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生徒会には裏がある!  作者: 七灯
生徒会再選挙
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第24話 生徒会再選挙+3

 千春が先生へ抗議した頃と同時刻、千秋はステージ横の階段の上の部屋に入ってすぐ、ある人物の飛び付きを受け止めていた。


「一人にして悪かった、日向」

「んにゃあ~……これで許せるくらいには幸せ……」

「大袈裟な。このくらい家でもしてるだろ」

「なんというかね、見られたら恥ずかしいこと……というか、やっちゃいけないことしてるみたいでドキドキする分、満足もするみたいな感じ」


 そんなことを聞かされても、と思う千秋。だが、好きな人のことはなるべく聞き入れたいために、途中で止めることなく最後まで聞いてしまった。その結果が「そんなことを聞かされても」というわけだが。


「……なんだ、その、熱が入りすぎないようにな?」

「はーい」


 こんなやり取りをしている二人だが、なぜ日向がここにいたのかは少しくらい説明しておくべきだろう。

 日向がいつからいたかと言えば、千秋たちが垂れ幕を上げに来たときに入れ替わりで入っていた。階段下で待機していてもらい、千秋たちがステージ経由で出入りしたため、ステージ下の段にいた日向には気づくはずもなく、三人が通り過ぎた後に入れ替わりで入った。

 元々、体育館の電気は誰でも消せるように設計されていて、昨日の時点でもし照明を早くに消されたときにどうするか、という意見に対する雪乃が出した対策だった。


 触ったことのない生徒なら絶対に間違えるであろう照明器具以外にも多くの操作ボタンがあるこの部屋に日向が待機しておき、予想通り明かりが消えたことを確認した千秋が日向に照明をつけるタイミングをメッセージで連絡するという方法だ。

 通信状況などの遅延は全く考慮していなかったが、今回はそこまで大きな遅れが生じなかったためになんとかなった。


「後は時間通りに自動で照明はつくから、日向も外に行こう」

「楠さんと長森さんのところにいればいいんだよね?」

「あー……そのことなんだが、楠が前梁を止めるときに怪我してて、長森が付き添ってるんだ」

「大丈夫そうだった?」


 日向にとって二人の存在というのは、千秋の友達くらいの認識ではあるが、千秋が関わっていることでかなり様子を見ている。

 日向一人のときに二人に話しかけに行くことはほとんどなく、二人から話しかけられたときにだけ必要に応じて応答するくらいだ。

 そのため、日向からして二人に特別な感情を抱くことはなく、異性の友達程度の関係だ。


「カッターの刃がほんの少し掌に触れただけで、傷口も広くはなさそうだった。河瀬先生も来てたから、すぐに見てもらってるだろうけど、そんなに重傷ってわけじゃないと思う」

「そっか。それならよかった」

「そういうことだから、日向は千春姉たちと動くか、俺のところで――」

「七くんのところがいい」


 候補を挙げている途中にも関わらず、即決した日向は千秋から体を離して、ブレザーの上から千秋の胸板に手を軽く触れる。


「外に出たら、七くんのこと、さわれなくなっちゃうから、もうちょっとだけ」

「ちょっとだけな」


 一秒でも長く千秋を感じるために、日向はもう一度千秋の胸へ飛び込み、千秋もそれを優しく受け止める。

 ここが学園であることは二人が離れて少しするまで考えてもいなかったが、いざ何をしていたのか振り返ると頬が熱くなる。


「流石に遅すぎると不審に思われるから、そろそろ行こうか」

「十分堪能できました」

「それはよかった」


 日向を腕の中から出して、千秋は照明のスイッチを手動から自動に切り替えておき、時間を今から1時間ほどに設定しておく。日向から少し遅れるように暗い体育館のステージ下に戻ってきて、ステージ上が照明で照らされているのを確認してから、雪乃にまだ始めないようにハンドサインを送る。

 体育館の端の方、壁際に二人で並んで立っている千春と瑞希に軽く会釈をして前を通り、千秋は体育館後方まで日向を連れていく。

 千秋が担当する1から3学年の5組だけの名簿をまとめたものがある机の前に用意されているパイプ椅子に日向を座らせた後に、千秋自身は予備のパイプ椅子を持ってきて、日向の隣で腰かける。

 一応他の生徒会役員には日向の保護のことを事前に伝えていたため、事件が起こった後の説得力が増した状況では誰も反対しなかった。


「会長、選挙の再開をしても大丈夫です」

「わ、分かりました」


 千秋に話しかけられるだけでビクビクしている桐谷に不安になりながらも、生徒会長()()として最後になるであろう大仕事を任せた。


「第24回生徒会副会長、桐谷未来です。機材トラブル等の問題がなくなったので、演説の再開をお願いします」


 桐谷の合図を聞き、照らされたステージ上のマイクの前に雪乃は移動する。

 体育館にいる全生徒の視線を集める雪乃は深々とお辞儀をした。


「改めまして、皆さんこんにちは。第25回生徒会長立候補、九条雪乃です。お待たせしました。今から演説を始めます」


 雪乃の宣言に、体育館にいる生徒たちは静まりかえっていく。十秒も経てば演説に相応しい環境に整えられ、予定より少しだけ遅く演説が始まった。


「先程、同じ質問をしましたが、もう一度訊いておきますね。皆さんは一週間前に私が提案した制度を覚えていますか?」


 雪乃の質問に体育館の中は少しざわつくが、先程とは違い誰も恐怖たらしめる行動をする人はいなかった。

 十秒ほど時間をおいた雪乃はちらほら答えが出た体育館にマイクで拾った声を響かせる。


「私が提案した制度は、学力の近い生徒を同じクラスにすることで、同じレベルの生徒同士の交流を通じて現在までのクラスよりも更に過ごしやすい環境にするといったものでした。ですが、これだけの説明ではまだ分からない点や不審に思う点が多くあると思います。

