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エピソード80 二つの記録

朝は人の声から始まったのではなかった。


最初に聞こえたのは水の音だ。


橋の下流で、石の間を静かに流れていた。


それから一台目の荷車の車輪が軋んだ。


ヴァルンが荷台に手をかけ、昨日結び直した革紐を確認していた。


オリヤは二台目の荷車のそばに座っていた。


夜明け前から目が覚めていた。


だが、すぐには立ち上がらなかった。


夜の間、何度も誰かがまた街道を歩いてくるような気がした。


今は道に誰もいない。


少なくとも、野営地から見える範囲には。


負傷したダークエルフの衛兵は、二台目の荷台に敷いた布の上に横たわっていた。


傷ついた脚は少し高くしてある。


包帯は黒ずんでいたが、血が染み出す勢いはもう弱まっていた。


オリヤは立ち上がり、荷台の縁に腰を下ろした。


「具合はどう?」


衛兵が目を開けた。


「短く答えていいか?」


「できれば正直に」


「痛い」


「よかった」


彼が顔を向けた。


「何がいいんだ?」


「まだ私に文句を言えることよ」


衛兵は笑おうとした。


だが、うまくいかなかった。


オリヤは彼の肩の下に敷いた布を直した。


「ラリオンに着いたら、ちゃんと診てもらえる」


「今は?」


「今は、そこまで連れて帰る」


彼は目を閉じた。


オリヤはもう少しそばに座っていた。


それから立ち上がった。


セイガは街道より少し高い岩の張り出しに立っていた。


そこからは橋へ続く道が見渡せた。


ヴァルンからもセイガの姿が見える。


一台目のそばにいる人間族の衛兵からも同じだった。


セイガが降りてきた時、ヴァルンはちょうど最後の結び目を締めていた。


「何かあったか?」


「新しい動きは見えなかった」


「なら、出発できるか?」


「次の曲がり角までは」


ヴァルンが頷いた。


「また同じ答えだな」


「確かめたのが、そこまでだからな」


オリヤは一台目の荷車へ近づいた。


その荷台には、死んだ衛兵が布を掛けられて横たわっていた。


彼女は一瞬だけ覆いの端に触れた。


それから、縄が緩んでいないか確認した。


二台目には、袋から離して襲撃者の遺体が積まれていた。


その外套は縄で縛られている。


オリヤがヴァルンを見た。


「二人とも?」


「二人とも、しっかり固定してある」


「負傷者は?」


「できるだけ揺らさないようにする」


セイガが近づいてきた。


「急がずに行く」


オリヤが彼を見る。


「また前に誰かいたら?」


「見つけたら止める。荷車の間を詰めすぎるな」


オリヤは二台の間を見た。


それから頷いた。


荷車が動き出した頃には、太陽はもう低い斜面の上へ昇っていた。


一台目はヴァルンが進ませる。


二台目はオリヤ。


負傷者は荷台に横たわり、折り畳んだ外套を肩の下に入れていた。


傷ついた脚は、支えたまま伸ばしてある。


もう一人のダークエルフの衛兵がそばを歩いている。


生き残った人間族の衛兵は一台目についていた。


セイガは先を進んでいた。


開けた場所では、その姿がはっきり見えた。


曲がり角では少し高いところへ上がり、一台目が近づくまで待った。


最初に足を止めた理由は、襲撃ではなかった。


二台目の後ろの革紐が、ひびの入った板の縁に擦れ始めていた。


そばを歩いていたダークエルフの衛兵が気づいた。


「止まれ」


オリヤが手綱を引く。


一台目も止まった。


ヴァルンが人間族の衛兵に馬を任せ、戻ってくる。


「今度は何?」


「このままもう少し進めば、荷物の一部を道に落とすことになる」


オリヤは下を見た。


「少なくとも、お金じゃないわね」


ヴァルンは笑わなかった。


彼女も笑わなかった。


オリヤは手綱を留めて降りた。


二人で革紐の位置を変えた。


木の縁でまた擦り切れないよう、間に折り畳んだ布を挟んだ。


作業には数分かかった。


終わると、ヴァルンはもう一度車輪を確認した。


「緩んでない」


オリヤが小さく答えた。


「昨日もそれを聞いたわ」


ヴァルンは身体を起こした。


「昨日も、車輪はもっただろ」


