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生徒会には裏がある!  作者: 七灯
生徒会再選挙
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第33話 決断と責任+1

 背中なら大丈夫なんて思っていた自分が馬鹿らしくなった。

 背後をとった日向は千秋が体を洗っている間に耳元で好意を口にして誘惑してきた。日向の甘い声が思考力を低下させ、丁度良い温かさが眠気を誘う。

 それでも、なんとか意識を保ち、自分の体を洗い終えた。

 もし、あの囁きにボディータッチが加わっていたら、耐えられなかっただろう。


「えへへ。七くんメロメロにしちゃった」

「俺は既に日向に心酔してるから」

「なら、もう一段階上を目指してみる?」

「好感度は既に最大なんだが」


 一緒に住んでいる時点で心を許しているのは確かであり、好きでもなければ一緒にお風呂も入らない。

 洗体を終えて、日向は千秋の腕にそっと触れると、その指先がピクリと跳ねる。


「早く入ろ? 七くん風邪引いちゃう」

「そうするか。雪乃はそろそろ上がっておいた方が良いぞ。近頃の働きの疲れも今日の心的なストレスもあるだろうし、体に無理させるのは良くない」

「そうだね。そうするよ」


 雪乃が湯船から上がり、軽く体をバスタオルで拭いてから洗い場を出ていった。


 残った千秋と日向が一緒に浴槽に浸かっても、一般の浴槽の2倍大きいサイズなので、ちょっと余裕がある。

 千秋の対角で脚を伸ばす日向は、浴槽の中で千秋の足にそっと触れて笑う。


「七くんは少しくらいリラックスできた?」

「その返答としては、してやられたとでも言えば満足するか?」


 日向はイタズラが成功して喜ぶ子どものような笑顔で千秋を眺め、千秋は策士な日向にため息をつく。


 事の顛末としては桐谷からの電話が始まりだった。

 千秋はその時点で起きていたのだが、日向は電話に対して話す千秋の声を聞いて起きた。

 千秋は初めは桐谷からの電話が内容が不透明だったため出向くことすら躊躇っていた。だが、日向が選挙結果かもしれないと一人で盛り上がってしまい、千秋も一瞬その気にさせられてしまったため、桐谷から結果を聞くことを日向から頼まれて赴いた。

 結果としては、バレンタインのチョコを渡してきただけで、生徒会関係の話題ですらなかったわけだが。

 その千秋が桐谷と会っている間に、日向は千秋が出ていったことを理由とともに千春に伝え、千春のよく働く頭で何をするかを決めたということだ。

 千秋が帰ってきたら、予定どおり日向とその時には起きていた雪乃が飛びつき、千春は理由を知っていたが、あの態度で千秋に非があることをメインにした。

 日向と雪乃が思う存分千秋を構い倒すために。


「流石に驚いたよ。帰ってきたら日向が泣きそうな顔してたからさ」

「演技だってば」

「これからは冗談でもやるのは禁止。本当に心配したんだからな」

「はーい」


 正直、千秋は抱きつかれたときにとても罪悪感を抱いていた。日向を泣かせる理由を作ってしまったのではないか、と。


 最初は外でご飯を食べてきたことが良くないと思っていた。だが、千春から理由を聞く限り、そうではないことに気がついた。

 日向が説明しているならば、千秋が外に出ていく行動も理由も知っていたはずで、連絡をしたため外食してくることも知っているはずだった。それなのに千春は理由を知らないような言い回しをしていたため、その言葉は半分冗談で半分本気なことが分かった。


「あっ、そうだ。桐谷先輩は何か言ってた?」

「日向が気にしてたことは何も。ただ、生徒会長としてその立場を全うできたかを気にしてたかな」

「わたしは生徒会長としても、副会長としてもしっかりした文句ない活躍をしてたと思うけどなぁ」

「本人が気になるところがあるんだよ。その人自身にしか分からないことが」


 肝心な生徒会選挙の結果は桐谷の口からは語られなかった。なぜなら、票開票は明日の始業前にすることになっているから。

 桐谷自身もまだ結果を知らないのだ。

 だから、日向の欲した答えが得られないことは分かっていていたが、行く意味はあったと思う。


 予想外なことに、桐谷が千秋にとって理想の提案をしてくれたので、今後の繋がりを気にしていた千秋にとってはとても良かった。千秋は桐谷がいつか自分の気持ちを見つけて諦めた後に、せっかくできた繋がりを保とうと思っていたくらいだったから。


