エピソード31 記録の下
中央の台座の下へ走った亀裂は
速くはなかった
貪るようでもない
石そのものが古い継ぎ目を思い出し
もう支えたくないと決めたみたいに 下へ伸びていった
台座の上の暗い結び目が二度目に痙攣する
板の裏を走る線はさらに大きくずれ
二本はもう中心へ届かず
三本目は途中で途切れた
セヴランの顔から 最後の色が落ちる
- 下がれ
初めて落ち着きを失って言った
- 全員 下がれ
ショーンゴは動かない
- 遅い
亀裂が もう指一本ぶんだけ開く
下から出てきたのは 光でも
影でも
波でもない
純粋な暗い光沢
この広間の下に 何か大きく滑らかなものが横たわり
その上に乗っていた記録の殻だけが いまひび割れたみたいだった
レルタは一つ上の輪に立っていた
まっすぐで
静かで
だがもう無関心ではない
ランは後ろのアーチのそばに残っていた
それより先へは来ない
それだけで十分だった
どこで他人の自信が終わるのかを知るには
ケルトが囁く
- もう房じゃない
リオルは亀裂から目を離さない
- じゃあ 何だ
レルタは静かに答えた
彼らへというより
自分へ言い聞かせるみたいに
- 土台
下から新しい音が上がる
打撃じゃない
足音でもない
巨大な輪が石に擦れるみたいな
低く 長い音
ショーンゴはさらに半歩だけ前へ出る
ランゼもすぐに動き
盾を体に沿わせて その後ろを取る
セイガは左 光の糸を板の継ぎ目へ
リオルは右 もう指の震えは少し収まっていた
ミロスはさらに下
板のあいだの暗がりに消えていて
見えるのは ただ裂け目みたいに濃い影だけ
台座の上の暗い結び目が 最後にもう一度縮む
そして 縦に裂けた
爆ぜない
砕け散らない
殻みたいに開いた
中にあったのは 核
大きくはない
人の頭ほどの大きさ
黒く滑らかで
細い銀の脈が走っている
この場所の設計そのものを 球に丸め
心臓も血もないまま 脈打たせているみたいだった
炎も
輝きもない
ただ 正しすぎる
均一すぎる
生きていてはいけないものが
それでも 生きているみたいな完全さだけがあった
セイガが息を漏らす
- 本物だ
セヴランが鋭く彼を見る
- 長く見るな
遅かった
核は 視線に応えた
規則が動く
今度 板は像を見せなかった
この広間そのものが
よそのものを映すことをやめた
代わりに 一瞬だけ
それぞれの中から
自分のものが消えた
ランゼは 盾の重さを感じられなくなる
軽いのでも
重いのでもない
ただ 金属を持っている感覚そのものが消え
両腕は 空の形だけを抱えているみたいになる
セイガは 自分の光の糸と
板の継ぎ目に走る灰色の網の区別を失う
一瞬だけ
どこまでが自分の魔法で
どこから先が この広間の導きなのか 分からなくなった
リオルは 手の中に熱があるのを感じる
だが それは自分のものじゃない
誰かの監視つきで 使わせてもらっている熱みたいだった
ケルトは口を開き
自分がまだケルトなのか
それとも ここでまだ完全には消されていないだけの人間なのか
分からなくなった
ミロスでさえ
板のあいだの影で 初めてわずかに輪郭を失う
肩の端が一瞬だけ見えた
この場所が 彼からも 隠れる権利を剥ぎ取ったみたいに
ショーンゴだけは
別の形で感じていた
核は 一歩を奪わない
渇きも
重さも取らない
代わりに 決めようとしていた
自分のどの部分までが ショーンゴであることを許されるのかを
微かな代価は 行動の前から来た
右手が重くなる
心臓が鈍く一度 打つ
頭の中で 自分の名が一呼吸ぶんだけ小さくなる
音ではなく
自分である権利そのものに 何かの指が触れたみたいに
ショーンゴは 核の黒い表面を見ない
銀の脈だけを見る
構造を見る
その正しさが 緊張でつながれている場所を見る
- セイガ
- 継ぎ目は見えてるな
セイガは歯を食いしばり
光の糸を持ち上げる
核の中心へは向けない
銀の脈の一本に沿わせるように置いた
光は 正確に乗った
その一筋が 一瞬だけ
他の線よりはっきり見える
そこにあるのは力ではなく
道筋だと分かる見え方だった
- 見える
セイガが掠れた声で言う
- こいつは鋳られてない
- 縫われてる
- ミロス
ショーンゴが呼ぶ
下の影から すぐに声が返る
- もういる
ミロスは 核へ跳びつかなかった
台座にも登らない
その下の継ぎ目
土台の影をなぞりながら進み
