エピソード30 記録のひび
ショーンゴは次の輪へ一歩下りた
- なら 時間をやるな
もう一人のセイガの手にある よその光は揺れていなかった
均一すぎる
従順すぎる
まるで握られているんじゃない
ただ 存在を許されているだけみたいに
その下で
暗い結び目のそばに立つ男が
ようやく板と板のあいだの薄い光へ入ってきた
男だった
背は中くらい
痩せていて 背筋はまっすぐ
短い黒髪は後ろへ流されている
顔立ちは普通で 目立たない
ただ 目だけが静かすぎた
そこではもう 偶然なんてものは ずっと前に死んでしまったみたいに
暗い服は簡素で整っている
印もない
飾りもない
そして言葉の前に
彼はいつも二本の指で手首の内側へ短く触れた
脈ではなく
記録がまだ一致しているか確かめるみたいに
ケルトはすぐには声を出せなかった
- セヴラン
男は彼へ目を向けた
- いい
- 上にはまだ 俺の名を覚えている者がいたか
ランゼは盾の帯を強く握る
- じゃあ お前が結び目の上に座っている奴か
セヴランはゆっくりと
次の輪へ半歩だけ下りた
こちらへ近づくためではない
中心へ寄るためだ
本当の距離が誰のものか
思い出させるみたいに
- いや
とても静かに言う
- 俺はただ見ているだけだ
- 核が 塵を人と取り違えないようにな
セイガは光の糸をさらに張った
糸は石板の継ぎ目に沿った
だが下へは裂けず
途中で止まる
この広間のどこかが
もう別の道を選んでいたみたいに
それを最初に感じたのはリオルだった
掌の熱が一瞬
指へではなく
右の黒い板の像へ流れた
- 違う
小さく言う
- ここでは 何もかもが
行く先を変えたがってる
ショーンゴはセヴランから目を外さない
- お前は人を核へ導くのか
- それとも ここまで来た者を落としているのか
セヴランはわずかに首を傾けた
- 違いはない
- 余計なものは
近くまで来るべきじゃない
後ろのアーチで
レルタもランも動かなかった
二人とも下を見ていた
もう結末を知っているみたいに
あるいは
知らないことを恐れているみたいに
黒い板が輪になって一度だけ瞬く
規則が動いた
今度は
広間でも
橋でも
塩でもない
板が 一人ずつに
別の形で応えた
セイガは突然見た
掌の中の光の糸が
もう自分の手にはなく
右の黒い板の中の
空っぽの像の手にあるのを
いま引けば
光はあちらへ行く
ランゼは感じた
盾が前ではなく
下を向きたがっている
ショーンゴを守るのではなく
盾のない空っぽの自分を
守らなければならないみたいに
リオルは一瞬
自分が今 誰を癒そうとしているのか分からなくなった
自分か
ランゼか
それとも
黒い面の中で
もう体のものではなくなった熱を抱えている
あの乾いた像か
ケルトまで青ざめ
その場で止まった
まるでこの広間が
彼を消しやすい形を
もう見つけてしまったみたいに
ショーンゴは板ではなく
その下を見た
- セイガ
- 像じゃない
- その下だ
セイガは鋭く息を吐き
光の糸を像の中ではなく
その下の継ぎ目へ通した
糸は細い切れ目みたいに置かれ
黒い面の下に
灰色の網が浮かんだ
生きていて
歪んでいて
誤っている
板のあいだの闇から
ミロスの声が来る
低く
だが正確に
- こいつは俺たちを見せてるんじゃない
- 俺たちを入れ替えてる
セヴランはそちらを見た
初めて
無関心のままではなく
- そうだ
静かに言う
- 核は
もっと扱いやすい人間が来るのを好む
ランゼが鼻で息を鳴らす
- 俺は今の不便なほうが好きだ
彼は前へ飛び込まなかった
盾の縁を
板の近くの継ぎ目へ短く打ち込んだ
セイガがすでに網を開いていた場所へ
打撃は大きくない
だが正しかった
黒い面が波打ち
盾を失ったランゼの像は
まず少しずれ
次に肩から崩れた
この広間でも
他人の嘘を
最後まで正しい角度で支えられなかったみたいに
リオルはすぐにそのずれを掴んだ
熱を体へではなく
彼らのあいだの空気へ流す
第二の縫い目みたいに
記録されたものではなく
今ここに立っているものの拍を
戻すために
セヴランはそれを静かに見ていた
その静けさのほうが 叫びより腹立たしかった
- ずいぶん騒がしく抗う
と彼は言う
- 核は そういうものを好まない
ショーンゴは彼ではなく
板と
写しと
結び目を見た
- それでいい
- 向こうにも覚えさせる
セヴランが二度目に手首へ触れる
規則が動いた
今度 黒い板は輪になって回らなかった
それぞれ別の角度で応えた
ランゼの盾は 突然 半掌ぶんだけ手の中でずれた
前ではなく
下へ
ショーンゴではなく
盾を持たない空っぽの自分を守らせようとするみたいに
セイガは 自分の糸が写しの方へ引かれたがるのを感じた
向こうが強いからではない
そちらの方が楽だからだ
広間が 光に短くて綺麗な道を勧めてくるみたいに
