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エピソード70 地図上の居場所

襲撃から二日後の朝、南の交易場は再び開かれた。


まだ全面的にではない。


隊商は南へ戻ることになっていたが、運んできた商品をすべて持ち帰るわけではなかった。


新しく運ばれてきた医薬品の箱は、検査と、所有者による売却または引き取りの判断が済むまで、門のそばの警備された部屋に残されることになっていた。


襲撃で奪われた二箱とは別の荷で、まだラリオンの所有物ではない。


保管中のほかの荷も、ラリオンの備蓄とは混ぜず、別に置かれていた。


荷下ろしを終えた五台目の荷車は壁際にあり、その側板には縄が擦れた白い筋が残っていた。


カイル・メルは門へ向かう前に、その筋に触れた。


それから先頭へ戻り、荷車に沿って歩いた。


一台目。


二台目。


三台目。


四台目。


五台目。


「五台」


ランゼは盾を肩に掛け、入口のそばに立っていた。


「もう数えただろ」


「分かってる」


「なら、どうしてもう一度?」


カイルは彼を見た。


「荷車が五台とも戻ってきたことを、忘れないためだ」


ランゼは答えなかった。


カイルは五台目の荷台へ目を移した。


レスは清潔な布の上に寝かされ、出発に備えて覆われていた。


足元には彼の旅鞄があった。


襲撃のあと、誰もそれを開けていない。


中には、北へ出発した時に持っていたものが、そのまま残っていた。


カイルは鞄を取り、レスの身体に寄せて置き直した。


「これはあいつのだ」


「俺たちは何も取っていない」


「分かってる」


彼は布の端に手を置いたまま、しばらく動かなかった。


「ただ、家に帰ってから、何も探さずに済むようにしたいんだ」


ランゼは目を伏せた。


カイルはそれに気づき、歪んだ笑みを浮かべた。


「馬鹿なことを言ったな」


「いや」


「死人にはもう何も要らない」


ランゼは彼を見た。


「生きてる者には要る」


カイルの笑みが消えた。


彼は頷き、馬の方へ歩いていった。


門のそばでは、デランが隊商の一人を手伝い、空いた金具に予備の縄を固定しようとしていた。


縄は二度滑り落ちた。


三度目にデランが作った結び目を、隊商の男はしばらく見つめていた。


「何だ、これは?」


「頑丈な結び目だ」


「どうやって解くんだ?」


デランも結び目を見た。


「それはまた別の問題だな」


男はゆっくりランゼへ顔を向けた。


「こいつ、いつもこうなのか?」


「いや」


デランが顔を上げた。


「おお、ありがとう」


「たまにもっとひどい」


カイルがその朝初めて、短く笑った。


笑いはすぐに途切れた。


だが今度は、隠そうとはしなかった。


サルマが交易用の机から歩いてきた。


手には小さな包みを持っていた。


「道中の分よ」


カイルは包みを見た。


「何が入ってる?」


「初日の食べ物と、包帯などの手当て用品」


「金は払う」


「食べ物の代金は、もう受け取ってる」


カイルが反論しようとすると、サルマは手を上げた。


「始めないで」


彼女は五台目へ視線を移した。


「これは補償じゃない」


カイルはゆっくり息を吐いた。


「分かった」


サルマは包みを隊商の男に渡した。


「預かる医薬品の箱は、検査と持ち主の判断が済むまで、あの部屋から動かさない」


「分かってる」


「襲撃者に奪われた二箱とは、記録も分けてある」


「分かってる」


カイルは彼女を見た。


「いつもそんな話し方なのか?」


「どんな?」


「一週間後に誰かが、どの箱の話だったか分からなくなるのを怖がってるみたいだ」


サルマは笑わずに答えた。


「一週間後には、必ず誰かが取り違えるわ」


デランがランゼへ身を寄せた。


「彼女、正しいな」


「お前はまだ結び目を解いてない」


「今、それを確かめてるところだ」


結局、隊商の男が結び目を解き、結び直した。


ランゼは一瞬、目を閉じた。


カイルがまた小さく笑った。


それからサルマに向き直った。


「ありがとう」


今度は彼女も、ただ頷いた。


門が開いた時、ショーンゴは少し離れたところに立っていた。


帰路の護衛につく衛兵たちは、荷車の脇で出発を待っていた。


ショーンゴ自身は同行するつもりがなかった。


カイルはそれに気づいた。


「お前は来ないのか?」


「いや」


「あんなことがあったのに?」


ショーンゴは、荷車のそばで持ち場を確かめている衛兵たちを見た。


「だからこそ、俺がいなくても守れるようにする」


カイルは数秒黙った。


それから頷いた。


「分かった」


彼は先頭の荷車に乗り込んだ。


隊商の生存者は十人。


負傷した二人も、包帯が緩んでいないことを確かめてもらい、荷車の側板にもたれて座っていた。


ほかの隊商員も、それぞれの持ち場についた。


