第4話 聞き込み調査+1
雪乃の視線に射貫かれた2年生たちは、雪乃に圧倒されて怯んでいた。
ドアや壁の後ろに隠れた生徒や、逃げ遅れた生徒がそこにはいた。
楠は片側を塞ぐため、教室から飛び出すと、そこには3名の2年生がいた。
「せぇ…んんっ。えー、先輩方はどのようなご用件で?」
わざと声のトーンを低くしてそう問いかけると、壁裏にいた2年生は萎縮する。
それもそのはず。楠は女子生徒に負けず劣らず長い髪を襟首で一つにまとめるといった特徴的な髪型をしており、背も高いため、第一印象がヤンチャで力の強い人と思われるのだ。
完全に怯えきった上級生に対して、楠は少し頭を捻ってみる。
「背は伸ばして、手は頭の後ろに」
「え? …え???」
「早くしてください」
「ヒイッ!?」
2年生は楠が指定した通りに手を頭の後ろに回し、大人しくなる。
楠としては前にやったポリスシュミレーションゲームでゲームキャラがこのポーズを効果的だと発言していたため、それが気になっていたので実際に検証したいと思っていたところだっただけなのだが。
実際にやらせてみると、恐怖で抵抗しようとしていないのか、このポーズのせいで抵抗しようとするのが難しいのかは分からなかった。
ちょっとした悪ふざけが愉しくなってしまい、今度はゲームの極道キャラをイメージして質問を浴びせる。
「はぁ。なあ、あんちゃん。なんでここに来たんや」
「!?」
不思議と大阪弁っぽい口調になってしまうが、今はゲームのあのキャラになりきったつもりなので関係ない。
「ほれ、言うてみい」
「え…あ? え…? なに…え?」
「分からんのけ? んなことないやろ。理由もなしに立ち寄るところちゃうやんけ。最もらしい理由くらい言ってみいや」
「ヒイッ!」
完全に怖気づいた2年生を尻目に、後部のドアにいた二人に楠と同じように少しだけ怖さのある顔で問いかける雪乃に目を配る。
雪乃の完全に目元が笑っていないため、二人のうちのどちらかが何かしらの良くないことを言ったのだろう。
楠は震えている2年生に続けてキャラになりきって問いかける。
「それで? どんな理由を言うてくれるっちゅうんや」
「お、俺は頼まれただけだ!」
「ほぉ? 頼まれた?」
「そ、そうだ! だから俺は悪くねぇ!」
「じゃあ、その頼んだヤツを――」
「あの、楠さん…?」
楠の質問を遮るように、いつの間にか近づいていた日向がおずおずと名前を呼んだ。
楠が一瞬目を離した隙に2年生はその場でバタバタと動き、壁に背をぶつけながらも立ち上がった。
「俺はもう勘弁だからな!」
「あっ、逃げんな!」
「ま、待って楠さん! 頭でもぶつけたんですか…? いつもと雰囲気が違うというか、ちょっと変だよ?」
日向に本気で心配され、楠は逃げた2年生を追うのを止めた。一人分の情報源を失い、恥ずかしさだけが残った楠は日向を横目に見てすぐに視線を泳がす。
「だ、大丈夫大丈夫……」
日向は友達の変化に納得しようと、何も言わずにゆっくりと頷き、雪乃の方へ戻っていく。することがない楠もそれについていき、残った二人へ質問を重ねる雪乃に加わる。
一人は男子生徒、もう一人は女子生徒で、逃げ遅れていたのはちょっとポッチャリした男子生徒だった。
この二人にも先程の楠の極道キャラのイメージボイスが聞こえていたようで、2年生の声のトーンが少し高くなり、焦りが増したように感じる。
「私たちは指示されただけで…!」
「だからそれは聞きました。今は誰に指示を受けたのかを訊いています」
「そ、それは…」
「な、なあ。もう言おうぜ…? 俺たちが悪いんじゃないんだしさ」
男子生徒の方はかなり怯えていて、答えを言い渋る女子生徒に提案をする。
「…そうですね。今言うなら、先輩方が参加したことはなかったことにします」
雪乃が冷酷に告げると、二人の生徒は顔を見合せ、一人が言う。
「み、南谷さんです! 南谷美琴。九条さんと同じ生徒会長立候補者の…!」
「それは信じてもいいの?」
雪乃の問いに怯える二人は何度も頷く。
「そう、ですか。分かりました。もう行っていいですよ。これ以上関係のない人を巻き込めませんから」
それを聞いた2年生たちはすぐさま階段へ向かい、階段をかけ下りる音と共に姿を消した。
雪乃は最後まで冷たい視線と少し怒りを含めた表情を崩すことなく、日向たちの教室へと戻った。
「はぁ…。失敗したかも」
「どこがですか。オレは指示をした人すら聞けなかったんですから、大手柄ですよ」
「でも、あの感じなら、もう少し情報を得られたと思うのよ」
「そうかな? わたしはお姉ちゃんが『言ったらなかったことにする』って言ったから、犯人を聞き出せたんだと思うよ」
「日向は優しいね」
「ううん。わたしは何もできなかったから。せめて上手くいった人を褒めるくらいはしないと」
「も~、本当に日向は良い子なんだから~」
雪乃に抱き締められ、日向は嬉しそうに抱き締め返す。
再び入りずらい空間を作り出した二人から離れ、楠は千秋に連絡を入れようとスマホを手にする。
「…ん?」
連絡アプリを開くと、少し前に送った連絡に既読がついていないのが分かる。
あれから軽く30分は経過しているし、普段の千秋なら既読スルーだとしても何かしらの形跡を残していくはず。
何か嫌な予感がした楠は千秋を探しに教室を飛び出した。