刃で 中心ではなく
二度書きされた支えの位置を探していた
- ここに継ぎがある
ミロスが言う
- 古い
- しかも雑だ
セヴランはそれを聞き
初めて本気で動いた
前へでも
ショーンゴへでもない
台座へ向かって
いまならまだ
自分の体で 閉じられると思い出したみたいに
だが ランゼがもうその間に入っていた
盾は 迷わず元の位置へ戻る
考えじゃない
誰を守るのかを 体が先に思い出したからだ
セヴランは 武器ではなく 掌で打つ
盾の縁へ
音は小さい
だが ランゼの足元の石板には
細い灰色の罅が蜘蛛の巣みたいに走る
重さは金属へではなく
床そのものへ流し込まれたみたいだった
ランゼは片膝をつく
それでも盾は下がらない
- ほんと嫌な手だな
歯のあいだから吐く
リオルは 熱を胸ではなく肩へ送る
関節へ
腕が下へ落ちないように
その代価は即座に返る
自分の腕が 手首から肘まで白くなり
色の半分を剥がされたみたいだった
レルタが上の輪から鋭く言う
- セヴラン
- もうやめて
彼は振り向きもしない
- 土台を崩されたら
- 全部が落ちる
- その通りだ
ショーンゴが返す
- 今度は 正しく落ちる
ショーンゴは 押さない
空気も切らない
結び目も打たない
ただ 境目を置いた
短く
硬く
セヴランと台座のあいだに
壁でも盾でもない
ここから先へは行けないという 条件そのもの
セヴランは その境目へ踏み込む
体は前へ出る
だが 空間が否と言う
その否が 半拍ぶんだけ彼を止めた
ランゼはその一瞬を奪う
膝から起き上がり
盾の縁で胸ではなく脇を打つ
台座へ向かう線から セヴランを外すために
打撃は鈍く
重く
正確だった
セヴランは右へ流れる
無様じゃない
現実に崩れる
足で踏ん張ったが
もう正しい角度は失っていた
- 今だ
ショーンゴが短く言う
セイガは光を打たない
銀の脈をもう一度縫う
今度は その脈と床の継ぎ目を交差させる
交点に 細い灰色の裂け目が走る
ミロスはもう台座の下で待っていた
刃は中心へではなく
自分で言った あの継ぎの悪い支えへ入る
音は小さい
この広間には似つかわしくないほど小さい
カチリ
だが そのあとで初めて
核そのものが本当に震えた
銀の脈が跳ね
一本は黒ずみ
空気の中の正しさそのものが 傾いた
核は学ぶのが速い
だが 間に合わなかった
ショーンゴはそれを見た
今度は圧でも
ずらしでもない
短い切断
核の表面じゃない
黒い殻と銀の脈の境目
それが 自分を一つとして保っている縫い目へ
微かな代価は すぐに牙を立てる
右腕は肘近くまで痺れ
心臓は二度 ずれた拍を打ち
この広間が一瞬だけ はるか遠くへ退いた
まるで 自分だけが空虚の中に立たされたみたいに
だが 切断はもう通っていた
核は爆ぜない
真っ二つにもならない
代わりに 間違えた
一本目の銀の脈が
あるべき線から外れ
続いて二本目
三本目
暗い球体は 一瞬だけ
一つの全体ではなく
噛み合わない角度の寄せ集めになる
セイガがそれを見て 息を呑む
- 間違ってる
レルタは上の輪で 青を通り越すほど白くなる
唇から色が消えた
- いや
囁く
- 崩れてる
地上の井戸では
デランの桶の水が 突然 全体で震えた
波ではない
底の下で 硝子の型そのものが割れたみたいに
さっき母を見分け直した男の子の目は
今度こそ完全に澄んだ
彼は母の袖を 自分の意思で掴む
よその女じゃない
母として
赤い髪の女は
黙って泣いた
喜びというより
張り詰めていたものに やっと罅が入ったからだ
デランは硬貨を握りしめ
初めて水ではなく
倉庫の上の空へ目を向けた
町がまだ 同じ地の上に立っているのか
確かめたいみたいに
地下では
中心の核は もう正しい形を保てていなかった
それを見たセヴランの目に
初めて現れたのは 落ち着きでも
怒りでもない
むき出しの恐怖だった
- 台座から離れろ
鋭く言う
- 今度は全部まとめて落ちる
ショーンゴは核から目を離さない
- いい
静かに言う
- 落ちればいい
中心の暗い球体は
まだ一瞬だけ生きていて
まだ恐れられるだけのまとまりを保ちながら
最後にもう一度 縮んだ
その下
台座の中に
二本目の亀裂が走る
そのあとに
三本目も
もう明らかだった
あと一つ
正確な手が入れば
町の下にある局所の結び目は
今度こそ 耐えられない




