↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/77

エピソード67 場所の代価

閉じた木箱は、ラリオンの住民の大半よりも無事に一夜を越した。


それは南門のそばにある小さな部屋に置かれていた。


町の倉庫ではない。


買い取った商品の一部でもない。


別に置かれていた。


蓋には隊商の錠が残っていた。


二つの取っ手には、ラリオンの確認用の縄が通されていた。


ケルトは朝食前に結び目を確認した。


それから、もう一度。


三度目に身をかがめた時、エンナが戸口で止まった。


「逃げませんよ」


「自分だけではな」


「木箱が門を開けてくれと頼むのを待っているんですか?」


「この一週間を思えば、礼儀正しい木箱まで否定する気にはなれない」


その上の壁には、一枚の紙が掛けられていた。


『未購入

開封禁止

所有者:隊商

管理:ラリオン』


エンナはもう一度読んだ。


包帯を巻いた手は以前より動くようになっていたが、指をかばう癖はまだ残っていた。


「この一週間で、紙が勝手に動くのは十分見ました」


ケルトは上を指した。


「だからこれは、梯子なしでは届かない高さに打ちつけました」


「これで安心です」


「本当に?」


「いいえ」


外から、見張りの短い笛が鳴った。


一度。


間。


二度目。


ケルトは窓から外を覗いた。


南門の前に二人の騎手がいた。


一人目の深緑の外套は、すぐに分かった。


二人目の白い髪も。


エンナは息を吐いた。


「木箱が持ち主を呼んだようですね」


「今度は車輪なしで済みそうだな」


サルマが門へ来た時には、ランゼはすでにアーチの下に立っていた。


盾は背負っていた。


セイガは城壁の上にいて、街道だけでなく両側の斜面も見ていた。


騎手が二人。


馬が二頭。


荷車はない。


旗もない。


深緑の外套を着た背の高い男が、先に馬から降りた。


白い髪の若い女は数秒のあいだ、城壁とセイガと門の向こうの中庭を見ていた。


片手に小さな鍵を持っていた。


サルマはそれに気づいた。


「木箱を取りに?」


「終わっていない仕事を片づけに」


白い髪の若い女は鍵を持ち上げた。


「木箱を取りに」


男は彼女に短く目を向けた。


「短くなったな」


「あなたが望んだんでしょう」


二人の荷物を確認した後、ランゼは横へ退いた。


サルマは動かなかった。


「今回は名前を」


男は、すでに紙を持って近づいてきたケルトを見た。


「タケル・ケル」


ケルトは書き留めた。


サルマは白い髪の若い女に視線を移した。


「リエラ・ノル」


「所属は?」


タケルは数秒黙った。


「昨日までは答えるつもりはありませんでした」


「今日は?」


「ヴェルシャイン」


一瞬、静かになった。


最初にタケルを見たのはリエラだった。


サルマはケルトの紙を見た。


「今、本人の口から確認した。そう書いて」


ケルトは頷いた。


「役割は?」


タケルは落ち着いて答えた。


「この隊商では、交易と道中での判断を担当している」


ケルトがペンを上げた。


「それは役割です」


リエラがわずかに笑った。


「成長してるわね」


後ろからエンナが近づいてきた。


「ゆっくりですが」


タケルは続けた。


「内部の役職名までは、今のあなた方には必要ない」


サルマは頷いた。


「なら、ヴェルシャイン側の交易代表として記録する」


「それで構いません」


サルマはリエラを見た。


「あなたは?」


「交易の補佐。契約では第二署名者になれるわ」


ケルトはそれも書き留めた。


リエラは指のあいだで鍵を回した。


「なら、確実に証明できるものから始めましょう」


「木箱ね」


確認用の縄はサルマが切った。


その前に、ケルトは結び目の状態と時刻を記録した。


切った縄は、前日の保管記録と一緒に残された。


リエラが錠を開けた。