リオルは一瞬だけ分からなくなる
いま 自分が熱で支えているのは誰なのか
自分か
セイガか
それとも
もう自分の光を持たない
あの空っぽの像なのか
ケルトまで震えた
この広間が もう彼のために
消しやすい形を思い出しかけているみたいに
ショーンゴは掌を上げた
だが いつものように前へ圧を出しはしない
短い外套の影が 石板の継ぎ目へ落ちる
石ではなく
境目へ
彼が動かしたのは空気じゃない
誰かの記録でもない
広間が人を繰り返そうとする角度
それそのものだ
微細な代価はすぐに来た
右手が重くなる
その代わり 他の部分は一瞬だけ密度を失う
心臓が歪み
下の次の輪が 本来より遠くへ逃げたみたいに感じた
広間そのものが この動きを拒んだみたいに
それでも境目はもう動いていた
もう一人のセイガの光が乱れる
針は本物の糸を外れ
板の縁をかすめ
板は外側ではなく
内側から裂けた
セヴランが初めて
少しだけ速く顔を上げた
- 空間か
問いでも
驚きでもない
認めたのだ
ショーンゴは平らに返す
- 少しだけ
- お前たちには それで足りる
セイガはやっと
まっすぐ写しを見た
目にあるのは緊張だけじゃない
侮辱だった
- 光はお前のものじゃない
掠れた声で言う
- お前は 冷たく持っているだけだ
写しは答えない
答え方を持っていない
代わりに下の結び目が
さらに強く縮んだ
床の周りから出てきたのは
糸でも
針でも
影でもない
輪だった
細い黒い輪
一つ
二つ
三つ
それらは上へではなく
横へ広がった
誰に正しい形を被せるか
探すみたいに
一つは もう一人のセイガへ
二つ目は ランゼの盾へ
三つ目は 継ぎ目の光の糸そのものへ向かう
- 固めにきてる
セイガが鋭く言う
- させるな
ショーンゴが返す
だが今度は押さなかった
掌を横に払う
短く
鋭く
幕をずらすみたいに
すると 糸へ向かっていた輪が
半指ぶんだけ軌道を外した
それで十分だった
セイガが自分で仕上げる
糸を引き戻すのではなく
板の下の影へ縫い込んだ
ミロスがいる場所へ
一瞬だけ 光と影が一本の線になる
敵ではなく
道具として
ミロスは言葉なしで理解した
継ぎ目に差した刃が さらに半寸だけ深く入る
そして もう一人のセイガを抱えていた黒い板が
今度こそ本当に割れた
爆ぜもしない
轟きもしない
乾いた破断
写しの光は揺れ
細くなり
さらに冷たくなり
最後には ただ消されたみたいに消えた
写しそのものは
心臓一拍ぶんだけ立っていた
そして内側へ崩れ
黒い砕けになって板の中へ落ちた
本当に 生まれたのではなく
急いで書かれただけのものみたいに
セイガは
やっと自分の名を返してもらったみたいに息を吐いた
だが 声にはしなかった
上の井戸のそばでは
母を空っぽの目で見ていた小さな男の子が
急に瞬きをした
身体を震わせ
母を認識した
赤い髪の女は
それをまた奪われるのが怖いみたいに
子どもの肩を掴んだ
灰色の目のデランは その瞬間を見た
そして初めて
硬貨を次へ転がさなかった
地下では 結び目がすぐに応えた
新しい補正だ
ショーンゴの立つ輪そのものが
他人のものになろうとする
石が彼を下へではなく
横へ押し出そうとする
線から外すために
ショーンゴは止まらない
床へ圧を打ち込まない
結び目へも打たない
自分の一歩の道筋そのものをずらした
この広間に
いま自分がどこへ立っているか
誤らせるために
ほんの一瞬
だが十分だった
石が押し出したのは 空の場所だった
ショーンゴはもう 半歩先にいた
ランゼが小さく鼻を鳴らす
- 祝祭向きの計画が また少し良くなったな
リオルは青白いまま
それでも小さく
- 油断するな
- まだ出てない
黒い板は輪になって
もう元の向きには戻らなかった
裏にある線は
もはや完璧には中心へ集まらない
二枚はずれ
三枚目は継ぎ目で震えている
それを最初に見たのはケルトだった
- ひしゃげてる
囁く
- 記録をずらしたんだ
セヴランが手首へ触れる
今度は言葉の前じゃない
自分の静けさを保つために
- 下がれ
少しだけ低い声で言う
- この先は もう試しじゃない
ショーンゴは結び目の方を向いたまま
まだ一つ上の輪にいる
だがもう 言葉の届く場所ではない
- 遅い
静かに言う
- もう こっちも見返してる
今度は押さない
短い判決
ショーンゴは 暗い結び目と それを支えるものの境目をずらした
裂かず
砕かず
ただ 中心が一瞬だけ
正しい支えを失う位置へ置いた
結び目が跳ねる
板の裏の一本の線が消え
二本目は横へ流れ
三本目は継ぎ目で割れた
そして中央の台座の下
石そのものに
亀裂が走る
横ではない
下へ
まるで結び目のさらに下に
もう一つ何かがあるみたいだった
もっと深く
もっと暗く
記録でも
配線でも
房でもない
そして それがいま
上から来た痛みを感じた