「なら、次は六台持ってくる」


デランがすぐに口を挟んだ。


「荷車だけか? 人も増やせよ」


カイルは彼を見た。


「人も、もっと多く連れて帰りたいな」


デランは目を伏せた。


「……ああ」


カイルは目の前の板に触れた。


「出るぞ」


車輪がゆっくり門へ向かって転がり始めた。


護衛の衛兵たちも、それに合わせて歩き出した。


レスの遺体を載せた五台目が最後だった。


ランゼは、それが自分の前を通り過ぎるまで立っていた。


それからショーンゴに向き直った。


「これから道では、荷だけじゃない。俺たちの守り方も見られる」


「分かってる」


「次も同じように戻れるか、試される」


ショーンゴは彼を見た。


「なら、次に備えろ」


*


正午までに、ランゼは次の交代勤務に入る予定の衛兵を四人連れ、南門の外へ出た。


二人は人間、二人はダークエルフだった。


負傷した仲間の代わりを務め、今後の護衛も補強できるようにするための訓練だった。


ただし、そのために町の守りを空にしてはならない。


セイガとデランも同行した。


ショーンゴは門のそばに残った。


訓練には、町の作業に使う空の荷車を借りた。


門からさほど離れていない、道幅の広い場所に置く。


左手には低い茂みが続き、右手には緩い斜面があった。


斜面の裾にも、身を隠せる程度の茂みがある。


カイルの隊商は、すでに南の道を進んでいた。


「これが隊商の最後尾の荷車だと思え」


ランゼは左の道端を示した。


「ここから撃ってくる」


次に右の斜面を指した。


「こっちでは、別の奴が注意を引こうとする」


衛兵の一人が尋ねた。


「本当の敵はどこにいるんです?」


ランゼは答えた。


「分からない」


衛兵は眉をひそめた。


「それじゃ、どう守ればいいんです?」


「それを覚えるんだ」


デランが何か言いかけると、ランゼは彼に向き直った。


「今日はお前が襲撃者だ」


デランは固まった。


「平和な商人じゃ駄目か?」


「駄目だ」


「ものすごく説得力のある値切り方ができるのに」


「今日は荷を売る訓練じゃない」


配置につく前に、デランはセイガを呼び止め、二つの石を使う段取りを小声で伝えた。


セイガは右の斜面へ移動した。


デランは左の茂みに隠れた。


ランゼは二人の衛兵を荷車の左右に置き、別の二人を少し前へ配置した。


自分は全員の動きが見える側方に立った。


「始めるぞ」


数秒間、何も起きなかった。


最初の石は、セイガが右の斜面から投げた。


前方の衛兵の一人が顔を向けた。


セイガはすぐに言った。


「体ごとそっちを向くな」


衛兵は姿勢を戻した。


二つ目の石は、デランが左の茂みから、荷車の左前方へ投げた。


ランゼは動かなかった。


「デランはどこだ?」


「左です」


「見たのか?」


「いいえ」


「なら、音がした場所しか分からないはずだ」


荷車の左にいた衛兵まで、石の落ちた前方へ顔を向けた。


デランはその間に、茂みの陰を低い姿勢のまま後方へ移動した。


荷車の後端より後ろで道へ出る。


右側の衛兵からは、荷台の側板が彼の姿を隠していた。


次の瞬間、荷車の後ろから声がした。


「もうここだぞ」


衛兵たちが振り向いた。


デランは後輪のそばに立ち、縄を手にしていた。


ランゼは彼を見た。


「どうやって通った?」


「左前ばかり見てたから、茂みの陰を後ろへ回って、荷車の後ろに出た」


ランゼは衛兵たちに目を向けた。


誰も後ろを見ていなかった。


それからデランへ向き直った。


「最初の石は?」


デランは右の斜面を指した。


セイガが、まったく表情を変えずに立っていた。


ランゼはゆっくり彼へ顔を向けた。


「手伝ったのか?」


「頼まれたからな」


「お前は監視役だったはずだ」


「どこを見なくなるかは、よく見えた」


デランは笑った。


「ほら、俺たち、見事な連携だろ」


ランゼはため息をついた。


「もう一回」


二度目の前に、ランゼは荷車のそばにいた二人を、後方も見渡せる位置へ下げた。


セイガは右の斜面に残った。


デランは衛兵たちが配置につく前に訓練場を回り、今度は右側の斜面の裾にある茂みに隠れた。


ランゼは衛兵たちに、襲撃はどちら側からも来る可能性があると伝えた。


今度は石の音がしても、衛兵たちは目を向けるだけで、持ち場を離れなかった。


デランは先ほどとは反対側から荷車を回り込もうとした。


後部にいた衛兵は、彼が車輪にたどり着く前に気づいた。


デランは縄を上げたまま立ち止まった。


「で、どうする?」


ランゼは答えた。


「今回はお前の負けだ」


「完全には負けてない」


「なぜ?」


「新しい襲撃方式だったからな」


ランゼは彼を見た。


「また後輪に近づこうとしただけだろ」


「ああ。でも反対側からだ」


「何が変わった?」