西の路地に住む老いた薬師が門へ呼ばれた。


濃い灰色の肌と短く尖った耳を持つ、ダークハーフエルフの老人だった。


彼は、匙、刃物、清潔な布、空の小瓶を入れた小さな木箱を持ってきた。


検分は慎重に進んだ。


包帯。


乾燥薬草。


粉薬。


薬液。


一つの包みだけは、念入りに調べた。


少量を黒い板の上ですり潰した。


布の端を湿らせた。


色の変化を見た。


「熱さましだ」


次。


「痛み止め」


さらに一つ。


「これは子供には使うな」


ケルトは注意事項を一つずつ書き留めた。


下の区画には、ほとんど無色の液体が入った小瓶が二本あった。


薬師が一本を開け、顔をしかめた。


ランゼはすぐに警戒を強めた。


「何だ?」


老人は手を振った。


「刺激臭のあるものが全部、毒とは限らん」


リエラを見た。


「強い痛みに使うのか?」


「ええ」


「量を誤れば、そのまま目を覚まさなくなる」


「だから瓶が小さいの」


薬師は鼻を鳴らした。


「小さい瓶が人を賢くするわけじゃない」


リエラが短く笑った。


「それは覚えておくわ」


確認が終わると、老人は薬の木箱を閉じた。


「買っていい」


指を一本上げた。


「使うときは頭を使え」


サルマはタケルを見た。


「値段は?」


タケルが金額を告げた。


サルマは一度だけ首を振った。


「高い」


「薬の値段です」


「危険の値段まで混ぜないで」


短い交渉のあと、金額が決まった。


硬貨は全員の前で数えられた。


ケルトは前日の保管記録に線を引き、その下へ書いた。


『ラリオン購入済み』


リエラは錠と鍵を鞄に入れた。


サルマは『未購入』と書かれた紙をケルトへ渡した。


「捨てないで」


「そのつもりはありません」


「どうして驚かないのか、自分でも不思議だわ」


タケルは馬の方へ戻らなかった。


門のそばの中庭で、彼は元門番が使っていた古い部屋を見ていた。


扉はそのまま中庭へ出ていた。


窓は城壁から見える。


サルマは彼の視線を追った。


「次は二つ目の用件ね」


「ええ」


「話して」


「南からの交易を定期的なものにできます」


「何と引き換えに?」


タケルは部屋を示した。


「場所です」


ケルトはすぐにペンを上げた。


「門のそばに常駐の交易代表を一人」


「その者のための部屋」


「その日のうちに売れなかった商品を置く場所」


「自分たちの交易記録を保管する権利」


「それと、古い境界石まで隊商を有料で護衛してもらうこと」


リエラが付け加えた。


「それと、傷みやすい荷は先に検査してもらう」


サルマはすぐに答えた。


「最後の条件はなし」


「考えもしないの?」


「昨日、あなたが検査時間を数えているあいだに考えたわ」


リエラは黙った。


サルマは続けた。


「あなたたちだけ早く通せば、買うことになるのは時間じゃない。他の者より上の場所よ」


「なら、全員に同じ規則を適用すればいい」


ショーンゴが中庭の入口に立っていた。


サルマとリエラが言い合っている間に来ていた。


サルマは彼を見た。


「ちょうどそうするつもりだった」


ショーンゴはタケルを見た。


「他には何が欲しい?」


「常設の交易拠点です」


「倉庫への出入りは?」


「いいえ」


「町の記録帳は?」


「いいえ」


「捕虜は?」


タケルは少し目を細めた。


「いいえ」


ショーンゴはリエラに視線を移した。


「お前は?」


「私は見てみたいけど」


タケルがゆっくり顔を向けた。


リエラは肩をすくめた。


「正直に聞かれたから」


サルマは鼻から小さく息を吐いた。


「少なくとも今日は一つ、包み紙なしの答えが出たわね」


交渉のために町の中心へは行かなかった。


元門番が使っていた古い部屋へ、そのまま入った。


サルマはタケルの向かいに座った。


ケルトとエンナは右側。


ランゼは扉のそばに残った。


ショーンゴは卓の上座ではなく、横手に座った。


