エピソード52 名を持つ権利
空白の行は本の中で開いたままだった
光ってはいなかった
手へ伸びてもいなかった
返答を求めてもいなかった
だからこそ全員が
その行を長く見つめていた
サルマは開かれた本の左側
干上がった水盤のそばに立ち
鍵を強く握っていた
金属が掌に食い込むほどだった
ベレンはまだ壁のそばで片膝をついていた
ランゼは彼と本のあいだに立ち
盾を低く構えていた
だが誰の目にも境界が見える高さだった
ケルトはページの向かいに座り
手にペンを持っていた
エンナは彼の肩の後ろに立ち
人々を見ていなかった
彼女が見ていたのは
紙の端だった
白い場所が
名を待っているところだった
群衆の中で誰かが古い言葉を囁いた
- オルヴェン
本の行が震えた
強くはない
ただページが
懐かしい匂いを嗅いだように
ケルトはペンを握りしめた
エンナがすぐに彼の手首へ指を置いた
- 書かないで
彼は頷いた
逆らわなかった
今日は従うことさえ
誰かの命を救うかもしれなかった
ショーンゴは本から少し離れて立っていた
彼の影が本に触れない距離だった
彼はページを見ていなかった
人々がページをどう見ているのかを見ていた
中庭には
古くからオルヴェンに住む家々の者たちがいた
一生をレヴェンガルドの本の下で生きてきた者たち
昨日まで
町の名とは印章に載っているものだと思っていた者たち
そして今初めて
名そのものも罠になり得ると見ている者たち
タルヴェンが低く言った
- ここで町の名を呼ぶな
サルマは顔を向けなかった
- なぜ
- 本がその名を
- 古い権利の続きとして取ろうとするからだ
オルデクがほとんど声にならない声で続けた
- 新しい名が古いページに触れれば
- 古いものは死なない
- ただ別の顔を被ることを覚える
群衆がざわめいた
門のそばで誰かが低く罵った
階段の近くでは
女が子どもを抱き寄せた
染工場の少女はメラのそばに立ち
少年の手を離さなかった
彼女の目は本ではなく
レルタの手にある白い布紐に向いていた
ショーンゴが言った
- 古い名はもう取られた
声は大きくなかった
それでも中庭は静まった
- 新しい名は渡さない
サルマはゆっくり息を吐いた
- なら何をする
ショーンゴはケルトへ視線を移した
- 名を書くな
ケルトは目を上げた
- 何を書く
- 拒絶だ
エンナが最初に理解した
- 名は譲渡されていないという証言
ショーンゴは頷いた
ケルトは白い本には触れず
手元から別の白紙を取った
それを別の板の上に置いた
本と記録のあいだに
空間が残るように
ランゼは半歩前に出て
群衆の誰も偶然に机へ触れられない位置に立った
ケルトは書き始めた
- 名のための空白があるページが開かれた
- 名は呼ばれていない
- 名は書かれていない
- 名は古い本へ渡されていない
ペンが紙を掻いた
その音は弱かった
だが今は
旧役所の生きているページのどれよりも
誠実に聞こえた
サルマが手を上げた
- 聞きなさい
群衆はすぐには静まらなかった
彼女はもう一度言わなければならなかった
- 聞きなさい
今度は声が
門のそばの後ろの列まで届いた
- 誰も新しい名を叫ばない
- 誰も扉に書かない
- 誰も旧役所の書記に渡さない
- 誰も二人の証人なしに
- 夜のうちに手紙を町の外へ出さない
手紙という言葉で
門のそばの数人が振り返った
サルマはそれに気づいた
ショーンゴも気づいた
若い衛兵の一人が視線を落とした
罪があるからではない
すでに東への道を考えていたからだった
サルマは彼を見た
- 朝まで門を閉じなさい
- 逃げ道を塞ぐためではない
- 嘘を出さないために
衛兵は頭を下げた
- はい
デランが低く硬貨を鳴らした
- 嘘はいつも隙間を見つける
- だが時には
- 扉で歯を折ってやるのも役に立つ
レルタは笑わなかった
- あるいは証人で
デランは彼女を見た
- なおいい
- 証人は扉より大きな声で叫ぶ
セイガは保管室の入口の右側に立っていた
背を壁につけていた
本も
門も
長く黙りすぎている者たちも見える位置だった
- 恐怖で黙っている者ばかりじゃない
彼は言った
レルタが答えた
- 知ってる
- そして口を開く者が全員
- 真実を語るとも限らない
- だから二人必要になる