デランは考えた。


「まあ、こっちの木の方が綺麗だな」


セイガは顔を背けた。


だがランゼは、彼の口元がわずかに動いたのを見逃さなかった。


「もう一回」


訓練場のほうを見に来たショーンゴは、少し離れた場所から様子を見ていた。


口は出さなかった。


ランゼが三度目の配置を変えた時、ショーンゴは訓練用の荷車へ少し近づき、静かに言った。


「良くなったな」


ランゼは聞き取った。


「どこが?」


「今は、どこから攻撃が来るか当てようとしていない」


「じゃあ、何をしてる?」


「予想が外れても、対応できる余地を残してる」


ランゼは荷車を見た。


それから衛兵たちを見た。


「もう一回」


デランは両手を上げた。


「さっき負けただろ」


「なら、別の入り方を考えろ」


「工夫してる奴への嫌がらせだ、これは」


今度はセイガが声を出して笑った。


長くはなかった。


だが、デランが本気でむくれるには十分だった。


「お前、いったいどっちの味方なんだ?」


「荷車を失わない方だ」


三度目は、音に気を取られた衛兵へ、隣の者が声をかけた。


全員が同じ方を向くことはなかった。


それでもランゼは、見張る範囲に空いた隙間を指し、一度訓練を止めた。


そのあとも、位置と役割を確かめながら練習を繰り返した。


交代勤務の時刻が近づく前に、ランゼは訓練を切り上げた。


衛兵たちは荷車を門へ戻し、セイガとデランは訓練用の縄を片づけた。


数回の練習だけで、衛兵たちが本物の待ち伏せに対応できるようになったとは、誰も思っていなかった。


それでも、何を見落としたのかは、始める前よりはっきりしていた。


*


隊商がラリオンを出た翌日の夕方、タケル・ケルとリエラ・ノルはヴェルシャインの国境都市に到着した。


首都ではなかった。


王宮のある町でもない。


だが、ここでは南の街道と税関の通過地点を管理し、ヴェルシャインとレヴェンガルドの間に生じる変化をいち早く受け止める駐屯地を統括していた。


王国の役所の中庭で、タケルは馬から降り、手綱を使用人に渡した。


リエラも続いて下馬した。


彼女は門の上の塔を見上げた。


「久しぶりね、ここに来るのも」


「北へ行きたいと言ったのはお前だろう」


「文句は言ってないわ」


「なら、どうしてそんな顔をする?」


リエラは、道中の風に乱された白い髪を直した。


「ここって、いつも他人が実行しなきゃいけない決定の匂いがするから」


タケルは彼女を見た。


「本人に直接言ってもいいんだぞ」


「そのつもりよ」


二人は奥の廊下を進んだ。


扉のそばには二人の衛兵が立っていた。


一人が二人の姿を認め、待たせずに扉を開けた。


大きな窓のそばに、中年の女性が立っていた。


黒い髪は銀の髪留めでまとめられている。


左の頬には短い白い傷痕があった。


掌に持った小さな指輪を、石が内側を向くようにゆっくり回していた。


「タケル」


「アルデラ」


「リエラ」


リエラは微笑んだ。


「相変わらず、私たちが何を言うか、もう分かってるみたいな迎え方ね」


女性は指輪を机に置いた。


「いいえ」


彼女は二人の旅用の外套を見た。


「分からないから、あなたたちの報告を待っていたのよ」


アルデラ・ヴェインは人間であり、王国の南部国境を担当する委任官だった。


ヴェルシャイン全土を指揮しているわけではない。


だが、管轄の駐屯地へ命令を出し、国境の備蓄を管理し、王宮へ報告を送る権限を持っていた。


その報告は、王国の次の決定を左右する。


一方で、王国を代表して独断で同盟を結ぶ権限はなかった。


タケルはラリオンで交わした文書の写しを机に置いた。


アルデラは最初の行を読んだ。


次に二行目。


ラリオンの護衛について書かれた箇所で、手が止まった。


「向こうが譲らなかったのね」


「ああ」


「それで、あなたは認めた」


「ああ」


彼女は顔を上げた。


「なぜ?」


タケルは答えた。


「事実だからだ」


アルデラはさらに数秒、彼を見ていた。


それから、かすかに微笑んだ。


「交易報告だけを持ってきたわけじゃなさそうね」


「ああ」


「なら、座って」


リエラが先に座った。


タケルは机のそばに立ったままだった。


アルデラはそれに気づいた。


「あなたも座っていいのよ」


「長くはかからない」


「そう思ってるのはあなただけよ」


リエラが小さく笑った。


タケルも結局、腰を下ろした。


アルデラは文書を二人の間へ置いた。


「始めて」


タケルは出来事を簡潔に説明した。


最初の隊商。


交易場。


ラリオンが提示した条件。


二度目の隊商。


その後に起きた襲撃と、二人が現地で確認した被害。


戻ってきた荷車は五台。


死亡した隊商員が一人。レス。


負傷した隊商員が二人、重傷のラリオン衛兵が一人。


捕らえられた襲撃者が一人。


死亡した襲撃者が二人。


