エピソード29 見返してくるもの
そして下で
暗い結び目の下から
もう一つの影がゆっくりと持ち上がった
高く
人の形をしている
だが整いすぎている
生まれたのではなく
書き記されたみたいに
その影は急がなかった
迎えに出てきたのではなく
ずっとそこにいたものが
ただ見えるようになっただけみたいに
板と板のあいだの薄い光へ入った時
そこに男の姿が見えた
背は中くらい
痩せていて
背筋はまっすぐ
短い黒髪は後ろへ流されている
顔立ちは普通で
取り立てて何もない
ただ 目だけが静かすぎた
そこでは もう偶然なんてものは
ずっと前に死んでしまったみたいに
暗い服は簡素で整っている
印も
飾りもない
そして言葉を発する前に
彼は二本の指で短く手首に触れた
脈ではなく
記録がまだ一致しているか確かめるみたいに
ケルトはすぐには声を見つけられなかった
- セヴラン
男は彼へ目を向けた
- いい
- 上の方にも まだ俺の名を覚えている者がいるのか
ランゼが盾の帯を強く握る
- じゃあ お前が結び目の上に座っている奴か
セヴランはゆっくりと
次の輪へ半歩だけ下りた
こちらへ近づくためではない
中心へ寄るためだ
本当の距離が誰のものか
思い出させるみたいに
- いや
とても静かに言う
- 俺はただ見ているだけだ
- 核が 塵を人と取り違えないようにな
セイガは光の糸をさらに張った
糸は石板の継ぎ目に沿った
だが下へは裂けず
途中で止まる
この広間のどこかが
もう別の道を選んでいたみたいに
それを最初に感じたのはリオルだった
掌の熱が一瞬
指へではなく
右の黒い板の像へ流れた
- 違う
小さく言う
- ここでは 何もかもが
行く先を変えたがってる
ショーンゴはセヴランから目を外さない
- お前は人を核へ導くのか
- それとも ここまで来た者を落としているのか
セヴランはわずかに首を傾けた
- 違いはない
- 余計なものは
近くまで来るべきじゃない
後ろのアーチで
レルタもランも動かなかった
二人とも下を見ていた
もう結末を知っているみたいに
あるいは
知らないことを恐れているみたいに
黒い板が輪になって一度だけ瞬く
規則が動いた
今度は
広間でも
橋でも
塩でもない
板が 一人ずつに
別の形で応えた
セイガは突然見た
掌の中の光の糸が
もう自分の手にはなく
右の黒い板の中の
空っぽの像の手にあるのを
いま引けば
光はあちらへ行く
ランゼは感じた
盾が前ではなく
下を向きたがっている
ショーンゴを守るのではなく
盾のない空っぽの自分を
守らなければならないみたいに
リオルは一瞬
自分が今 誰を癒そうとしているのか分からなくなった
自分か
ランゼか
それとも
黒い面の中で
もう体のものではなくなった熱を抱えている
あの乾いた像か
ケルトまで青ざめ
その場で止まった
まるでこの広間が
彼を消しやすい形を
もう見つけてしまったみたいに
ショーンゴは板ではなく
その下を見た
- セイガ
- 像じゃない
- その下だ
セイガは鋭く息を吐き
光の糸を像の中ではなく
その下の継ぎ目へ通した
糸は細い切れ目みたいに置かれ
黒い面の下に
灰色の網が浮かんだ
生きていて
歪んでいて
誤っている
板のあいだの闇から
ミロスの声が来る
低く
だが正確に
- こいつは俺たちを見せてるんじゃない
- 俺たちを入れ替えてる
セヴランはそちらを見た
初めて
無関心のままではなく
- そうだ
静かに言う
- 核は
もっと扱いやすい人間が来るのを好む
ランゼが鼻で息を鳴らす
- 俺は今の不便なほうが好きだ
彼は前へ飛び込まなかった
盾の縁を
板の近くの継ぎ目へ短く打ち込んだ
セイガがすでに網を開いていた場所へ
打撃は大きくない
