてしまった。
手紙のやりとりしか出来ていなかった相手と、ようやくまた再会できたこと。前回の切羽詰まった空間ではなく、ようやくゆっくりお話ができそうなこと。ルティシアは嬉しそうにはにかんだ。
「またお会いできて嬉しいです。ご迷惑でなければ、ルカージュ様とは仲良くしたいと思っています。」
「!も、勿体なきお言葉です…」
少し照れながらも笑い合うふたり。あらまあ、と頬を染め見守るダイアナ。
「そういえば、エドリックお兄様も参加されると聞いたのですが…」
「もう少ししたら来ると思うわ。そうだ、せっかくならルティー。温室を案内してあげたらどうかしら?」
「温室、ですか?」
「ええ。うちの庭師が冬でも美しい花々を見れるようにと育ててくれた花が沢山あるわ。ルカージュくんはお花は好きかしら?」
「はい。母が生け花を趣味としているので、興味は持っています。」
「まあとてもわかるわ。リナの生け花は素敵よね〜。またお茶会しましょう、って伝えてもらえるかしら。」
「はい。きっと喜びになられます。」
ダイアナはどうやらスチュワード公爵夫人であるリナ・スチュワードとも親しいようだ。
ダイアナとスチュワード公爵に見送られ、2人は温室へと向かった。お茶会していた場所から少し離れてはいるが、室内で渡り廊下続きのため、寒い中移動しなくて済む。
「皇女殿下、最近はいかがお過ごしですか。」
「もうすぐお披露目デビューなので、ドレスや式の準備で少しバタバタしていました。ルカージュ様はどうですか?」
「ご存知かと思いますが、皇太子殿下のお側に仕えるために日々精進しております。まだまだ力不足ですが」
他愛ない会話をしながら歩く2人。いつもより静かな廊下が緊張を加速させる。
初対面の場があまりにもカオスで、逆にいまこの対面で何から話せばいいか、2人ともわからなかった。
ルティシアは緊張と、やはり整った顔立ちに目のやり場に困っているという気持ちもなくはない。あんなにもう一度お話できたらと思っていたのに、いざ対面すれば言葉も出てこない。
「その、よろしければ、ルカと呼んでいただけたら。」
「…へ、」
少し照れながらも、微笑みながらそう伝えてくれたルカージュ。ルティシアは思わず固まってしまった。
足を止めたルティシアにルカージュも一緒に止まった。
「あ、えっと…る、ルカ…様…」
照れながらそう呼ぶと、ルカージュは甘い笑みを浮かべた。
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