逃亡した者が五人。


失われた医薬品の箱が二つ。


布の包みが一つ。


アルデラはそこまで遮らなかった。


被害の説明が終わると、尋ねた。


「依頼主は?」


「特定できていない」


「レヴェンガルド?」


「可能性はある」


「こちら側の誰かは?」


「その可能性を排除できる証拠もない」


「第三者?」


「同じくあり得る」


アルデラは頷いた。


「いいわ」


リエラは彼女を見た。


「あなたもその言葉を使うのね」


「何の言葉?」


「いいわ、って」


アルデラは答えた。


「持っていない答えを作られるより、ずっといいわ」


彼女はタケルへ目を向けた。


「確実に分かっていることは?」


「襲撃は準備されていた」


「次は?」


「捕虜の供述では、襲撃者は荷の内容と荷車の台数を知らされていた」


「ほかには?」


「護衛の反応に関心があった」


アルデラは眉を上げた。


「それは確認できたこと? それとも推測?」


タケルは言い直した。


「捕虜は、護衛を観察するよう命じられたと供述した」


「それなら、彼がそう供述したことは記録できるわね」


リエラが微笑んだ。


「あなた、サルマとは気が合いそう」


アルデラは彼女を見た。


「向こうの交渉相手?」


「ええ。証拠もなく依頼主を決めつけさせなかった人よ」


「なら、話は通じそうね」


彼女は別の紙を取った。


「では、護衛の話を聞かせて」


タケルは少し身を乗り出した。


「ショーンゴは道にいなかった」


アルデラは彼を見た。


「それで?」


リエラが先に答えた。


「それでも護衛たちは隊商を町へ戻したの」


「五台とも?」


「ええ」


「でも、人と商品を失った」


「ええ」


アルデラは頷いた。


「その損失を小さく扱うつもりはないのでしょうね」


リエラは笑みを消した。


「ないわ」


彼女は紙の端へ指を置いた。


「別の状況で、あの人たちがそれぞれどう動くかまでは分からない。でも今回は、ショーンゴを呼ばず、追撃のために隊商を捨てず、最初の一撃を受けても指揮を失わなかった」


タケルが付け加えた。


「最初の訪問では、そこまでは確かめられなかった」


アルデラは彼を見た。


「それで戦争に勝てると証明されたわけではない」


「ああ」


「でも、彼らの自立がどこまで進んでいるか、調べる理由にはなる」


「その通りだ」


アルデラは立ち上がった。


窓へ歩いていった。


下では衛兵の交代が行われていた。


二人の兵士が装備の箱を運んでいる。


厩舎のそばでは、蹄鉄をめぐって言い争う声がした。


いつもと変わらない国境の一日だった。


彼女は数秒、その光景を見ていた。


「レヴェンガルドは、長い間オルヴェンを自分たちのものだと考えてきた」


タケルは答えた。


「ああ」


「今はラリオンと名乗っている」


「ああ」


「そして私たちの南方交易側は、その名前が書かれた文書に印を置いた」


リエラが言った。


「独立承認の文書ではないわ」


「文字は読めるわよ」


リエラは微笑んだ。


「知ってる」


アルデラは机に戻った。


「レヴェンガルドは忘れないでしょうね」


タケルは答えた。


「忘れるとは思っていない」


「それでも署名した」


「今、ラリオンと交易することはヴェルシャインにとって利益になるからだ」


アルデラは彼を見た。


「交易だけ?」


タケルはその視線を受け止めた。


「いや」


彼女は机の端に置かれた地図へ手を伸ばした。


「では、その利益を確かめましょう」


*


机の上に南部国境地帯の地図が広げられた。


世界全体の地図ではない。


二つの王国の間で物資の流れを左右する街道、町、峠、領地を描いたものだった。


レヴェンガルドは東に記されていた。


ヴェルシャインは西に。


その間には、長年にわたり交易上の争いと国境での事件が繰り返され、交渉を重ねても安定した関係には至らなかった土地が広がっていた。


現在、戦争は起きていない。


だが、この部屋にいる誰も、両国の関係を友好的とは呼ばなかっただろう。


アルデラは、オルヴェンの名が記された場所に触れた。


「レヴェンガルドは、この町を私たちに譲り渡すつもりだった」


タケルは頷いた。


「金と、関係安定化のための協定と引き換えにな」


「今は、その町を引き渡せない」


「ああ」


リエラは地図を見た。


「私たちにとって、必ずしも悪いことではないわ」


アルデラは彼女に向き直った。


「説明して」


「レヴェンガルドは、交渉のために用意していたものを失った」


彼女は東の道に触れた。


「ラリオンを取り戻そうとすれば、人も金も時間も使うことになる」


次に、ヴェルシャインが記された場所へ指を移した。


「取り戻せないなら、別の交渉材料を探すか、進めていた交渉を宙に浮かせたままにするしかない」