セイガは中へ入らなかった。


隣の建物の屋根から、中庭と道と部屋の窓が見えていた。


ケルトは条件を一行ずつ書いた。


登録された代表者一人に、一室を有料で貸す。


室内に置けるのは、代表者側の商品と交易記録のみ。


町の倉庫、内部記録、見張りの勤務表、捕虜への接触は禁止。


古い境界石までの有料護衛は、ラリオンに人手の余裕がある場合のみ。


傷みやすい商品、または緊急治療に必要な品は、誰が持ち込んだかに関係なく優先して検査する。


リエラは最後の一行を読み直した。


「私たちの特権を全員の規則に変えたのね」


サルマは首を振った。


「私たちの規則よ」


「違いは?」


「良い規則なら、誰がきっかけで生まれたかなんて、どうでもいい」


タケルは指で卓を叩いた。


「護衛は?」


ランゼが答えた。


「できる」


「ただし、町に人手が必要なら、隊商は待つか自力で行く」


「払うのは、道中で隊商の隣を守る護衛の代金だ。不死身になる代金じゃない」


リエラは彼の背中の盾を見た。


「正直ね」


「そうでなければ金は取らない」


その後は、細かな境界について言い合った。


個人用の短刀は可。


部屋に武器を備蓄することは不可。


昼間の補佐役は可。


常時宿泊できるのは登録された代表者一人のみ。


ラリオンは理由なく商品を没収しない。


危険性が確認された場合は、没収した物を一つずつ記録する。


個人の商用書簡は読まない。


ラリオンに関わる契約条件を秘密にすることはできない。


次の項目へ移る前に、ケルトはペンを置いた。


「本当に交易しに来たんですか?」


リエラが答えた。


「私も分からなくなってきたわ」


最初に笑ったのはエンナだった。


サルマでさえ短く笑った。


緊張が消えたわけではない。


だが、同じ卓を囲む空気は、もう先ほどまでとは違っていた。


あとは決定を書面にまとめるだけとなった時、タケルはショーンゴを見た。


「ほとんど何も話さなかったな」


「この仕事を俺より知っている者が話していた」


「もし悪い条件でまとまったら?」


「その時は俺の問題でもある」


ショーンゴはサルマ、ケルト、エンナ、ランゼを見た。


「だが、すべての交渉を俺が代わりに終わらせていたら、町は自分の足で立つことを覚えない」


タケルはしばらく彼を見た。


「レヴェンガルドでは、お前について別の話が流れている」


「どんな?」


「ラリオンはお前そのもので、ほかの者は命令を実行するだけだと」


ショーンゴはケルトの記録を見た。


「都合がいい」


「誰にとって?」


「町を一撃で倒したい奴にとって」


タケルは少し首を傾けた。


「違うのか?」


ショーンゴはすぐには答えなかった。


「やらせてみろ」


ランゼが顔を向けた。


ケルトが固まった。


リエラが笑った。


ショーンゴは続けた。


「ただし、今はやめろ」


「まだ書類が終わっていない」


ケルトは息を吐いた。


「これなら普通です」


ケルトは同じ文面を二部にまとめた。


どちらの上にも、同じ見出しを書いた。


『南方交易場の規則』


タケルは二部とも、ヴェルシャイン側の交易代表として署名した。


リエラは、交易側の第二署名者兼証人として。


サルマは、ラリオン側として。


ケルトは、書記として。


エンナは、記録を確認した二人目として。


ショーンゴは署名しなかった。


一部はケルトがラリオンの記録として残した。


もう一部はタケルが受け取った。


タケルはそれに気づいた。


「お前の名前がない」


「俺の部屋じゃないからだ」


「町は?」


「町も俺の部屋じゃない」


リエラが小さく言った。


「それは書いておく価値があるわね」


ケルトは首を振った。


「聞こえのいい言葉を全部、規則にする必要はありません」


門のそばには、すでに何人かの住民が待っていた。


その中に、唇を切った男がいた。


濃い灰色の肌と、やや短い尖った耳を持つダークハーフエルフの男だった。