 まだ了承は得てないが、これからは日向と雪乃との関係を外に広めることなく、桐谷と付き合っていると振る舞えるようにしたいが、千秋から提案すれば桐谷はその条件を飲んでくれるに違いない。


「なんか七くん悪いこと考えてる」

「何も?」


 日向は湯船に波を作りながら、千秋の横にまで移動すると、いきなり手をぎゅっと握って口を尖らせた。


「嘘つき。七くんは嘘を吐くときに必ず左手の指先が震えるから」

「そうなのか?」

「うん。これまでもそうだったよ? 大きな嘘を吐くと比例して手の震えも激しくなるから、わたしからすればお見通しだよ。今のは弱かったけど」


 日向は自慢気に千秋自身も知らない癖を解説し終えると、千秋の手を離して手のひらを重ねて指を絡めようとする。

 千秋の手の方が一回り大きく、中々良い位置にならないため、日向は千秋をちょっと不機嫌な顔で見つめる。

 仕方なく千秋から指を絡めてやると、日向の表情が一転して晴れやかなものになる。


「七くんのことだから、桐谷先輩のこと仮の恋人相手にでもして、生徒の意識をわたしたちに向けないようにしたんでしょ?」

「全く、どこまで分かってるんだ。全部日向の読み通りだよ」


 千秋が素直に認めると、日向は分かりやすくドヤ顔を披露する。


「勝手に決めたことは悪いと思ってる」

「ううん。わたしは怒らないよ。だって、それもわたしたちのことを思っての行動だから。七くんがわたしたちに夢中なことはよく分かってるもん」


 日向は後頭部側で少し高い位置にあるボタンを腕を伸ばして押し、お風呂のスイッチを切ると、浴槽に肩まで浸かって千秋に凭れかかる。


「七くんの嫌な気が抜けたみたいで良かった」

「そうか?」

「疑心暗鬼になっちゃうんじゃないか心配だったの」


 七くんはお姉ちゃんのこと誰よりも護らないといけないと思ってるから、と付け加える日向。

 事実、雪乃が生徒会長に立候補することを決めてから、千秋はずっと雪乃の身を案じてきた。


「まさか、会長に会いに行かせたのも、帰ってきたら構うようにしたのも全部俺のことを思ってのことだったのか」

「ふふっ。どうかな?」


 全て分かっていて仕向けたのなら末恐ろしい予測力と愛情だ。


 日向が千秋の肩の上で微笑んで千秋もつられて微笑むと、日向は千秋の表情は見ずとも分かるらしく、嬉しそうな声をくぐもらせた。


 その後、千春が洗い場と脱衣場を繋ぐ扉を開けて逆上せないように注意しに来るまで、二人でゆっくり湯船に浸かっていた。




 お風呂上がりには暇が訪れる訳ではない。

 完全に甘えモードになった日向の髪を乾かす必要があるからだ。


「あ~~」


 ドライヤーの温風にあたりながら、声を出して遊ぶ日向の髪を乾かすのはもちろん千秋。理由はご存じの通り、千春と日向がそうなるように仕向けたからだ。


「い~~」


 日向の髪は普段から気を遣っているため、先までずっとさらさらで、指を通しても全く絡まらない。

 この質感は千春が愛でる際に最も重視している点で、これがしっかりしていないと機嫌が更に悪くなる。


「す~~」

「はいはい、アイスね。何味が良い?」

「イチゴ~」


 日向の注文を取り、雪乃を呼んで取りに行ってもらう。千秋が呼んだときには雪乃が既にカップとスプーンを持っていたのは多分気のせいだろう。


「あっ、桐谷先輩のチョコもあるんだった!」

「もう千春姉に食われてると思うけど」

「あー、たしかに。千春ちゃん、チョコ好きだもんね」


 雑談を繰り広げていると、雪乃がカップのアイスを持ってきてくれた。

 日向の注文通りの味のものが届き、待ちきれなかったのか日向は雪乃からカップを受けとると、すぐに蓋を外していた。


「お腹壊さないようにな」


