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エピソード22 借りの重さ

壁のない線が前へ伸びる

通路じゃない

一歩の許可だ


ショーンゴが先

ランゼがすぐ後ろ 中央

盾は斜めにして通り道を覆う

セイガは左

光の糸が床を這う

リオルは右の壁際

指は温かく 血を受け止める準備

ケルトはショーンゴの肩のそば

望んだより近い

ミロスは後ろの影

退路が見える位置

ナイルは石の拳のそばに残る

横から硬い視線と札で見送る

止めはしない

送るだけだ


一歩

空気が変わる


肋に圧は来ない

代わりに

身体から重さを剥がされる感覚

軽くなるんじゃない

失われる


廊下は広間へ開く

長方形で きれいで 平たい

中央に石の天秤

皿が二つ

片方は空

もう片方は暗い

見えない何かが載っているみたいに


天秤の奥に縦の石板

細い線が表みたいに走る

数字じゃない

名のない行の空白


ランゼが天秤の前

中心から三歩

盾は胸の真ん中

脚を広く

セイガは左の壁寄りで止まる

光の糸は床の線に

リオルは右

掌を石に当てる

ケルトは入口寄りの後ろ

広間も 退路も見える位置

ミロスは左の暗い角へ溶ける

柱なんて無い

ただ暗い角だ


ショーンゴが天秤へ一歩

すぐ感じる

口の中が乾く

舌が水を忘れたみたいに

これは新しい


右側の影がずれ

女が現れる

背は中くらい

印のない暗い外套

髪は後ろでまとめ

額は見える

目は淡く 落ち着いている

手に薄い板

帳面みたいなもの


爪で板の縁を叩く

三回

いつも三回

空気に印を押すみたいに

それが彼女の癖


彼女は目を合わせない

ショーンゴと天秤の距離を見る

その一歩の値を量るみたいに


- 先へは重さなしでは行けない

- お前らは光を取った

なら返せ

それを支えていたものを


セイガがほとんど無音で


- 誰だ


女は同じ平らさで


- アイラ

- 借りの重さを管理している

- 痛みと混同するな

ここで取られるのは叫びじゃない

水分だ


ケルトが強く飲み込む

乾きが音になる


ランゼが盾を動かそうとして

ベルトが一瞬ざらつくのを感じる

皮が乾いたみたいに


ショーンゴは言葉を出さない

ただもう一歩

天秤が石の中で応えた

金属音じゃない

反響だ


奥の石板が瞬く


規則が動く


右の皿が見えない重さで満ちる

その重さが波になって広間を走る

圧じゃない

乾かす波だ


ランゼの喉が一秒で干上がる

唇が細い線で割れる

血を舐める暇もない

舌が他人のものみたいだ

乾いた布みたいだ


セイガは掌の光が鋭くなるのを感じる

だが弱くなる

光が刃になった代価として

指の水分が引かれたみたいに

関節の皮が白くなる


リオルは手首に触れて分かる

熱がいつもみたいに上がらない

身体の水分が税になり

もう差し引かれた


ケルトは半歩下がって

倒れかける

脚が軽すぎる

筋肉の無い骨みたいに


ミロスは影で止まる

影が薄くなる

闇でさえ水分が要るみたいに

闇であるために


アイラは声を上げない


- 抵抗するな

- 抵抗は乾きを早める

廊下はそれが好きだ


ショーンゴが掌を上げる

空気が濃くなる

硬くなる

鉗子みたいに


アイラへじゃない

波へ

乾かす仕組みへ

規則の喉を締めるみたいに


波が広間の半分で止まる

天秤の皿が震える

一秒だけ呼吸が楽になる


ショーンゴはすぐ代価を感じる

右腕が重い

石が沈んだみたいに

心臓が一度だけ歪む

空間が一秒だけ言うことをきかない

拗ねたみたいに

それでも立つ


アイラは掌じゃない

指を見る


- 規則を素手で掴んでいる

- ならお前も払う


爪が三回

板の縁を叩く


奥の石板が二度目に瞬く


貢ぎが引かれる


今度の波は全体じゃない

一点だ

ランゼの肺へ


ランゼが折れる

口から乾いたひゅうという音

咳じゃない

空気が砂になったみたいに


リオルが壁から半歩だけ離れる

熱は少ない

それでも掌をランゼの胸へ押し当てる

癒しじゃない

ポンプだ

心臓が乾きで止まらないように


代価がリオルに出る

指が白くなる

水分を熱と一緒に渡したのが見える


セイガは光の糸を広く張る

網みたいに

槍じゃない

閃きでもない

縫い目だ


糸が天秤に触れる

一瞬 光が重くなる

光にも重さがあるみたいに

皿に載せられるみたいに


ショーンゴはそれを見て選ぶ


圧を下でも前でもなく

天秤の軸へずらす

皿がどちらを重くするか決める場所へ


石がカチリと鳴る

割れじゃない

借り物の鍵を外した音


右の皿が震え

一秒だけ空になる

乾かす波がつまずく

道を失ったみたいに


アイラが半歩下がる

逃げじゃない

道具が危ないと身体が理解した動き


- 軸に触るな

声が少し低くなる

初めて神経が混じる

- 軸はお前のものじゃない


ショーンゴは平らに


- 先に取ったのはお前らだ


掌を上げると

背後の壁のない線が少し近くなる

ここでは線が

守る者じゃなく

道筋を折る者を聞くみたいに


アイラは天秤を見る

石板を見る

ショーンゴを見る

初めて書記みたいに話さない

負けるかもしれない者みたいに考える


- 軸を壊したら

扉が開くんじゃない

飢えが開く

町は一分で空になる


ケルトが乾いた声で言う

でもはっきり


- 脅しじゃない

警告だ

それはお前も食う


ショーンゴは目を逸らさない


- ならお前らも怖いんだな


アイラはすぐ答えない

三回

爪を叩く

だが音が揺れる

自信が無い


奥の石板が三度目に瞬く


規則が動く


地上の町で

今度は言葉でも歩みでもない

一瞬で起きる


井戸のそばの強い男

樽を二つ抱えて運ぶ男が

急に軽くなる

軽すぎる

皮が骨に貼りつく

水分を抜かれたみたいに

膝をつき

頭を上げられない

筋肉が消えた

借りを差し引かれたみたいに


地下の広間で

ランゼは胸の奥でその反響を受け

盾をさらに強く握る

金属じゃない

命を掴むみたいに


ショーンゴは理解する

これは次の段だ


言葉でも

一歩でも

選択でもない


水分

重さ

身体


ここで間違えれば

町は恐怖じゃなく

空っぽを払う


ショーンゴはもう一度手を上げる

そして初めて

急がない


強い一歩とは

すぐに踏み出さない一歩のことがある

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