だが正しかった
黒い面が波打ち
盾を失ったランゼの像は
まず少しずれ
次に肩から崩れた
この広間でも
他人の嘘を
最後まで正しい角度で支えられなかったみたいに
リオルはすぐにそのずれを掴んだ
熱を体へではなく
彼らのあいだの空気へ流す
第二の縫い目みたいに
記録されたものではなく
今ここに立っているものの拍を
戻すために
セヴランはさらに半歩だけ下りた
その何でもない動きの中に
叫びより強い脅しがあった
- お前たちは板を壊しているんじゃない
- この場所の礼儀を壊している
ショーンゴは掌を上げた
だが圧は前へ出さない
短い外套の影が
最も近い二枚の板の継ぎ目へ落ちる
石へではない
境目へ
彼は動かした
空気でも
セヴランでもない
この広間が
人を間違った形で繰り返そうとする角度
それそのものを
微細な代価はすぐに来た
右手の指が重くなる
その代わり
体の他の場所は一瞬だけ危うく軽くなる
心臓が歪み
次の輪が
半掌ぶん遠くへ逃げたみたいに感じた
この動きを届かせまいと
広間が自分で道をずらしたみたいに
それでも境目はもう動いていた
中央のショーンゴの像は消えない
そんなに簡単ではなかった
代わりに
それは誤った
頭はまっすぐのまま
だが肩だけが半指ぶんずれ
右腕が少し高く浮き
足元の影は違う場所へ流れた
広間自身が
いま 自分が誰を写しているのか
一瞬だけ分からなくなったみたいに
後ろのアーチで
ランが小さく言う
- 記録が誤った
レルタは答えなかった
だが手袋の縫い目をつかむ指が
初めて不揃いになる
セヴランはもう一度
手首へ二本の指を当てた
- なら もう礼は要らない
規則が動いた
黒い板は輪になって
中心へ向き直る
同時ではない
波として
一枚
次に二枚
そして三枚
その裏に浮かんだのは
像ではなかった
線
式
道筋
すべてが下の暗い結び目へ集まっている
セイガが青ざめる
- ただの写しじゃない
- ここが全部の配線だ
ケルトが低く言う
- なら 町はとっくに
この場所を通って呼吸してる
セヴランは静かにうなずく
ほとんど礼儀正しく
- いまもそうだ
- 俺たちが
自分の場所を忘れさせないからな
その時
さらに下
結び目のずっと下から
まず声ではなく
音が上がった
低く
平らで
まるで暗闇の中で
巨大な輪が回され
正しい印へ噛み合ったみたいな音
リオルが小さく震える
- こっちを聞いてる
ミロスはもう
三つ目の輪の板のあいだの影にいた
この広間が別の道を与え
彼もそれを断らなかったみたいに
- 聞いてない
とても静かに言う
- 選んでる
セヴランは下へ目を落とした
そこで初めて
あの静けさに別のものが混じる
怖れではなく
注意だ
- 中央へは足を入れるな
- いまは 向こうが
近くで見たがっている
ショーンゴは彼ではなく
暗い結び目を見ていた
- なら見ればいい
セヴランは初めて笑った
薄く
熱のない笑み
- それは好奇心じゃない
- 試験だ
- あれが見ているのは
お前たちが何者かじゃない
- どれだけ書き換えられるかだ
そして中央の暗い結び目が縮んだ
ポンプみたいにではない
心臓みたいにでもない
意志が
いま どこから始めるか決めたみたいに
左手前の黒い板が裂けた
音ではなく
内側の細い光の筋として
その中から
もう一つの姿がゆっくり出てくる
今度は写しじゃない
影でもない
セイガだった
だが掌の光は彼のものではない
冷たく
平らで
従っているのは心臓ではなく
この広間の中心だった
最初にそれを見たのは
セイガ自身だった
その目に一瞬だけ浮かんだのは
緊張だけじゃない
侮辱だった
- 学んでる
掠れた声で言う
ショーンゴは次の輪へ一歩下りた
- なら 時間をやるな




