エピソード26 核への階段
地上では 町がまだ呼吸を学び直していた
井戸のそばでは 人々が囁いていた
声さえ税になるかもしれないみたいに
あの灰色の目の男は もう落ち着いて立っていた
背は中くらい
肩は広い
暗い色の短い上着
小さな袋のついたベルト
硬貨はまだ指の間を回っている
一度
二度
三度
そのそばで 赤い三つ編みの女が止まった
灰色の外套
袖には巻かれた布
顔は疲れている
それでもまっすぐだ
壺を持つ手の震えを見せたくないみたいに
- デラン
- もう終わったの
灰色の目は 桶の水から離れない
- いや
- リズムが変わっただけだ
男は倉庫の方へ顔を上げる
硬貨が一拍ぶんだけ 指の間で止まる
女はそれに気づいた
- また聞こえるのね
- ああ
デランは小さく言う
- あいつらは もっと下へ降りた
倉庫の下
裂けた壁の向こうの階段は狭かった
ここではもう 石の地肌はほとんど見えない
長い間 何か滑らかで暗いものに削られてきたみたいだ
塩だけが縁に残る
薄い白い縁取りとして
上の階層の記憶みたいに
ショーンゴが先頭
ランゼはすぐ後ろ 中央
盾は少し斜め
セイガは左 階段の縁へ光の糸を置く
リオルは右 指先にはまだ熱がある
だが前ほど確かではない
ケルトはショーンゴの後ろ
呼吸は短く 乾いている
ミロスは二呼吸ぶん消え
階段の下で影として戻る
アイラは上の裂け目のそばに残った
これより先へは来ない
三段目で
全員が二つ目の足音を聞いた
後ろじゃない
前でもない
横だ
ランゼが鋭く振り向く
盾があやうく壁を叩く
だが肩のそばには誰もいない
ケルトが青ざめる
- 二度目は振り向くな
- ここでは距離が止まっていない
セイガはすぐに 光の糸をもっと低く落とす
石じゃない
階段と階段のあいだにある空間の縁を縫う
すると二つ目の足音は少し遠くなる
光が一瞬だけ 階段に本当の距離を思い出させたみたいに
ショーンゴはもう一歩
そして新しい感覚を知る
渇きじゃない
重さでもない
距離だ
足の下の段が 目で見るより近い
次の段は あるべきより遠い
石はそのままなのに
道だけが引き伸ばされているみたいに
彼は速度を落とさない
ただ リズムを覚えた
- もうこれは吸い上げじゃない
リオルが低く言う
- 水じゃない
道筋を取ってる
ケルトが飲み込む
- もっと下では 道筋を取る
- 自分の歩幅じゃなければ
階段が勝手に別の場所へ連れていく
ランゼが歯を食いしばる
- 結構だ
- 階段まで 俺より賢いつもりか
セイガは振り向きもせずに返す
- お前相手なら
それほど難しくない
ランゼが短く鼻を鳴らす
少しだけ 可笑しい
少しだけ
ショーンゴは振り向かない
だが口元がほんの少し動いた
- 祝祭向きの計画だ
- 下まで着いて
階段で喧嘩しない
空気が一瞬だけ 人間のものに戻る
本当に一瞬だけ
やがて階段が終わる
下にあったのは縦穴
丸く
高く
目には底が見えない
内側を沿うように 細い石橋が巡っている
虚ろを抱くように弧を描き
反対側の暗いアーチへ続いていた
縦穴の中央には 黒い芯が吊られている
柱でもない
鎖でもない
その中間の何か
数拍に一度だけ
その表面を鈍い反射が走る
まるで下から上へ
まだ道は生きていると知らせているみたいに
セイガが最初に 左の橋の入口で止まる
光の糸を縁へ這わせる
本当の線を示すために
ランゼは少し前 中央
盾で左の奈落からショーンゴを守る位置
リオルは右側
縦穴の壁寄り
ケルトはショーンゴの背後 一枚目の石板の上
ミロスはもう視線より低いところにいる
橋の下の影のほうが 開けた道より彼に従った
その時
全員がまた足音を聞く
今度は橋の上
こちらへ向かってくる
規則正しく
落ち着いて
数は二つ
向こう側のアーチに
二つの影が現れる
まだ輪郭だけ
暗い石の枠を背にしている
一つは背が高く 肩は細い
もう一つは低い
だが まるで自分が最後に終わらせる者だと言うような立ち方だった
ケルトが乾いた息を吐く
- だからアイラはここから先に来なかった
ランゼが盾の帯を引き直す
- 知ってるのか
- いや
ケルトは言う
その響きは 知っていると言うより もっと悪い
- 顔じゃない
- この階層を知ってるだけだ
ショーンゴは橋の前に立つ
影ではなく
自分とあいつらのあいだの線を見る
縦穴がもう 距離を測り始めているのが分かった
黒い輪は光らない
だが周囲の空気は濃くなる
虚ろそのものが
近づく権利を持っていいのか迷っているみたいに
その時
向こう側のアーチの闇から
女の声が響いた
静かで
平らで
叫びのない声
- 着くのが 思ったより早かった




