第2話 かみかくし
千秋は一ノ瀬を教室内に呼び入れ、もといたメンバーを巻き込んでプチ会議を取り仕切ることにした。
「投票用紙500枚がなくなってたんだな?」
「うん。昨日は帰る前にあることを確認したし、誰も持ち出すなんて聞いてなかった。あたしとしては誰かが許可なく持ち出した可能性が高いと思う」
一ノ瀬の証言と考えを聞き、『5W1H』で情報を整理する。
5W1Hとは「時間のWhen」「場所のWhere」「人物のWho」「対象のWhat」「理由のWhy」「方法のHow」の6つで構成される考え方の一つだ。
今現在までで分かっていることは、時間、場所、対象の3つだ。
時間は、昨日一ノ瀬が帰った時間からなくなったことに気がついた数分前までの間。場所は生徒会室。対象は選挙投票用紙500枚。
私立七原高等学園の全校生徒は477名。一学年約160名で構成され、各学年のクラス数は5つ。
投票用紙は学生の内から選挙活動を体験するため、実際の選挙でも使われるユポ紙を採用している。
選挙時と異なるところは名前を書くのではなく、表になっているので、名前の下にある枠に丸をつけるというところだけだ。
破損などのトラブルに備えという理由もあるが、学園からは100枚単位での注文しかできないので、キリの良い500枚で投票用紙を注文している。こればかりは仕方がない。
「まあ、当日欠席の生徒もいるだろうし、3年生は受験真っ只中だから、よっぽど暇じゃないと来ないから300と追加で少しあれば足りると思うんだが……」
今度の選挙は3年生は自主参加型なので、ほとんどの生徒は来ない。
無論、来ても問題ないが、自分たちには関係のない来年度の生徒会メンバーを決めるものなので、恩恵を受けられるわけではない。
「簡単に言うけど、予備として残ってた500枚を狙われたから、今は実質0枚なんだよ?」
「予備? じゃあ本来使うやつでやればいいだろ」
楠の意見に、千秋と一ノ瀬は首を横に振る。
今回の選挙は極めて異例の事態で、泣く泣く予備を引き出してきたのだ。
「本来使うのは先週の生徒会選挙で使ったからな」
先週、バレンタインデーという一大イベントがあった日に、生徒会選挙が行われていた。
久しく行われなかった生徒会長の役職での決選投票で、日向の双子の姉の九条雪乃が当選していた。
それで終わりかと思いきや、もう一人の立候補者である南谷美琴が、生徒会長立候補者のみができる再選挙の要求により、再選挙が実施されることになった。
「学園生徒会選挙規則に『選挙時の投票用紙の予備は全校生徒の2倍以上を保つこと』って書いてあるから、本当は1000枚あるはずなんだけどね」
学園生徒会選挙規則には先程のユポ紙を使用することや、生徒会長立候補者に再投票を申請する権利などの生徒会選挙についてのルールが書かれている。
生徒会役員に立候補する人は一度は読むものだ。
「前の生徒会はなんでやらなかったんだろうなぁ~?」
「ぐっ…!」
前回の生徒会、つまりは第24回生徒会で千秋は生徒会庶務を務めていた。先週の選挙で、今期の生徒会では生徒会会計を務めることが決まっている。
今現在は本当に滅茶苦茶で、第24回生徒会メンバーだけでは人手が足りないため、生徒会長を除く第25回生徒会メンバーも協力させられていた。
まさか再選挙まで行われるとは思いもよらず、急いで確認してみれば、投票用紙だけでなく、いろいろと足りていないものや余分にあるものがあった。
投票用紙を含め、足りないものを注文しているのだが、数と種類が多すぎるため、届くのは来月になるとのことだ。
「どちらにしろ、今は先代生徒会を恨んでもどうしようもないんだ。どうやって500枚の投票用紙を見つけるかを考えるべきだ」
「それはそうだけど。でも、手がかりがないじゃんか」
一ノ瀬の指摘に千秋は頷く。
今は手がかり一つない。
分かっているのは500枚の投票用紙がなくなったことだけ。
「だから、手がかりを含めて探すんだよ」
「ねえ七くん。探すって言っても、どうやって探すの?」
日向の質問には一旦答えず、千秋は椅子から離れてぐぐ~っと伸びをする。
「一言で言えば、総当たりだ」
プチ会議に参加するメンバーから驚きの声が上がる。
千秋は一度メンバーを宥めて釈明する。
「そんな時間はないから、ある程度持っていそうな人物を手分けして聞き込みに行く。あわよくば持っている人とバッタリ出会うなんてこともあるかもしれないな」
そうなればどれほど楽なことか、なんて内心思いながら、千秋は早速誰にどこを担当するかを決めていく。
「とりあえず、日向は雪乃を頼む」
「お姉ちゃんに? なんで?」
「雪乃が犯人じゃないことを証明するためだ」
「お姉ちゃんは持ってないと思うけどなぁ」
「確認だよ。確認」
「は~い」
一番簡単な日向の説得を終え、残る三名を見る。
「一ノ瀬と楠は一緒に行動するのは――」
「「絶対嫌!!」」
「……だよなぁ」
「誰がコイツと一緒にやるんだよ!?」
「あたしから願い下げなんだけど!?」
一人残された長森は頑張って二人を宥めようとするも、全くと言っていいほど効果がない。
犬猿の仲という諺を忠実に表した二人はバチバチと視線を向かわせて火花を散らしていた。
「はぁ。分かった。一ノ瀬は生徒会室にまた不審な人物が現れないかのチェック。楠は日向のサポートを頼む」
「楠と別ならあたしはいいけど」
「オレもコイツと別ならなんでも」
ふん、とそれぞれ視線を外して、口喧嘩になることを避けることはできた。
とは言うものの、また敵対心を増幅させてしまった気がして千秋は胃が痛くなる。
「あの…僕は?」
「長森は俺と一緒に来てほしいかな」
「え」
「なんだその反応」
「僕も誰かのサポートがいいなあ……なんて」
「なら一ノ瀬のサポートでもするか?」
「そ、そうさせてもらおうかな」
嫌われているわけではないのだが、千秋発のアイデアや行動のとき、大体長森は千秋と共に行動したがらない。
……決して嫌われているわけではない。
これで全員に担当を割り振ることができたので、千秋は改めて協力してくれる友人たちに感謝をして、勢いづけるために真剣な眼差しで伝える。
「早速のところ悪いが時間がない。各方面、調査は頼んだぞ」
各々了承の意を示す言葉を発し、投票用紙500枚を探すあてを探す調査が始まった。