そう言って、一台目の荷車へ戻っていった。


*


ラリオンに着いたのは午後だった。


オリヤは門が見えるより先に、街道の景色で帰ってきたことが分かった。


やがて屋根が見えた。


城壁。


そして、交易用の荷車が普段検査を待つ、見慣れた場所。


門には衛兵が二人立っていた。


一人が前へ出る。


「ヴェルシャインからか?」


「そうよ」


オリヤが答えた。


衛兵はすでに破れた覆いを見ていた。


次に、二台目の荷台で脚を伸ばして横たわるダークエルフを見る。


「何があった?」


オリヤは目をそらさなかった。


「襲撃よ」


男は一台目へ視線を移した。


掛けられた布へ。


そこでようやく理解した。


「何人だ?」


「一人死んだ」


彼女は二台目を示した。


「一人負傷」


それから荷車の後部を指した。


「そこにも一人いる」


「誰だ?」


「襲撃者」


衛兵は数秒黙った。


「ランゼを呼んでくる」


セイガが止めた。


「先に通路を開けてくれ」


衛兵は負傷者を見た。


道を空け、もう一人にランゼを呼ぶよう頼んだ。


ランゼが来た時、一台目の荷車はすでに端の上屋の下へ入っていた。


盾は背中に掛けている。


オリヤを見つけると、まず二台の荷車を見た。


次に、生きて帰った六人を。


彼の視線は布を掛けられた遺体で止まった。


「誰だ?」


一台目のそばにいた人間族の衛兵が頭を下げた。


ランゼが近づいた。


布の端を持ち上げる。


数秒、動きを止めた。


それから慎重に元へ戻した。


「分かった」


一歩下がる。


「まず負傷者だ」


オリヤが頷いた。


「手当てが必要なの」


「すぐに手配する」


ランゼは門からついてきた衛兵へ向き直った。


「傷の手当てができる者を呼んでこい」


それから二台目の後部を示した。


「それには、まだ誰も近づけるな」


ヴァルンが一台目のそばから来た。


「俺たちの仲間は?」


ランゼは布を見た。


「別に運ぶ」


もう一度、一台目へ視線を止めた。


「家族への知らせは俺が行く」


オリヤはようやく手綱を離した。


手が震えていた。


彼女は指を開いた。


その手を背中に隠そうとはしなかった。


負傷者は雨の当たらない上屋の下へ運ばれた。


ほどなくして、包帯と清潔な布を持った人間族の女がやってきた。


彼女は古い包帯を切り開いた。


傷を調べる。


そして衛兵に足先を動かすよう頼んだ。


衛兵は試した。


痛みに身体が震える。


「動く」


「見えてるわ」


女が答えた。


「でも、しばらく歩いては駄目」


「長くかかる?」


「分からない」


彼女は清潔な布を当て始めた。


「まずは出血が再開しないことと、傷が悪化しないことが大事よ」


オリヤは横に立っていた。


「布で押さえていたわ」


女が頷いた。


「それだけでもしておいてよかった」


清潔な水を持ってくるよう頼んだ。


ランゼは、女を呼んできた衛兵をその場に残し、必要な物を渡す手伝いをさせた。


負傷者はまた身体を起こそうとした。


女が彼の肩に手を置いた。


「どこへ行くつもり?」


「荷車がどうなったか見ようと思って」


「荷車は待ってくれるわ」


衛兵は不満そうに息を吐いた。


だが、横になったままでいた。


*


負傷者の手当てが続く間に、サルマが二台目の荷車へやってきた。


彼女は商品の話から始めなかった。


まずオリヤの話を聞いた。


それから傷んだ荷車を見た。


二人は上屋の柱のそばにある机へ寄った。


「記録は持ち帰った?」


オリヤが頷いた。


折り畳んだ書類を取り出す。


「ええ」


サルマはそれを受け取った。


関所の印章を確認する。


開いた。


オリヤはもう一枚、別の紙を差し出した。


「それと、カイサからあなたに」


サルマが受け取る。


「向こうが出せる品物と数、それに今の値段。返事はまだしてない」


「分かった。これは別に見ておく」


サルマはその紙を売却記録と分けた。


「全部は買ってもらえなかった」


オリヤが言った。


「見れば分かる」


「それに、お金も全部は持ち帰れなかった」


サルマが顔を上げた。


「いくら奪われた?」