タケルが付け加えた。


「その間、俺たちはラリオンと交易し、観察できる」


アルデラはゆっくり頷いた。


「つまり、今の彼らは私たちの役に立つ」


「ああ」


「では、もしレヴェンガルドに勝ったら?」


二人の返事が止まった。


リエラはすぐには答えなかった。


アルデラは続けた。


「町を守り切る、という意味ではないわ。一部隊を撃退することでもない」


「レヴェンガルドが二度と自分たちの意思を押しつけられなくなるほど、明確に打ち負かした場合よ」


タケルは地図を見た。


「その時は、彼らの位置づけを見直さなければならない」


「なぜ?」


「大きな苦労もなくレヴェンガルドを倒せる隣人が、いつかもう一本の道を欲しがらないとは限らない」


アルデラはリエラを見た。


「あるいは、もう一つの町を」


リエラは頷いた。


「私たちの条件を、聞く必要がないと思うかもしれない」


アルデラは机の指輪を取り、掌の中で一度回した。


「今のところ、その意思を見せたわけではないのね」


「ええ」


「なら、こちらから敵を作ることはしない」


彼女は腰を下ろした。


「管轄内の交易は、合意した条件で継続する。軍事同盟も、レヴェンガルドから守るという約束もしない」


そして、ラリオンへ続く道に触れた。


「ただし、彼らの交易を締めつける動きにも加わらない」


タケルは頷いた。


「それなら実行できる」


アルデラは指輪を机に置き、リエラへ目を向けた。


「次は、町の中の話よ。ショーンゴについての情報だけでは足りない」


リエラは白紙を取った。


アルデラは地図のラリオンを指した。


「彼がいない時、誰が町を支えているの?」


タケルは答えた。


「サルマが行政と政治を担っている」


「ほかには?」


「ケルトが記録をまとめ、エンナが文言と条件を確かめている。ランゼは現場の防衛だ」


リエラが付け加えた。


「セイガは、ほかの人が見落としやすい場所を見ているわ。それから、デラン」


「何をする人?」


「よく冗談を言う人」


「それが仕事なの?」


リエラは微笑んだ。


「襲撃前に、偽の痕跡を見つけたのよ」


アルデラは頷いた。


「なら、そちらを記録して」


タケルは少し首を傾けた。


「全員を知りたいのか?」


「まずは、私たちが見落としていた人たちを」


アルデラは彼を見た。


「強い者が一人いれば、戦いには勝てるかもしれない。でも、その周りで自分の判断を持つ者たちが育っているなら、その一人を見るだけでは町を測れない」


リエラが静かに言った。


「私が説明しようとしてたのも、それよ」


アルデラは彼女の白紙へ目を移した。


「なら、そこから書いて」


*


翌朝、アルデラは国境警備隊の指揮官を呼び出した。


指揮官は街道の巡回に使う鎧を身につけて現れた。


人間の女性で、黒い髪を短く刈り込んでいた。


返答する前に肩の留め具を確かめる癖がある。


左の肩当てには、補修されずに残った古いへこみがあった。


彼女は扉のそばで立ち止まった。


「お呼びでしょうか」


「ええ」


アルデラは地図を示した。


「東の国境を手薄にせず、南の前哨地へ何人回せる?」


指揮官は近づいた。


「期間によります」


「まだ分からないわ」


「なら、少数です」


指揮官は肩の留め具を確かめた。


アルデラはかすかに微笑んだ。


「あなたはいつもそこから始めるのね」


「長く留めるなら、交代要員まで数える必要があります」


リエラが小さく言った。


「ここはみんな、正確な答えが好きみたいね」


指揮官は彼女を見た。


「人数を間違えると、どこかの持ち場が空きますから」


「面白い話にはならなさそう」


「報告書なら、それで十分です」


アルデラは机を指で叩いた。


「まず、備えがどこまでできているか確認したいの」


「戦争への備えですか?」


「準備もないまま巻き込まれないための確認よ」


指揮官は地図を見た。


「想定する相手は?」


「今は特定しない」


「では、どの前哨地から確認しますか?」


アルデラはヴェルシャインの南部前哨地を示した。


「ここ」


次に、国境の倉庫へ続く二本の道を指した。


「それから、この二本」


「ラリオンへは?」


「行かない」


「レヴェンガルドへも?」


「行かない」


指揮官は自国の前哨地の印を指でなぞった。


「まず人員、装備、予備の経路を確認します。そのあとで、増強が必要か判断しましょう」


アルデラは頷いた。


「そうしてちょうだい」


彼女は一瞬、言葉を止めた。


「それからもう一つ」


「はい」


「こちらの誰かが、勝手にラリオンの力を試そうとしたら、止めて」


指揮官は彼女を注意深く見た。


「小さな部隊でもですか?」


「小さな部隊だからこそよ」


アルデラは地図から手を離した。


「偵察のつもりで起こした衝突を、あとから取り消すことはできないわ」


