エピソード24 吸い上げの房
天秤の奥の裂け目は 塩気を吐いていた
冷たさじゃない
塩そのもの
この先にあるのは坑道じゃない
空気がずっと鉱物と混じり合ってきた
古い貯蔵場みたいな場所だった
ショーンゴが先に立つ
アイラは左で 半歩だけ前
導くのではなく
ただ 石がまだ閉じない場所を示しているだけだ
ランゼはすぐ後ろ 中央
盾は斜め
セイガは左 床の継ぎ目に沿って光の糸
リオルは右の壁際 指は温かい 代価を受け止めるために
ケルトはショーンゴの肩の後ろ
ミロスは後ろの影
そこだけは 闇のほうがまだ 彼の言うことを聞いた
通路は下へ続いていた
天井はさらに低くなる
石には白い膜が浮いている
埃でも
石灰でもない
塩だ
一息ごとに喉が削られる
空気が細かい硝子をくぐってきたみたいに
ケルトが飲み込み 顔をしかめる
- もう帳面じゃない
- これは吸い上げの本線だ
アイラは振り向かない
- 本線じゃない
- 房よ
- 上で剥いだものを ここで集めるの
通路は唐突に広間へ開いた
長く
平らで
石だけの広間
壁沿いには塩に覆われた溝が走っている
昔はそこを何かが流れていた
今は ほとんど流れない
でも 石が覚えるにはそれで充分だった
二つの溝に 死体が横たわっていた
骸骨じゃない
新しい死体でもない
その中間
肩幅の広い大男たち
水も
重さも
肉の張りさえも抜かれたみたいに干からびている
皮は骨に貼りつき
腕は まだ何かを持ち上げようとしていた形のまま固まっていた
セイガが光の糸で その一つを照らす
光が塩に触れ
白い膜は一瞬だけ 縁から黒くなる
光を見たくないみたいに
リオルが最も近い死体のそばへ身をかがめる
指が首に触れ
次に肋へ
- 切られてない
リオルが低く言う
- ただ 抜かれただけだ
広間の中央には低い石の鉢
その上に 結び目が浮かんでいた
白く
筋張っていて
中には黒い線が走っている
心臓でも
結晶でもない
塩を吸い上げるためのポンプみたいなもの
暗い管に支えられ 宙に吊られている
それは規則正しく縮む
一度
二度
縮むたび 壁の塩は少しだけ白さを増した
アイラは鉢の二歩手前で止まる
淡い目に 初めて規則ではなく
用心が宿る
- まだ核じゃない
- ただのポンプ
- 起こし方を間違えたら
道筋なしで取り始める
ショーンゴはアイラを見ない
暗い管を見る
それが壁に
床に
鉢に入り込むところを見る
どこに本当の勘定があるのかを探っている
ポンプがもう一度 縮んだ
足元の石板がわずかに震える
規則が動いた
波が来る
押し潰す力じゃない
打撃でもない
抜き取る波だ
ランゼの唇が一瞬で裂ける
血が細い線でにじみ
顎へ届く前に 濃く暗くなる
血まで 先に水を失っていくみたいに
セイガは喉を押さえる
光の糸は脆くなる
まるで光ではなく
硝子でできたみたいに
リオルは掌の熱が 乾いた熱に変わるのを感じる
消えたんじゃない
流れなくなった
ケルトは肩を壁に預ける
足が軽すぎる
筋肉が重さを石に渡し始めたみたいに
影の中のミロスでさえ 小さく揺れる
足元の闇が薄くなる
この房は 影からさえ水気を剥ぐみたいに
闇であるために必要なものまで奪う
ショーンゴが掌を上げる
アイラへじゃない
ポンプへでもない
管へ向けて
形を押すんじゃない
抜き取りの道筋そのものへ圧を差し込む
波の動きに楔を打つみたいに
空気が硬くなる
鉗子みたいに
ポンプが震える
白い筋の一本が張りつめる
だが まだ裂けない
ショーンゴはすぐに微細な代価を受ける
右手の指は骨まで痺れる
心臓が半拍ぶん狂う
視界が一瞬だけ暗くなる
空間までも 自分の分を持っていくと決めたみたいに
アイラが囁く
命令じゃない
ほとんど人間らしく
- そこじゃない
- 蓄えを叩くな
- そこには もう上で剥いだものが溜まってる
ランゼの呼吸は荒い
盾が奇妙に軽い
軽すぎることが 重さより恐ろしい
リオルは熱をランゼの胸へ送る
癒しじゃない
ポンプだ
肺が乾いた袋にならないために
その代価は重い
リオルの両手の指は ほとんど白くなる
爪は灰色を帯びる
水分が真っ先に抜けたのが見て取れた
セイガは歯を食いしばる
叩く代わりに
鉢の縁へ光の糸を置く
亀裂に縫い目を置くみたいに
光が塩に触れる
縁の白い膜は また黒くなる
近くでその光を見たくないみたいに
ミロスはそこを見る
ポンプへじゃない
鉢の下へ
一本の暗い管が 他より低く石板へ入っている場所へ
刃が継ぎ目に触れた瞬間
冷えが手首を打つ
手が自分から開きそうになるほどだ
ミロスは引かない
角度だけを変える
そして見つける
その管が 完全なままでいることに疲れた場所を
ショーンゴは理解する
圧を強める代わりに
左へずらす
壁の継ぎ目へ
この房が まだ帳消しにしきれていない
古い湿り気が 石の裏に残る場所へ
石が短く割れる
歯みたいな音で
継ぎ目から 暗い塩水が噴き出す
濃く
刺すような塩気
それは石板を叩き
下から鉢へぶつかる
ポンプが引きつる
白い筋の一本が黒ずむ
抜き取りの波が乱れる
乾かす代わりに
逆に飲まされたみたいに
ランゼは胸いっぱいに空気を入れる
数拍ぶりに 本当に息を吸えた
セイガも飲み込む
光の糸はまた柔らかくなる
硝子じゃない
光へ戻る
リオルは肩を壁に預ける
両手は震えている
それでも指先には熱が少し戻っていた
全部ではないにせよ
アイラは鉢へ一歩近づき
そこで止まる
もう半歩行けば
ポンプが道筋なしで取り始めると分かっているからだ
- 抜き取りを混ぜたのね
アイラが掠れ声で言う
- 房に 別の蓄えを飲ませた
ショーンゴは掌を下げない
ただ圧を髪の毛ほど弱める
広間が飢えに転ばないように
- 核はどこだ
アイラはポンプを見る
次に溝の死体を見る
それからようやくショーンゴを見る
- この先
- でも これが止まれば
その先にいるものは もっと早く目を覚ます
ケルトは袖で唇を拭う
血はほとんどない
乾いた筋だけが残る
- 脅してるんじゃない
ケルトが言う
- 取引してる
ショーンゴはポンプを見る
暗い管を見る
黒ずんだ筋を見る
塩水に触れさせた場所を見る
理解する
これは核じゃない
支払いを町へ送り
また戻すための中継の結び目
ただのポンプだ
その時
ポンプが三度目に縮む
今度は
奪うためじゃない
呼ぶために
遠い壁の向こう
もっと深く
塩を孕んだ石の下で
何かが応えた
足音じゃない
声でもない
ゆっくりした一撃
大きな 生きた核が
いま 目を開いたみたいに