オリヤは盗まれた木箱に入っていた金額を答えた。


それから、手元に残っている金額も伝えた。


残った金を布の上に出す。


二人で数え、売却記録と照らし合わせた。


サルマはヴェルシャインの書類を机に置いた。


「持ち帰った商品は?」


オリヤが二台目を示した。


「あそこ」


「全部?」


「商品は何も取られてない」


サルマは切り裂かれた覆いへ近づいた。


ヴァルンはすでに、その革紐を締め直していた。


彼女はひびの入った板を見た。


それからオリヤへ視線を戻す。


「これも修理が必要ね」


「そう」


「道中の費用だって消えたわけじゃない」


オリヤは眉間をこすった。


「商品は売れたのに」


「売れたわ」


サルマは机へ戻った。


隣に白紙を置く。


「でも、今回の旅が町にいくらもたらしたかは、まだ言えない」


「記録には金額があるでしょう」


「あるわ」


彼女はヴェルシャインの書類に触れた。


「ただし、その金額がそのまま持ち帰れたわけじゃない」


オリヤは一台目を見た。


「失ったものも、お金だけじゃない」


サルマは一瞬黙った。


それから白紙を手元へ引き寄せた。


「分けて計算する」


「何を売ったか」


「何を持ち帰ったか」


「何に費用がかかったか」


「そして、襲撃者に何を奪われたか」


オリヤが疲れた笑みを浮かべた。


「書記にはいい日ね」


サルマは布を掛けられた一台目を見た。


「記録することは増えたわね」


オリヤはもう冗談を言わなかった。


エンナが白紙を持って上屋へやってきた。


右手はまだ左手ほど自由に動かなかった。


彼女は硯で紙の端を押さえた。


左手でペンを持ち直す。


オリヤを見る。


「最初から、何があったか話して」


オリヤが頷いた。


「橋の手前に手押し車が置かれていた」


「セイガが退くよう合図した」


「二台目を下がらせる前に、矢が飛んできたの」


セイガはそばに立っていた。


「右の斜面に二人」


「左から三人出てきた」


「後ろにも二人現れた」


エンナはすぐ人数を確かめた。


「七人?」


「俺たちが見た範囲ではな」


エンナが書き留めた。


少なくとも七人。


それまで黙っていたヴァルンが、紙の端を指した。


「手押し車が道を塞いでいた」


「脇へどけたのは戦闘が終わってからだ」


エンナが頷いた。


「二台目の荷車は?」


オリヤは鞄に手を置いた。


「最初に来た男が座席の下を探った」


「でも、私が鞄を抱え直したのを見て、こっちへ来た」


「セイガが止めたのは、その男」


エンナが顔を上げた。


「木箱を奪ったのは?」


「別の男。槍を持ってた」


「あとから荷物をどけて、箱を取り出した」


「それを、斜面へ退いていた仲間に投げた」


エンナは書き続けた。


オリヤが黙った。


セイガが彼女を見る。


「それから?」


「それから、あいつらは書類のことを叫んだ」


エンナが顔を上げた。


「木箱を手に入れた後に?」


「そう」


オリヤは、二台目のそばにいた男が自分へ向き直った時のことを思い出した。


「今度は、その槍の男が鞄を狙ってきた」


「セイガが止めてくれた」


エンナは数秒、記録を見つめた。


「つまり、木箱はもう奪っていた」


「ええ」


「それでも襲撃は終わらなかった」


セイガが頷いた。


「退き始めていたが、それでもオリヤのところへ行こうとしていた」


エンナが一行を書き足した。


「鞄に書類があると、最初から知っていた?」


オリヤは首を振った。


「分からない」


「叫んだ言葉は覚えてる?」


「書類」


「そう叫んだの」


エンナはその言葉をそのまま記録した。


それからセイガを見上げた。


「あなたも聞いた?」


「ああ」


彼女はペンを置いた。


「なら、順序は分かった」


「木箱を奪った」


「それでも書類を狙い続けた」


オリヤは自分の鞄を見た。


「お金だけじゃ足りなかったのね」


「かもしれない」


エンナが答えた。


「あるいは、最初からお金が主な目的ではなかったのかも」


サルマは少し離れたところで、ヴェルシャインの書類を持っていた。


「それで、誰がこんな襲撃を?」


