エピソード23 町は払うべきじゃない
地上では街がまだ夜を抱えていた
だからこそ 払う音が聞こえた
井戸のそばで
二つの樽を一人で運んでいた力自慢の男が
突然 軽くなった
軽すぎた
皮膚が骨に貼りつく
まるで水を抜かれたみたいに
男は膝をつき
口は開いたのに
舌は かすれ声一つ出すだけの水分さえ見つけられなかった
人々は下がる
誰かは十字を切り
誰かは神殿へ走り
誰かはただ見て
何をすればいいか分からない
そこへ
印のない暗い上着の男が来た
背は中くらい
肩は広い
短い黒髪
目は灰色で落ち着いている
群衆を扱うことに慣れた目だ
腰には小さな袋のついたベルト
指の中で滑らかな硬貨を転がす
秒じゃない
それで瞬間を数えているみたいに
- どけ
- 水を持ってこい
- 温かい布だ
- 腕を引くな
叫びじゃない
それでも人が動く
この声は パニックを何度も見てきた声だ
男は膝をつき
一瞬 男の胸を見る
傷じゃない
肋の動きだ
- 息はある
- なら まだ差し引かれてない
男は顔を上げ
倉庫の方を見る
硬貨が心臓一拍ぶん止まり
また回り出す
倉庫の下
ショーンゴは石の天秤の前に立つ
皿は二つ
左は空
右は暗い
見えない重さが載っているみたいに
ランゼは中央で二歩後ろ
盾は斜め
乾きの波を受ける構え
セイガは左の線のそば
光の糸を床に押しつける
縫い目みたいに
リオルは右の壁際
指は温かい
だがそれだけじゃ足りない
ケルトは入口に近い
道を見失わないために
ミロスは左隅の影
石と床の継ぎ目に寄る
アイラは天秤の脇
印のない暗い外套
髪は後ろにまとめ
淡い目に怒りはない
手に薄い板
爪で縁を叩く
三回
いつも三回
奥の石板が瞬いた
規則が動く
右の皿が重くなる
乾きの波が広間を走らない
上へ行く
見えない通路を通って
リオルが青ざめる
- 上から取ってる
- 俺たちじゃない
ケルトは飲み込む
だが倒れない
喉が埃みたいに乾く
アイラは平らに言う
- もう分かっただろう
- 軸が町を支え
- 町が軸を支える
輪だ
ランゼが小さく
- なら軸を折る
アイラは脅さない
警告する
- 軸を折れば
扉が開くんじゃない
飢えが開く
町は一分で空になる
ショーンゴは軸を見る
アイラでも皿でもない
重さが決まる場所
すでに代価が来ている
舌が一瞬 乾く
右手が石みたいに重くなる
心臓が他人の拍を押しつけられそうになる
ショーンゴは掌を上げた
殴るためじゃない
流れを変えるため
圧を波の道筋そのものへずらす
止めない
別の道へ行かせる
下へ
石へ
壁へ
廊下が隠していた地下水へ
空気が硬くなる
鉗子みたいに
ショーンゴはすぐ微細な代価を受ける
右手の指が石みたいに重くなる
心臓が一度だけ歪む
空間が一秒だけ言うことをきかない
怒ったみたいに
それでも立つ
アイラが半歩動く
初めて 余計に速い
爪を三回叩く
奥の石板が二度目に瞬いた
貢ぎが引かれる
今度の波は一点
ランゼの肺へ
ランゼが折れる
口から乾いたひゅうという音
咳じゃない
空気が砂になったみたいだ
リオルが壁から半歩だけ離れる
熱は少ない
それでも掌をランゼの胸へ押し当てる
癒しじゃない
心臓を押し返すための熱だ
乾きで止まらないために
代価がリオルに出る
指が白くなる
熱と一緒に水分を渡したのが分かる
セイガは光の糸を広く張る
網みたいに
槍でも閃きでもない
縫い目だ
糸が波の道筋に触れる
止めない
縫い直す
ミロスは影の中で
軸と床の継ぎ目へ滑る
刃が触れるのは軸じゃない
軸が石板に書かれている縫い目
冷えが手首を叩く
廊下が言うみたいに
触った分は払え
ミロスは引かない
角度を変える
縫い目が自分から裂けたがる場所を見つける
カチリ
割れじゃない
従順じゃなくなった許可の音
乾きの波がつまずく
一秒だけ道を失う
その一秒で
地上の井戸の男が息を吸った
胸に動きが戻る
筋肉はまだ戻らない
だが命が もうあんな速さで逃げない
地下でアイラが止まる
淡い目が鋭くなる
- 重さをすり替えている
- 町の代わりに石に払わせたいのか
ショーンゴは平らに
- 生きてないものに払わせる
アイラは一拍 黙る
そこに見える
彼女は狂信者じゃない
空っぽも望んでいない
- 私たちの道具を奪う
アイラは少し低く言う
- だが もっと深い所で軸を握る者を見ていない
そこは天秤じゃない
核だ
ケルトが囁く
- 嘘じゃない
久しぶりに
自分にも言い聞かせる警告だ
ショーンゴは掌を下げない
ただ圧を指一本ぶん弱める
波が完全に切れないように
- 案内しろ
ショーンゴが言う
アイラは天秤を見る
石板を見る
そして三回叩く
今度は印じゃない
鍵だ
天秤の奥の石板が
細い線で開く
扉じゃない
裂け目だ
中から来たのは冷気じゃない
塩気
干上がった海の匂い
ランゼは盾を重く持ち上げる
だがまっすぐだ
セイガは光の糸を細い縫い目に戻す
リオルは壁に寄り
癒しが切れないように
ケルトはショーンゴに近づく
恐れを隠すのをやめたみたいに
ミロスは一息だけ消え
新しい裂け目のそばへ影で戻る
ショーンゴは塩の空気へ一歩
その瞬間 理解する
次の代価は
一歩でも言葉でもない
身体だ
そして
生きていられる権利だ