サルマはそれを聞き
頷いた
- 夜明けまでに
- すべての路地から二人の証人を出す
- 長老ではない
- 一番裕福な者でもない
- 一番大きな声で叫ぶ者でもない
- 見た者だ
ケルトはそれを別の紙に書いた
エンナが身を寄せた
- 住民とは書かないで
ケルトは止まった
- なぜだ
彼女は本を見た
- その言葉はもう本の言葉でした
- 町の人々と書いてください
少し間があった
それから彼女は
さらに低く付け加えた
- そして
- 町がまだ自分のものと呼ぶことを覚えていない者たちも
ケルトは固まった
サルマは一瞬だけ目を閉じた
それは今日の夜のための言葉ではなかった
だがこの夜はすでに
あまりにも多くの扉を開けすぎていた
明日になれば消えるふりなどできなかった
ショーンゴが言った
- 書け
ケルトは書いた
- 町の人々と
- その保護の下に立つ者たちが
- 証人となる
白い本の空白の行が締まった
まるで
保護という言葉を気に入らなかったように
ショーンゴは手を上げた
空気が重くなった
暗くはない
うるさくもない
ただ重くなった
本は止まった
中庭では囁きさえ消えた
ショーンゴはページに触れなかった
- お前の言葉じゃない
白い行は空になった
ショーンゴはゆっくり手を下ろした
指が一瞬重くなった
それは一息より短かった
だがセイガは気づいた
そして何も言わなかった
壁のそばでリオルが片耳を覆った
メラが振り返った
- 何
- 町が息を吐いた
デランが低く呟いた
- 素晴らしい
- これで本と証人と
- 呼吸する町が揃った
- あとは嘘をつかない奴を見つけるだけだ
オルデクが顔を上げた
- そんな者は少ない
ランゼが短く答えた
- 一人で十分だ
- 隣にもう一人立っていればな
ベレンがようやく口を開いた
- 俺を彼らのそばに記録してはいけない
サルマは彼へ顔を向けた
- 誰もあなたをそばに置いていない
ベレンは目を伏せた
- 話す
- だが本の前では話さない
ショーンゴは彼を見た
- お前の言葉が
- 古い主のもとへ逃げられない場所で話せ
ベレンが震えた
脅しにではない
正確さに
サルマはオルデクへ向き直った
- 場所は
オルデクは少し沈黙した
- 乾燥場の地下室だ
- あそこでは古い本の声が鈍る
- 湿った壁は
- レヴェンガルドの聞き耳を保てない
デランは硬貨を弾いて受け止めた
- ほらな
- 湿気だって時には役人より役に立つ
オルデクは答えなかった
サルマは命じた
- ランゼ
- 門に二人
- レルタ
- 布紐は別に
- ケルト
- 記録は別に
- エンナ
- 言葉を見張って
- リオル
- 町がまた違う呼吸を始めたらすぐに言って
- デラン
- もう嫌な予感がしている
- あなたは路地へ行く
- 叫びを集めるんじゃない
- 見た者を集める
デランはため息をついた
- 最悪の仕事だ
- 人は見るより叫ぶ方が好きだからな
だが硬貨をしまった
そして門へ向かった
染工場の少女が突然一歩前へ出た
メラは止めようとしたが
止めなかった
少年が隣を歩いた
少女はサルマを見た
それからショーンゴを見た
- 私の名前は本に入りません
それは問いではなかった
サルマが最初に答えた
- 入らない
少女は布紐へ視線を移した
- それも
レルタが白い布紐を少し高く上げた
- これは
- あなたを物にできなかった証拠になる
少女は長く見つめた
それから頷いた
群衆は黙っていた
そしてその沈黙は
もう以前と同じものではなかった
以前の人々は
本が代わりに語ってくれるのを待っていたから黙っていた
今の人々は
理解し始めていたから黙っていた
本が代わりに語らないのなら
自分たちで語らなければならない
ショーンゴは空白の行を見た
- 名は後で来る
誰も動かなかった
- 本からではない
- レヴェンガルドからでもない
- 恐怖からでもない
- 手紙を持って最初に門へ走る者からでもない
彼の声は低くなった
だからこそ重くなった
- まずお前たちが証人になる
- それから自分たちが何者になるのかを決めろ
白い本はページをめくらなかった
空白の行は空白のままだった
そしてこの夜で初めて
それは招待には見えなかった
古いオルヴェンの前に閉ざされた扉に見えた