セイガは首を振った。


「分からない」


エンナが再びペンを取った。


「そこは、未確認と記録する」


*


襲撃者の遺体は、衛兵の詰め所の中庭に近い、鍵の掛かる部屋へ運ばれた。


交易用の上屋の下ではない。


死んだ衛兵の隣でもない。


仲間の遺体は、先に別の上屋へ移されていた。


縄と外套を外す際、ランゼは戻った二人の衛兵を立ち会わせた。


セイガは戦闘後に遺体が残されていた場所を伝えた。


ヴァルンは商品とは分けて運んだことを確認した。


エンナは衣服の状態を書き留めた。


街道ですでに調べたことも。


そして、見つからなかったものも。


紋章はない。


所属を示す印もない。


手紙もない。


机には、数枚の硬貨と短剣、縄を並べた。


街道でセイガが確認した所持品だった。


ランゼはそのそばに立っていた。


「見覚えはないか?」


セイガは首を振った。


「ない」


ランゼは旅用の外套の端をつかんだ。


それから手を離した。


「レヴェンガルドか?」


「可能性はある」


「だが、レヴェンガルドだと示すものは何もない」


ランゼはセイガを見た。


「なら、あいつらについて何が分かってる?」


「合図に従って退いた」


「負傷者は連れていった」


「こいつの遺体は、撤退する時に置いていった」


ランゼは死んだ襲撃者を見た。


「つまり、一人を失う覚悟はあったわけか」


セイガは少し黙った。


「少なくとも、こいつを取りに戻らないと決めた」


ランゼが頷いた。


それからエンナへ向き直る。


「証拠のない国を、犯人として記録するな」


「分かってる」


彼は机に置かれた外套を見た。


「それと、町の誰かにこいつを見た覚えがないか確かめてくれ」


エンナは紙へ目を落とした。


もう一行を書き加えた。


交易場の机へ戻ってしばらくすると、ショーンゴが来た。


サルマはすでに最初の取引の数字をまとめていた。


エンナは証言の記録を終えようとしていた。


机の上にはヴェルシャインの書類があった。


その隣にはラリオン側の別の紙が並んでいる。


ショーンゴは机のそばで足を止めた。


「取引は?」


サルマが印章のある書類を差し出した。


「成立した」


「ただし、すべての商品が買い取られたわけじゃない」


彼女は売れ残った品目を示した。


ショーンゴが頷く。


「金は?」


「帰り道で一部を奪われた」


彼は別の計算書を見た。


「収支は?」


「まだ全部はまとめられていない」


サルマは自分の紙を彼の方へ寄せた。


「売上はある」


「でも、費用と奪われた金、それに荷車の損傷も計算に入れないといけない」


「なら、計算してくれ」


ショーンゴはランゼへ視線を移した。


彼は少し離れたところに立っていた。


「人は?」


「一人死亡」


「もう一人負傷」


ショーンゴは数秒黙った。


視線は、一台目の荷車が置かれた上屋の端に留まった。


「家族にはもう伝えたか?」


「まだだ。俺が直接伝える」


ランゼが答えた。


「名前はすでに衛兵の記録に入れてある」


ショーンゴが頷いた。


それから尋ねた。


「また二台を出すなら、護衛は何人つけられる?」


ランゼが彼を見る。


「明日か?」


「仮に明日だとしても」


「それなら、どこか一方向の守りを薄くするか、まだ準備のできていない者を出すしかない」


「なら、明日は行かない」


サルマが顔を上げた。


「交易は?」


「続ける」


ショーンゴはヴェルシャインの記録に触れた。


「今回は、何が売れたか分かった」


それから机の端に手を置いた。


「だが、次も同じやり方で帰ってくるつもりはない」


セイガは少し離れたところに立っていた。


「それに、あいつらが俺たちについてどこまで知っていたかも分からない」


ショーンゴがセイガを見た。


エンナが証言を記した紙を差し出した。


「金を奪ったあとも、書類を探し続けていた」


ショーンゴは数行を読んだ。


「少なくとも、金を奪って終わりにはしなかった」


「ああ」


セイガが答えた。


「だが、誰が送り込んだのかは分からない」


ショーンゴは紙をエンナへ返した。


「なら、そこから始めよう」


