第3話 聞き込み調査
プチ会議を終了してから数十秒、日向と楠は雪乃と出会っていた。
出会ったと言っても、日向が教室に雪乃を呼んだのだが。
「お姉ちゃ~ん!」
教室に入ってくる雪乃に抱きついた日向は雪乃に受け止められた。
「わっ、こら日向。飛びついたら危ないでしょ」
「えへへ。ごめんなさーい」
雪乃は反省の色の見えない日向を軽く撫でてから、日向の肩を持って間に隙間を作る。
「続きは家に帰ってからね?」
「は~い」
白銀色のショートヘアの雪乃と亜麻色のスーパーロングヘアの日向。
髪色も髪型も全く異なる双子のツーショットに目を奪われるのは仕方のないことだ。
二人のことに多少の好意がある人であるならば、手元に写真を撮れる機材があれば一枚撮っていたところだ。
「ひゃっ」
「んっ…」
パシャリと光ったのは楠が持っていたスマホのカメラだった。
「楠さん。学内での写真撮影は禁止ですよ。今撮った写真は消してください」
「すみません。つい撮ってしまったというか……」
楠はスマホを操作して写真を完全に消去し、確認のために雪乃へ見せる。
「はい、大丈夫です。今後は気をつけてください」
「分かりました。気をつけます」
「それで、日向はどうして私を呼んだの?」
「七くんに行けって言われて」
日向の説明は説明とは言えないもので、雪乃は頭の上にハテナマークを浮かべていた。
「……オレから説明します。かくかくしかじかで……」
楠の説明の間に、三人はプチ会議を行っていた場所の近くにあった椅子に着席する。
楠が言い終えた後に、雪乃は事態を理解した上で、自分ではないと言う。
「ほらやっぱり。七くんがね、お姉ちゃんが持ってるかもって疑ってたんだよ」
「七くんはそういう人だから。昔から心配性なのは日向もよく知ってるでしょ?」
「そうだけど、お姉ちゃんを疑うのはおかしいよ」
「七くんには七くんなりの考えがあるんだよ。日向が私を悪くないと思う理由があるように、七くんにも私を疑う理由があると思うの」
行動の裏には何かしらの理由が潜んでいる。それはたとえ見えなくとも、必ずあるものだ。
「話を戻すけど、投票用紙500枚を持っていかれたんだよね?」
「一ノ瀬さんが言うにはそうらしいよ」
「でも、どうして500枚なんだろう? 予備はまだあるんでしょ?」
雪乃からの予想外の疑問に対して、日向は不思議そうに答える。
「予備は500枚しかないって言ってたけど…そうだよね?」
「ああ。千秋が肯定してたから間違いない」
「全校生徒の2倍以上はあるはずなのに?」
「一ノ瀬さんは『先代生徒会が補充していなかったから』って言ってたよ」
「ふむふむ…?」
雪乃は少しの間黙って考える。
楠と日向が教えてくれた内容と盗まれたものを関連づけてみれば、意外なところを見落としていた。
「ねぇ、日向。犯人はそのことを知っているのかな?」
「え、どうして?」
「生徒会役員立候補者は学園生徒会選挙規則っていう生徒会に関する情報がまとめられた冊子を貰って読まないといけないんだけどね、そこには私が知るような2倍以上の予備を用意するとか、そういうことしか書かれてないの」
雪乃の言いたいことに気がついた楠は、ズバリそれを言い当てる。
「自分が知らないように、犯人も現在予備が500枚しかないことは知らない、ということか」
「正解。知っているのは生徒会と日向たちのような協力者くらいでしょうね」
「それなら、まだ犯人さんは投票用紙を狙いに来るんじゃないの?」
「そうね。知らなければ確実に」
「ならわたしたちも行かないと!」
急かす日向とは対照的に、雪乃は依然として落ち着いていた。
「生徒会でもない生徒が多くいたら、逆に怪しまれるでしょ。それも、再選挙を控えた私がいれば尚更」
「う……それはそうかもだけど」
「向こうのことは向こうに任せればいいの。代わりに、私たちには私たちでできることをしよう」
「……うん、分かった」
渋々受け入れた日向を優しく撫でる雪乃。
楠は千秋の手伝いをしに行くつもりだったが、やんわりとした雰囲気を浴びて、もうちょっとこの場にいてもいいのではないかと考えを改めていた。
スマホの連絡アプリで千秋とついでに長森にも報告だけ済ますために立ち上がり、教室前方で素早くスマホを操作し、ポケットにしまう。
教卓を肘置き代わりにして、窓辺で起こっているものに目を向けるとそこでは、美少女姉妹が他者が絶対に入ることのできない空間を作り出していた。
日向の机の横に掛けられた布袋から銀紙で個包装された手のひらサイズのお菓子のようなものをいくつか机に広げる。
形状やサイズがバラバラで、包装も均一でないことから、バレンタインデーに誰かもらったチョコレートだろうと予測できる。
雪乃が銀紙を外すと、そこには予想通り茶色の小さな粒が姿を見せる。
自分で食べるのかと思いきや、雪乃の指先は日向の口元へ近づき、日向は小さく口を開けた。
「ん~♪」
「美味しい?」
「もちろん。今のはちょっと甘酸っぱいオレンジだったよ」
楠は空気の読める男なので、話しかけて邪魔をしてしまうなんてミスをせず、遠くからそれを眺める。
なんていうのは嘘で、ただ単に九条姉妹の一挙手一投足を見逃さないように魅入っていただけだ。
(これが学園の美少女の一角ってのがまた恐ろしいところなんだけどな……)
数分して、ふと廊下を見れば、そこには知らない生徒たちがいた。上靴にある線は学年ごとに色分けされているので、そこからその生徒たちが2年生であると分かる。
ここは4階で1年生の教室しかなく、この教室に至っては二つの階段のちょうど真ん中に位置するため、たまたま通りかかったとは考えられない。
見るからに怪しい生徒たちだが、彼ら彼女らも九条姉妹に集中しているため、楠に気づかれていることにも気がついていない。
楠は迷わず千秋に連絡して、二人に害のないよう、すぐに対応できるように用意をする。
「お姉ちゃんも。はい、あーん」
「はむ。こっちは甘さが強いね?」
「イチゴのパウダーを練り込んだやつかも」
「あのパウダー、買ってよかったね」
「うんっ。また作ろうね」
いつの間にか机の上に広げたチョコレートを食べきっていて、雪乃は外した銀紙を布袋へ戻した。
「……さてと、小腹も満ちたことですし、そろそろお仕事をしないとですね」
雪乃は椅子から腰を浮かせて、上級生が相手ということを忘れさせるような冷たい視線で問いかける。
「私に何か用ですか、先輩方?」