指揮官は短く一礼した。


「承知しました」


彼女が立ち去ろうとした時、タケルが尋ねた。


「レヴェンガルドが俺たちの隊商に圧力をかけてきたら?」


アルデラは答えた。


「権限の範囲で、自国の人と商品を守る」


「ラリオンとの交易をやめろと要求されたら?」


「その要求をここへ回して」


リエラは眉を上げた。


「そのあとは?」


「誰の名で、何を求めているのかを確かめるわ。王宮の判断が必要なら、私から上げる」


指揮官は退出した。


数分後、中庭では兵士たちが集まり始めた。


ラリオンへ向かう部隊ではなかった。


点検するのは、自国の前哨地と備蓄、それらをつなぐ街道だった。


兵士の一部は持ち場に残り、別の者たちは装備を確認した。


伝令たちは近くの前哨地へ命令を運んでいった。


リエラは窓から下の人々を見ていた。


「もうショーンゴが怖いの?」


アルデラはすぐには答えなかった。


「いいえ」


彼女は地図を見た。


「必要になってから倉庫を開けて、何も使えないと知るのは嫌なのよ」


*


同じ日の夕方遅く、アルデラはほかの職員が退出したあとも、タケルとリエラに残るよう頼んだ。


机には二枚の紙が置かれていた。


一枚は王宮へ送るもの。


もう一枚は彼女自身の管理下に残すものだった。


アルデラは一枚目を示した。


「こちらには、交易を継続する理由と、現地で確認できたことをまとめたわ」


タケルは頷いた。


「ラリオンの護衛のことも?」


「ええ。損失も、ショーンゴが同行していなかったことも」


リエラは二枚目を見た。


「こっちは?」


アルデラは答えた。


「今の有利な状況が、いつか変わった場合に備えるためのものよ」


彼女は地図を示した。


「ラリオンが急速に拡大し始めたら、周辺の国々が慌て出す前に、話を通せる相手を把握しておきたい」


タケルが尋ねた。


「同盟の準備か?」


「今は、誰が何を恐れ、何を得るためなら交渉するのかを知るところまでよ」


アルデラは彼を見た。


「王宮の決定なしに、同盟交渉へ進むことは認めない。約束もするな、と明記してある」


リエラはゆっくり頷いた。


「もしショーンゴが本当に、レヴェンガルドでも止められないほど強かったら?」


「その時は、今つないだ連絡先が必要になるかもしれない」


アルデラは言葉を切った。


「必要にならないかもしれないけど」


タケルは彼女を見た。


「先に敵と決めておきたくないんだな」


「ええ。でも、何かが変わった時に、話をする相手さえ知らないのも困るわ」


リエラは微笑んだ。


「気をつけて」


アルデラは彼女を見た。


「何を?」


「今ので、私たちの外交政策をほとんど全部説明しちゃったわよ」


タケルが小さく息を吐いた。


アルデラも、ようやく微笑んだ。


「なら、あなたたち二人が理解していてくれてよかったわ」


彼女は一枚目をタケルの前へ置いた。


「王宮へ」


二枚目は自分の書類の下へしまった。


「これはここに残す」


タケルは王宮宛ての紙だけを取った。


翌朝出発する王室の使者に渡すことになっていた。


「分かった」


「それから」


彼は立ち止まった。


アルデラは彼を見た。


「報告書でショーンゴを愚かに描こうとしないで」


タケルは少し目を細めた。


「そんなことはしていない」


「なら、そのまま続けて」


彼女は窓へ向き直った。


「本当に賢いのなら、その判断が私たちにとって不愉快な時でも、考慮しなければならないから」


少し間を置いた。


「いつか敵になった場合には、なおさら」


*


その頃、ラリオンで掲げられた文書の内容は、レヴェンガルドの東街道官房にも届いていた。


マレク・ヴィルドは報告を黙って読んだ。


それから、ペンを机の端に揃えた。


向かいにはヤルヴァ・ネルが立ち、読み終えるのを待っていた。


マレクは紙を置いた。


「ヴェルシャインか」


「はい」


「ラリオンの護衛下で、か」


「はい」


彼は彼女を見た。


「独立承認とは書いていない」


「書かれていません」


「だが、名前は書いた」


ヤルヴァは頷いた。


「その名前を使った文書に、印を置いています」


マレクはゆっくり息を吐いた。


「厄介な書き方だ」


ヤルヴァが顔を上げた。


「なぜですか?」


「明確な承認なら、こちらもその行為に異議を唱えられる」


彼は紙に触れた。


「だが、向こうは見たことを書いただけだと言える。抗議するなら、その記述のどこが間違っているのかを示さなければならない」


ヤルヴァは数秒黙った。


「では、どうしますか?」


マレクは立ち上がった。


東の街道の地図へ歩いていった。


「ヴェルシャインに、自分たちの署名を忘れろとは要求しない」


「応じるとは思えません」


「その通りだ」


彼は、オルヴェンの名が記された場所を見た。


