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エピソード27 距離の尺度

女の声は大きくなかった

それでもこの縦穴では

自分の呼吸よりはっきり聞こえた


向こう側のアーチに立っていたのは女だった

背は高くない

細い

飾りのない暗い外套

明るい髪は低くまとめられ

目を邪魔しない

灰色の目は静かで

急きがない

言葉を発する前に

彼女はいつも親指で手袋の縁を短くなぞる

縫い目がまだそこにあるか確かめるみたいに


その右には男

背が高く

肩は広い

暗い簡素な上着

茶色い目はまっすぐこちらを見る

挑発はない

左手は帯に置き

右手は石のアーチに軽く触れていた

骨で聞いているみたいに


女が半歩前へ出る


- 着くのが 思ったより早かった


ショーンゴは橋の最初の石板に立つ

ランゼはすぐ後ろ 中央 盾は斜め

セイガは左 光の糸を縁に沿わせる

リオルは右 壁寄り

ケルトはショーンゴの肩の後ろ

ミロスは見えない

だが橋の下の影は

ただの影にしては濃すぎた


ケルトが乾いた息を吐く


- レルタ


女は否定しない

ただもう一度 親指で手袋の縁をなぞる


- まだ覚えていてくれてよかった

- それで時間が省ける


ランゼが声を落とす


- で あっちは


- ラン

レルタが言う

- 橋を量る人よ


ランは笑わなかった

ただアーチから指を離し

橋へ一歩出た


何も起こらない

波も

印も

それでも全員が感じた

縦穴の空気が妙に軽くなった

前みたいには重さを支えなくなったみたいに


セイガは光の糸をさらに低く落とす

糸は石板の縁に沿う

その瞬間 さらに細くなった

密度だけ抜かれたみたいに


レルタは顔を見ない

足元を見る

肩の角度を見る

それぞれが 自分の中心をどう持っているかを見る


- あなたたちは もう吸い上げを見た

- 重さも見た

- 道筋も見た

- ここは違う

- この橋が取るのは一歩じゃない

- 虚ろより重く在る権利よ


リオルが小さく


- つまり


ランが初めて口を開く

低く

落ち着いた声


- つまり落ちるのは 下じゃない

- 先に 軽くなりすぎる


彼はそれを誇張せずに見せた


かがみ

石の欠片を拾い上げ

掌に載せる

それから奈落の上へ軽く放る


欠片はすぐには落ちなかった

一瞬だけ宙で止まり

下という意味を忘れたみたいに

それから静かに横へ流れた

橋の下の闇へ

深さじゃない

横の虚ろに持っていかれたみたいに


ランゼが盾の帯を握る


- ますます好きになれないな


セイガは糸から目を離さない


- 体の重さを読んでるんじゃない

- 足場を信じる度合いを読んでる


レルタが初めて興味を向ける


- 頭は悪くないのね


ケルトが堪えきれず言う


- 通せ

- こっちはもう結び目に触れた

- 戻っても お前たちだって無傷じゃ済まない


レルタはページをめくるみたいに彼を見る


- 平穏はもうここでは流通していない

- 私が聞いてるのは別

- あなたたちは その持ち込んだ光を先へ運ぶの

それとも橋に置いていくの


ショーンゴはすぐ答える


- いや


レルタはうなずく

まるでそれを聞きたかったみたいに


- なら橋が あなたたちを量る


彼女は手を振らない

印を打ちつけない

叫びもしない


ただ三度目に手袋の縁へ触れた


規則が動いた


縦穴が息を吐く

乾きの房みたいでもなく

天秤みたいでもない

別の息だ


ランゼの盾が急に軽くなる

軽すぎる

武器じゃない

空っぽの形みたいに

帯は肩に食い込むのに

重さを伝えてこない

それが重さより怖い


セイガは

光の糸が石板から浮き上がりたがるのを感じる

光まで 足場を信じなくなったみたいに


リオルは半歩だけ踏み出し

すぐ止まる

体が あるべきより軽く前へ滑った

重さの一部を

誰かに無断で差し引かれたみたいに


ケルトは縦穴の壁に肩をぶつけ

それでやっと止まる

顔色はさらに悪くなる


ショーンゴは動かない

だが初めて知る

足裏はまだ石板の上にあるのに

膝はもう

その石板に支えられていいのか疑っている


ランはもう一度 橋へ出る

自然に

まるでこの規則だけは

自分を数えていないみたいに


橋の下の影から ミロスの声


- あいつは石板を歩いてない

- 縫い目を歩いてる


ショーンゴは視線を落とす


そして見た

橋の中心に

細い暗い線が通っている

亀裂でも

塩でもない

縫い目だ

橋そのものが

二つの違う法を縫い合わせたものみたいに


セイガはすぐに

光の糸を縁ではなく その縫い目へ置く

糸は震えた

だが離れない

正しい場所に触れていた


レルタがまた手袋をなぞる


- その方がいい

- 少なくとも 無作為には死ななくなる


ランゼが鼻を鳴らす

盾が少しだけ上がる


- 祝祭向きの計画は 下へ行くほど質が落ちるな


リオルは彼を見ずに 小さく返す


- でも やっと計画らしくは聞こえる


ショーンゴは掌を上げる

レルタへでも

ランへでもない


縫い目へ


彼は圧を縦穴の空気じゃなく

橋が自分の形を覚えている線へ向けた

石に思い出させるみたいに

お前はまだ石であって

誰かの意思そのものじゃないと


微細な代価はすぐ来た

右手の指が重くなる

その代わり

体の他の場所は危ういほど軽くなる

心臓が一度だけ歪む

空間が一呼吸ぶんだけ遠くなる


それでも 橋の縫い目は震えた


ランは初めて

アーチから指を完全に離し

半歩だけ下がる

怖れじゃない

距離を測り直すために


レルタはそれを見た

ショーンゴも見た


それが最初の本当のずれだった


- つまり お前たちにも落ち先はあるんだな

ショーンゴは静かに言う


レルタはすぐには答えない

灰色の目は冷たくなる

だが空ではない


- みんな落ちる

- ただし 全員が下へじゃない


縦穴のもっと深く

ずっと下で

ショーンゴの圧に何かが応えた


声じゃない

打撃でもない


巨大な石の輪が

下で新しい目盛りへ回されたみたいな音


セイガが青ざめる


- 橋は独立してない

- もっと下の何かに繋がってる


ケルトが囁く


- なら もう近い


そしてレルタは初めて笑った

ごく薄く

その笑いで 橋はさらに細く感じられた


- いいえ

- これは ただの敷居

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