 例えば、どうやって学力の近い生徒を集めるのか、とか、学力の低い生徒は見捨てるのか、とか。ですが、安心してください。私としては上下で差をつけようとは思っていません。むしろこれは上下の差をなくすチャンスなのです。考えてみてください。もし、仲の良い友達とクラスが別になったとしても、その友達から他クラスの状況やそのクラスなりの理解を得られます。また、放課後に他クラスに寄ってみて、クラスごとの状況を見て感化される人もいるでしょう。それに、成績上位になったという自覚も持てるのは非常にいいことだと思います。上位に入れた生徒はこのまま上位を維持したり、一番上を目指したり。惜しくも上位に入れなかった生徒は次こそは上位に入れるように頑張る理由にもなります」


 果たして、この演説を真面目に聞いている人はどのくらいいるのだろうか。どのくらいの人が理解できていて、納得してくれるのだろうか。

 分からないことに不安を募らせながらも、雪乃は次の話へ続けた。


「さて、折角皆さんの時間を頂いているので、もう少し楽しいことでも話しましょうか。私が生徒会長になった暁には、様々なイベントを実施するつもりです」


 案外、しっかりと聞いていた人は多かったようで、体育館がざわつく。

 雪乃は嬉しい気持ちを抑えて、聞き手にも分かりやすく説明を加えていく。


「前期に行われる大きなイベントとして、皆さんが一番期待しているのは、文化祭ですよね? 文化祭は平日2日間の開催が皆さん親しんでいることと思います。ですが、数年前までは文化祭は平日3日と休日2日の5日間開催されていたそうです。つまり、私が追加で掲げる公約は――」


 大半の生徒が雪乃が言うことが分かったらしく、体育館の中は一瞬だけ静かになった。


「私は文化祭を5日間開催にします!」


 イベント会場さながらの大歓声が飛び交う体育館で、雪乃はまだまだイベントについて語る。制度上イベントのできる日数は決められているので、どのイベントを削るか、または短縮するかを投票によって決めるように調整することを表明した。

 イベントという誰もが期待をしているものを中心に話題を広げて、その合間にそうするための課題や自身の考えを行うことにより、飽きさせることなく最後まで聞いてもらうことに成功した雪乃は、締めの挨拶を終えると大きな拍手を送られた。


 千春と瑞希も拍手送り、ふと瑞希が呟いた。


「なんだろうな。千春が初めて演説したときみたいだったね。助言くらいはしたの?」

「まあね。私としては雪乃ちゃんに絶対に勝ってもらわないと困るからね」


 興味深く千春の言葉を聞いた瑞希は、どこか納得した様子で一度だけ頷いた。

 しかし、それ以上千春に何か言うことはなく、静かに後攻の南谷の演説を待った。


 所変わって、体育館後方の生徒会役員と日向は雪乃の演説について小さな声で評価していた。


「あれが1年生なのが驚きだよ。ちゃんと軸を持っているし、自分がやることで起きる問題とかも予め分かってる……」

「なかなか良い演説だった。2年の俺でもあそこまで上手くは話せる自信がない」


 2年生二人の絶賛が聞こえて、雪乃の演説にアドバイスしていた千秋は少しこそばゆい気持ちになった。


(あとは南谷先輩だけだ……何も起きないといいけど)


 一番関わりの深そうな前梁は楠をはじめとして長森、千春、瑞希の行動によりこの場にはいないため、前梁がまた何か妨害してくることはあり得ない。

 まだ少し不安感はあるものの、この場に手出しできないのは千秋も同じである。


 パイプ椅子から立ち上がった南谷は、迷わず演説の前にたどり着き、マイクのスイッチを入れた。


「皆さん、(わたくし)の我儘で貴重な休みを減らしてしまったこと、謝罪致しますわ。ごめんなさい」


 南谷が謝罪することは珍しく、南谷をよく知る人からは困惑した声が上がる。

 家柄がかなり裕福な南谷は、幼いときから厳しい教育を受けてきたのだろう。

 名家の娘として、他人に頭を下げることはあり得ないという教育をされていても、何ら違和感はない。


「私の兄である南谷悠一が大きなご迷惑をおかけしたことについては私も承知していますわ。ですが、私は兄とは違い、そのような愚行を犯しませんわ。皆さんは先週の選挙では私が兄と同じような行動をすると思われたかもしれません。しかし、私はそうではありません。私は皆さんが望んだことを実現することをここに誓いますわ!」


 南谷はそれから先は何も言わなかった。

 ここにいる数人だけが、彼女の目的が生徒会長になることではなく、汚された自身の名前を綺麗にすることだと気がついた。

 理由が分からずに原稿を覚えていないのかと思う人や、マイクトラブルかと言う人もいたが、それでも彼女はその場で数分立ち続けた。その誰にも左右されない態度が南谷という家柄であると示すために。


「こほん。ずっとこのままでは迷惑ですわね。では、最後に。皆さん、投票は忘れず、安全に帰宅すること。いいですわね?」


 本当に理由が分からなかった人からすれば何だったのかという話だが、それはいつか気がつくことを望むだけだ。

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