男は古い部屋を指した。


「今度はよそ者に部屋までやるのか?」


サルマは足を止めた。


「貸すのよ」


「金を取って、私たちの規則で」


「俺も欲しいと言ったら?」


「同じ条件で申請すればいい」


男は黙った。


タケルを見た。


それから、もう一度部屋を見た。


「これは?」


サルマは古い部屋を示した。


「この部屋は、今の契約にすでに含まれている」


「交易が続くなら、ほかの部屋も開ける」


男の顔が満足そうになったわけではない。


だが、問いは変わった。


なぜよそ者には許されるのか、ではない。


自分も同じ条件で借りられるのか、だった。


リエラはそれに気づいた。


馬のそばで、タケルは手袋をはめた。


リエラは木箱の錠と鍵が入った鞄を鞍に固定した。


サルマが言った。


「常駐の代表を送る時は、まず名前」


「次に荷物」


「それから部屋」


「覚えておきます」


タケルは馬に乗った。


ショーンゴを見た。


「お前は、俺たちの目を自分の町に残すことを許した」


「違う」


タケルは待った。


「その目をこちらから見張れる場所に、お前たちが机を置くことを許しただけだ」


リエラの笑みが一瞬消えた。


それから、城壁の上にいるセイガを見た。


「分かったわ」


二人の騎手は南へ進み始めた。


ラリオンの城壁が小さくなった頃、最初に沈黙を破ったのはリエラだった。


「私たちが求めたものとは違うわね」


「ああ」


「荷を早く検査してほしいと言ったら、同じ条件を全員に与えた」


「交易拠点を求めたら、あの人たちの目の前に部屋をもらった」


「護衛を求めたら、誰でも金を払えば頼めるものになった」


彼女は、こめかみの淡い鱗に触れた。


「気に入らないのね」


「逆だ」


「なぜ?」


「全部そのまま受け入れていたら、あいつらにとって悪い兆候だった」


「私たちに何の関係があるの?」


タケルは道を見ていた。


「死んだ町は、悪い交易相手だ」


リエラが小さく笑った。


「やっと商人らしいことを言ったわね」


「あいつらは俺たちを拒まなかった」


「でも、こちらに借りを作ることにも同意しなかった」


「ショーンゴは、ほとんど口を出さずに、決めるべきところだけ決めた」


「そこが重要なんだ」


リエラは振り返った。


ラリオンはすでに丘の向こうへ隠れ始めていた。


「次の隊商は?」


「来る」


「もっと大きい?」


「少しだけ」


「旗は?」


タケルは彼女を見た。


「ない」


リエラは息を吐いた。


「でしょうね」


さらに南では、道が低い斜面と密集した木々のあいだで狭くなっていた。


轍のそばに、簡素な旅装の男がしゃがんでいた。


どこにでもいる旅人のような顔立ちで、道ですれ違っても記憶には残らないだろう。


斜面の上にはダークエルフが立っていた。


フードが顔の大半を隠していたが、長く尖った耳先だけは外に出ていた。


木のそばには、肩幅が広く、やや短い尖った耳を持つダークハーフエルフが待っていた。


誰にも紋章はない。


旗もない。


最初の男は、新しい轍を指でなぞった。


「昨日、ここを通った跡だ」


ダークエルフが尋ねた。


「次は荷車が何台だ?」


「分からない」


「護衛は?」


「それも分からない」


ダークハーフエルフは、斜面と木々のあいだの狭い場所を見た。


「ここだ」


最初の男は立ち上がり、靴の先で自分の足跡を崩した。


「まず見る」


「弱い連中なら商品を取る」


「強ければ?」


男は道を見た。


「その強さが誰のものか確かめる」


三人は木々の中へ消えた。


まだ罠はなかった。


まず必要なのは隊商だった。


その次に、それを守りに来る者たち。


ラリオンでは、場所の代価を決めたばかりだった。


南の街道では、誰かがすでに道の代価を確かめようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。