「あの町について話す時、ほかの者たちが再び我々の言葉を聞かざるを得なくなるようにしなければならない」


ヤルヴァが尋ねた。


「力で?」


マレクは答えた。


「すぐに軍を送るとは言っていない」


彼は道に沿って指を動かした。


「まず、命令を出した時に何が動くのかを確かめる」


ヤルヴァは地図へ近づいた。


「前哨地」


「ああ」


「街道と倉庫も」


「それと、現地で命令を受け取る者たちだ」


ヤルヴァは彼を見た。


「その者たちが、もう命令には従えないと判断していたら?」


マレクは机へ戻った。


「軍を動かしてから知るよりはいい」


彼はペンを取った。


「ラリオンへの接近路を調べるため、小規模な哨戒隊を用意しろ」


ヤルヴァは動かなかった。


「任務は?」


「接近路と、街道を守る者たちの動きを確認する」


「接触は?」


マレクは彼女を見た。


「戦闘を誘うな。ショーンゴが常に付き添わなくても、ラリオンがどう街道を守っているのかを調べる。相手が守っている境界は越えずにな」


ヤルヴァは頷いた。


「承知しました」


彼女は左の手袋に触れ、外へ出る前に留め具がきちんと留まっているか確かめた。


扉へ向かおうとした時、マレクが付け加えた。


「勝手な行動はさせるな」


ヤルヴァは振り向いた。


「誰かがやると思いますか?」


マレクはヴェルシャインの文書についての報告を見た。


「こんなものが出たあとだ。手柄を立てて見せなければと思う者はいる」


*


翌朝、東の道に新たな騎馬の一団が現れた。


行軍中の大部隊ではない。


少人数の騎手たちだった。


彼らは古い街道の標識のそばで立ち止まり、ラリオンへ向かう分かれ道を長く眺めていた。


セイガは高台から彼らを見つけた。


そばにはデランが立っていた。


遠目に所属を示す印は見えなかった。


「何人だ?」


「六人」


「味方か?」


「少なくとも、うちの巡回じゃない」


デランは目を細めた。


「レヴェンガルドか?」


セイガは答えた。


「印は見えない」


「でも、そう思ってるんだろ?」


「可能性はある」


デランは道を見た。


「ただ道に迷っただけかもしれないぞ」


セイガは彼へ目を向けた。


「武装した六人が同時に?」


「まあ、迷う時は一緒だろ」


一人の騎手が古い石のそばで馬を降りた。


二人目は道の高い側に残った。


三人目はラリオンの方を見ていた。


セイガは高台の縁から頭が出ないよう身を低くし、騎手たちを見続けた。


「接近路を調べているようだな」


デランの笑みが消えた。


「なら、ランゼに知らせないと」


「ああ」


二人は身を低くしたまま、縁から離れた。


町へ戻ると、ランゼは東門にいた。


セイガは見たことを簡潔に伝えた。


ランゼは聞き終えてから尋ねた。


「向こうに見られたか?」


「そうは思わない」


「確かか?」


「いや」


ランゼは頷いた。


「分かった」


彼は衛兵に向き直った。


「東の道に、所属不明の騎馬が六人いるとサルマに伝えろ。周囲を調べているようだとな」


それからセイガへ顔を向けた。


「場所を案内できるか?」


「ああ」


「こちらから近づかない。追うな」


デランが手を上げた。


「向こうが勝手に走り出したら?」


ランゼは彼を見た。


「お前は追わない」


「ものすごく追いたくなったら?」


「その時こそ追うな」


セイガが小さく笑った。


デランはため息をついた。


「今日はみんな俺の敵だな」


ランゼは盾のベルトを直した。


「いや」


彼は道を見た。


「俺たちは、お前に帰ってきてほしいだけだ」


デランは黙った。


それから頷いた。


「分かった」


*


夕方までに、ランゼは東門へ戻った。


セイガとデランを連れて同じ高台へ行き、騎手たちのところまで下りずに、接近路と彼らの動きを確かめてきたのだった。


見ている間、騎手たちはラリオンへ入ろうとはしなかった。


攻撃もしなかった。


隊商を追う様子もなかった。


だが、遠くへ離れようともしなかった。


古い標識のそばで止まり、少人数の騎馬がまとまって向きを変えられそうな場所を調べていた。


ランゼは、その動きを襲撃とは呼ばなかった。


サルマは門のそばの部屋で報告を聞いた。


ケルトはそばに座っていた。


エンナは机の横に立ち、まだ痛みの残る手で紙の端をそっと押さえていた。


「何人?」


「六人」


「印は?」


「確認できなかった」


「武器は?」


「持っていた」


「こちらの境界を越えようとした?」


「見ている間は、しなかった」


サルマは頷いた。


「なら、そのまま記録する」


ランゼは彼女を見た。


「それだけか?」


「いいえ」


彼女は顔を上げた。


「次はもっと近づいてくるかもしれない。その場合に備えるの」


ケルトはペンを取った。


「東の哨戒を増強する、と」