ランゼは机の上に粗い街道の略図を広げた。


新しい地図ではない。


荷車が通った、すでに知られている道筋だ。


彼は橋を指した。


「隊商が止められたのはここだ」


次に、ラリオンに近い道を示した。


「ここなら、町の守りを空にせずに接近路を確認できる」


ヴァルンは略図を見た。


「その間は?」


ランゼは首を振った。


「街道全体に常時人を配置することはできない」


サルマが腕を組んだ。


「町の周りにも人手が必要だからね」


オリヤが近づいてきた。


橋の印を長く見つめる。


「ここにはもう一つ問題がある」


ランゼが彼女へ向き直った。


「何だ?」


オリヤは橋の手前の道に指を置いた。


「そこでは二台並んで通れない」


「それは分かってる」


ヴァルンが言った。


「でも、橋そのものの話じゃない」


彼女は指を少し手前へ滑らせた。


「橋の前に、あの手押し車が置かれていた」


「あなたが先で止まった」


オリヤはヴァルンを見た。


「私はもう、その後ろにいた」


彼女は再び略図へ目を戻した。


「あそこでは、二台目をその場で方向転換させる場所がほとんどなかった」


「あなたは、私が先に下がるのを待っていた」


「でも、馬を後ろへ下がらせる前に矢が来た」


ランゼが机へ身を乗り出した。


「二台目が下がらなければ、一台目も後ろへは動かせない」


「そう」


オリヤは鞄の端を握った。


「狭いところへ二台とも入ってからじゃ、下がるにも時間がかかる」


ヴァルンが頷いた。


「実際にそうなった」


ランゼは橋から最も近い曲がり角まで指を動かした。


「なら、一台目が狭い場所を通る間、二台目が待てる場所を探す必要がある」


セイガが略図へ身を寄せた。


「その場所へ近づく道が見渡せるかも確認しないとな」


「反対側から回り込める道も見る」


「それに、離して待つなら、互いに合図が見える場所がいる」


ランゼが頷いた。


「現地で確かめよう」


彼はオリヤを見た。


「どの辺りから向きを変えにくくなったか、覚えている範囲で示してくれ」


「分かった」


ヴァルンは橋の印を見た。


「ただし、また手押し車が置いてあっても、矢の下であれを引っ張るのはごめんだ」


ショーンゴが短く笑った。


「それでいい」


サルマはオリヤの鞄を見た。


「それと、もう一つ」


「書類のこと」


オリヤがため息をついた。


「また書類ね」


「今回は守れた」


サルマが言った。


「次も守れるとは限らない」


エンナが白紙を手元へ引き寄せた。


「まずは、持ち帰った書類の写しを作る」


オリヤが頷いた。


「それから、原本と写しを同じ鞄に入れないことね」


ランゼが彼女を見る。


「ただし、誰が何を持つかは決めておけ」


「自分たちで半分なくしたら、襲撃者は何もしなくて済むからな」


ヴァルンが小さく吹き出した。


サルマがランゼを見た。


「そこから先は私の仕事よ」


すぐに次の旅へ出る命令はなかった。


街道を永久に閉ざす命令もなかった。


ランゼは、実際に管理できる道の区間を確認する。


そして、互いの退路を塞がずに荷車を止めたり方向転換させたりできる場所を探す。


サルマは売上、持ち帰った商品、道中の費用、奪われた金を整理する。


まだ確定しない修理代は、別に残す。


エンナは証言と襲撃者の遺体についての記録を保存し、持ち帰った書類の写しを用意する。


オリヤとヴァルンは休息を取り、そのあと実際に見たものに基づいて街道の略図を修正する。


セイガは、襲撃者が待ち伏せを準備できそうな接近路をランゼとともに調べる。


現地へ出るのは、休息を取り、町に残す人数を決めてからだった。


ショーンゴは最後の点だけ、改めて口にした。


「答えを急いで、今夜また誰かを一人で外へ出すな」


セイガが頷いた。


「分かった」


サルマがヴェルシャインの記録を持ち上げた。


「向こうにも知らせる?」


「そうだ」


ショーンゴが答えた。


「取引を終えて戻ったことと、帰り道で襲撃されたことを」


エンナが確認した。


「犯行に関わった国の名は出さずに?」


「確かめられない国を、犯人として書かない」


ショーンゴは門の方を見た。