 千秋の注意にこくこく頷くと、日向はアイスの表面をスプーンで削り、たまに食べる動作を開始した。


 千秋はアイスを美味しそうに食べる日向の髪を乾かす作業に戻り、雪乃と一緒に日向がアイスを食べるのを見守った。


「七くんは日向から聞いた?」

「何が……って、あれの話か」

「うん。私たちがこうなるように仕組んだこと」


 雪乃は自分が悪いことをしたという認識があるらしく、返答次第では次に謝罪をしそうな様子だった。


「聞いたよ。どんな思いがあったのかも。だから嬉しかった」

「私は日向が何を喋ったのか予想することしかできないけど、私も日向と同じ思いだから」


 日向は千秋と鏡越しで目が合うと、二人に向かって微笑んでみせた。

 日向の髪を流れに沿って指を通し、湿っているところがないことを確認してドライヤーの時間は終わった。


 この先はフリータイムなわけで。つまり、動きを制限されていた日向が本格的に動き始める時間なのだ。


 今の日向はアイスに夢中でなんともない……なんてことはなく、千秋の膝の上に座ってアイスのカップを抱えていた。

 動けなくなっている千秋はすることがなく、膝上に乗った日向を抱いていた。

 日向は完全に千秋に背を預けているため、千秋は日向を落とさないように腰回りに腕を回す。


「七くんも食べる?」

「いや。俺はいいよ。今日は外が冷えたからさ」


 流石に「カップルパフェを食べたから」とは言えなかった。そんなことを言ったら、今度は日向たちと一緒にあの量と格闘しなければならないから。


「私には――」

「お姉ちゃんは七くんがいない間に一つ食べたでしょ」

「なんのことかなぁ。私にはそんな記憶ないよ」


 誤魔化そうとする雪乃だが、先のカップは見間違いでなければ二つ目だったらしい。

 雪乃を責めるわけにもいかないので、千秋はそのことについては黙っておいた。


「もう。一口だけだよ?」

「やった」


 日向から差し出されたスプーンを頬張り、雪乃は頬に手を当てて満面の笑みを浮かべていた。


「もう一口だけ……」

「だめですー」


 日向は器用に千秋の膝上で体の向きを変えて、アイスを雪乃から遠ざけた。

 雪乃がこれ以上求めてこないように急いでアイスを食べた矢先、日向が小さく仰け反った。


「急いで食べるから……」


 千秋は日向からアイスのカップを取り上げて、雪乃に渡しておく。この際、日向よりも雪乃が食べていた方がいい。日向はこのままだと無理にでもアイスを食べようとするから。


「うう……」

「ちょっと休憩しような。アイスはまた今度」

「うん……わかった……」


 空いた手で額を温めようとする日向だが、今までカップを持っていた手は冷えているため逆効果だった。千秋はそんな日向の代わりに片手を日向の額に当てて、もう片方の手では日向の手を温める。


「雪乃も急いで食べないように――」

「うう…!」


 注意喚起は手遅れだったらしい。

 本日三つ目のアイスを体は許さなかったようだ。


「あ、でも、今日のはマシかも」

「そんな無理して食べなくてもいいのに」

「いや、私は食べるよ。だって、アイスが好きなんだもん」


 結局、日向はアイスよりも千秋と触れ合うことを優先したので、日向の残していた分のアイスは雪乃が食べた。


 用事のなくなったお風呂場を後にして、三人は千春が寛ぐリビングへと戻ってきた。


「お、やっと戻ってきた」

「七くんを堪能してました♪」

「それならヨシ」


 親指を立ててウインクする千春に影響されて日向もウインクを試みるが、笑顔で瞬きしただけの人になっていた。

 本人はできたつもりでいるらしく、それを皆微笑ましく見守ったのだった。

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