サルマは彼を止めた。


「決定を書くのはまだよ」


彼女はランゼを見た。


「南を手薄にせず、東へ回せる人はいる?」


ランゼは考えた。


「まず勤務表を見て、回せる人数を確認しないと」


「なら、そこからお願い」


ケルトはペンを置いた。


「せっかく綺麗に書こうと思ったのに」


エンナはかすかに微笑んだ。


「人数が分かってから書けばいいわ」


扉にショーンゴが現れた。


「何があった?」


ランゼは答えた。


「東に所属不明の騎馬が六人いる。道を調べていた」


「攻撃してきたか?」


「いや」


ショーンゴはサルマを見た。


「対応は?」


「南を手薄にせず、東をどこまで補強できるか調べてるところ」


ショーンゴは頷き、ランゼへ目を移した。


「お前は?」


「勤務を確認する。代わりが決まるまでは、南の護衛から人を抜かない」


「それでいい」


ショーンゴは扉へ向き直った。


その後ろに立っていたデランが、小さく囁いた。


「まただ」


セイガが肘で彼をつついた。


ショーンゴは振り返りもしなかった。


「聞こえたぞ」


デランは背筋を伸ばした。


「悪いことは何も言ってないぞ」


「分かってる」


ショーンゴは出ていった。


デランはセイガを見た。


「今ので、何だか余計に落ち着かなくなった」


セイガは微笑んだ。


「何を分かってるのか、分からないからだろ」


デランは数秒考えた。


「この会話、気に入らないな」


*


その数日後の夕方、ヴェルシャインの国境管理局ではランプが灯された。


アルデラ・ヴェインは窓のそばに立っていた。


中庭では装備の点検が終わろうとしていた。


奥の倉庫から出された鎧が並び、兵士たちは革帯と留め具を一つずつ確かめていた。


タケルが短い報告を持って入ってきた。


「最初の前哨地から点検結果が届いた」


アルデラは振り向いた。


「机へ。足りないものから見るわ」


タケルは紙を置いた。


「もう一つある」


机のそばに立っていたリエラも、彼へ顔を向けた。


タケルは二枚目の紙をアルデラの前へ置いた。


「東にいる、こちらの交易関係者からだ」


報告は国境の交易所を経由して届いたものだった。


現地の交易関係者が、その配下の者たちの見聞をまとめていた。


アルデラは読んだ。


レヴェンガルド側では、小規模な武装集団が国境の街道へ向かう動きが確認されていた。


攻勢や宣戦布告を裏づける情報はなかった。


街道の標識や、少人数の騎馬が向きを変えられる場所を調べていたという記述もあった。


それぞれ、見た場所と時刻が添えられていた。


アルデラは報告を置いた。


「向こうも、街道の状況を確かめ始めたようね」


リエラが尋ねた。


「ラリオンへ兵を送るため?」


「そこまでは、この紙には書かれていないわ」


タケルは地図を見た。


「それで、どうする?」


「次の動きと照らし合わせる。今は、この報告だけで点検先を変えない」


リエラはアルデラの机に重なった書類を見た。


「見ているだけでも、仕事は増えるのね」


「何を見たのか分からないまま動くよりは、少なくて済むわ」


アルデラは地図へ歩いていった。


オルヴェンと記された場所に触れた。


それから、細長い白紙を一枚取った。


そこに一つの名前を書いた。


ラリオン。


そして、古い名前の上へ置いた。


タケルは黙って見ていた。


リエラが尋ねた。


「隣人?」


アルデラはすぐには答えなかった。


それから言った。


「今のところはね」


彼女は地図から離れた。


「同盟国ではない。敵でもない。まだよく知らない隣人よ」


リエラは新しい名前を見た。


「いつか、どちらかを選ばなきゃいけなくなったら?」


アルデラは答えた。


「その時に選べるように、今、調べているのよ」


窓の外では、兵士たちが門を閉じていた。


遠く東では、レヴェンガルドも自分たちの街道と、そこへ出せる人員を確かめていた。


そしてラリオンでは、ランゼが新しい衛兵の勤務表を仕上げていた。


南の護衛を維持できる交代要員を確保してから、ようやく東へ人を増やした。


重傷の衛兵は人数を揃えるために隊列へ戻されることなく、治療を続けていた。


ショーンゴは、別の王国の地図に、自分たちの町がラリオンの名で記されたことを知らなかった。


その名のそばに、まだ決まっていない将来のための余白が残されていることも。


翌朝に道へ出る者たちの仕事は、変わらない。


荷を確かめ、持ち場につき、帰ってくるために周囲を見る。


それでもラリオンは、よその計画の中で、失われた領土や取り戻すべき町として扱われるだけではなくなっていた。


自分の判断で動く、無視できない相手になり始めていた。


今はまだ、友好的に接してくる者たちにとってさえ。

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