「それと、街道で普段と違う動きがなかったか尋ねよう」


ランゼが付け加えた。


「全部向こうにやってもらおうとはしない」


サルマは書類を畳んだ。


「そのつもりはないわ」


サルマは報告の案を用意し、送れる便を確かめることにした。


*


夕方になっても、交易場の声は途切れなかった。


隊商が戻る前と同じではない。


それでも、仕事は続いていた。


売れ残った袋の一部が上屋の下へ運ばれた。


何人かが荷の印を照合している。


門のそばでは住民が二人、言い争っていた。


一人は、次はもっと多くの護衛を送るべきだと言う。


もう一人は、それではラリオン自体の守りに何人残るのかと尋ねる。


意見はまとまらなかった。


少し離れたところで、商人が売却記録から書き出された品目を眺めていた。


「じゃあ、今は買い手がいるってことか?」


サルマが答えた。


「今回、買ってくれた相手はいるわ」


「次は?」


「次の取引は、まだ話し合う必要がある」


男は顔をしかめた。


「あまりいい知らせじゃないな」


「でも、正しい答えよ」


男は自分の袋の方へ戻っていった。


あまり満足していない様子だった。


サルマは引き止めなかった。


別の上屋の下で、ランゼは畳まれた外套のそばに立っていた。


死んだ衛兵の顔を覆っていた、あの外套だ。


遺品はすでに別に分けてあった。


名前は衛兵の記録に記された。


家族にはランゼ自身が知らせた。


そのあとも彼は長い間、街道の略図がある机へ戻らなかった。


オリヤが近づいた。


すぐには口を開かなかった。


「彼は二台目の後ろにいた」


ランゼが頷いた。


「知ってる」


「私たちが退く前に、矢が飛んできた」


「知ってる」


「セイガは待ち伏せに気づいていた」


ランゼが彼女へ向き直った。


「分かってる。お前も、下がろうとした」


「それなのに……」


オリヤは首を振った。


「自分でも、何を言いたいのか分からない」


ランゼは外套へ目を落とした。


「なら、今日のうちに無理に答えを作るな」


彼女は黙っていた。


ランゼが続けた。


「何を違うやり方でできたのか、確かめる」


「でも、それで彼は戻らない」


「そうだ」


ランゼは畳まれた外套を手に取った。


「それでも、確かめる」


*


暗くなる頃、エンナは完成した襲撃の記録をサルマへ持ってきた。


机の上には、取引書類と自分の計算を基にサルマがまとめた報告書があった。


修理代の欄には、まだ金額を入れていない。


関所の印章が押された原本は、別に保管していた。


サルマはまず自分の紙を確認した。


それからエンナの報告書を取った。


「全部照合した?」


「オリヤたちと、戻った二人の衛兵には。負傷者には、話せる範囲だけ」


「誰も見ていないことは?」


「確認できていないと書いた」


サルマが頷いた。


エンナは右手を机の端に休ませた。


指が一瞬、思うように動かなかった。


彼女は左手で硯を脇へ移した。


サルマが気づいた。


「休みなさい」


「終わらせる」


「もう終わったでしょう」


エンナは二つの記録を見た。


「まだ完全には」


「何が残ってるの?」


「明日、今回の旅は成功だったのかと聞かれたら、どちらを見せる?」


サルマは自分の計算書を見た。


それから襲撃の報告書を見る。


「こっちには売上がある」


彼女が言った。


「それに、実際にいくら持ち帰れたかも」


エンナはもう一枚の紙に触れた。


「こっちには、生きて帰れなかった人がいる」


サルマは二つの記録を長く見つめた。


それから並べて置いた。


「なら、片方だけを見せることはしない」


上屋の向こうで車輪が軋んだ。


誰かが空の荷車をいつもの場所へ移していた。


その先からは人々の声が聞こえた。


袋一つの値段を交渉する声。


重さをめぐって言い争う声。


門を閉める音。


町は止まらなかった。


端の上屋の下には、ヴェルシャインへ出発した二台の荷車が並んでいた。


二台とも帰ってきた。


だが、サルマは今回の旅を、ただの成功とは記さなかった。

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