第14話 至福の一口
今日作るものは、じゃがいもとベーコン、玉ねぎとマッシュルームをふんだんに使ったグラタン。
まずはバターを半分に切り、火をかける前のフライパンに半分を落とし、火をつけて中火に調整する。
フライパンが全体的に温まるまでにじゃがいもの皮を剥き、芽を取り除いてから二等分に。切った面をまな板につけて半月切りにしていく。
千春が皮剥き担当に、日向が包丁担当となり、手分けして行程を踏んでいく。
「そうだ千春ちゃん。シチューのルーがあったはずだから、用意してほしいな」
「なんでシチューのルー? さっき話してた時はそんなこと言ってなかったのに」
「七くん、ブレザーを貸したからちょっと冷えてたみたいなの。だから、ホワイトソースを作るよりシチューのルーで代用した方が早く作れると思って」
「なるほどね。一箱使う?」
「うん。ドロッとした方が七くんは好きだから」
「おっけー」
急遽行程を変更した日向と千春は柔軟に対応していく。
日向はポットでお湯を沸かしながらフライパンの様子を見て、ベーコンを短冊切りに、玉ねぎとマッシュルームを薄切りにそれぞれ切る。
千春は日向が切ったじゃがいもを耐熱皿に移して電子レンジに入れてスイッチを押す。
加熱が始まったらシチューのルーの準備を始める。
「私だけだったらポットの中で全部調理するんだけどなぁ」
「掃除が大変だからダメだよ。千春ちゃんは料理できるのに、どうしてガサツなの?」
「なんでだろうね。食べれるならいいと思ってるからかな」
「千春ちゃんには洗い物が少なくて済むワンプレートランチがいいかもしれないね。また今度教えるね」
「日向ちゃんが教えてくれたら一発だよ。その時を待ってるね」
他愛のない会話から次のお料理教室の開催が決まるという流れに続き、フライパンの上のバターが完全に溶けきりそうになっていた。
日向は早速フライパンを弱火にしてベーコンとマッシュルームを入れて塩と胡椒で味を少しだけつけておく。
次にポットに入れた水が沸き、フライパンへお湯をゆっくり注ぐ。このタイミングで玉ねぎを忘れずに入れておく。
日向が忙しくなり始めると、次は電子レンジの加熱が終わり、チーンと音を響かせる。
「日向ちゃん、じゃがいもできたよ」
「フライパンに入れちゃって。シチューのルーもフライパンで溶かしちゃおう」
「これがワンプレートランチ……いや、ワンプレートディナー?」
「まだお皿使ってないから、ノープレートじゃないかな」
「ノープレートでもいいかも」
「グラタンにするから、フライパンのままじゃ難しいよ。千春ちゃん、グラタン皿を用意してくれる?」
「任せてよ。ルーは任せるから」
「は~い」
千春は食器棚からグラタン皿を四つ取り出し、残り半分のバターを容器に擦り付けておく。
日向がルーを溶かすまでの間にオーブンで食パンを素焼きにしようと考えて食パンを一枚オーブンへ入れた。
「そういや、ソース作りのために用意してたのどうする?」
「明日以降に使えるときがあったら使うかな。少なくとも今日は使わないから、しまっておいて」
「了解」
キッチンを整えている間にオーブンが設定時間になり、チーンと大きな音を響かせる。
「オーブン温めておいたよ」
「千春ちゃんが食べたかっただけでしょ」
「だけじゃないよ。その理由もあったけど。もぐもぐ」
「もう食べてる……溢してもいいように流し台で食べてね」
「もぐもぐ」
自由な千春に微笑みが絶えない日向は、それでもルーを溶かすのをやめない。
最後の欠片が溶けきりそうになったので、日向は火を消してフライパンの中身をグラタン皿四つに分けていく。
千春はすぐにとろけるチーズを振りかけすぎたりかけなさすぎたりして、分量を調整した後にオーブンへ二つずつグラタン皿を入れる。
「何分だっけ?」
「そうだなぁ。温まってるなら2分くらい?」
「温まってなかったら?」
「3分かなぁ」
「あんまり変わってないね」
半分ほど食べ進めた食パンを手にしながら苦笑する千春は、また一口また一口と食パンを平らげていく。
「それ食べたからグラタンが食べられないなんて言わないでね?」
「日向ちゃんの料理は美味しいから、そんなことは絶対にしないよ。安心して」
そうこうしていると、オーブンからは香ばしいチーズの香りが漂ってくる。
千春は小さくなったパンを口の中に放り込んで、パン粉がついた手を軽く水で洗い流した。
「日向ちゃんは布巾を濡らしておいて」
「千春ちゃん火傷しないようにね」
千春はミトンをつけてオーブンが音を鳴らすのを待っていると、日向が一度濡らした布巾を頑張って絞っているのが愛らしくて笑ってしまった。
本人の頑張りは伝わってくるのだが、それでも力足らずなところが可愛いのだ。
「日向。俺がやるよ」
「七くんの手を煩わせるにはいかないよ」
「俺のことはいいから」
「あっ…。もう、言うこと聞かないんだから」
日向から布巾を取り上げ、千秋が代わりに絞ると、残っていた水分が流し台へと落ちていった。
「っと。これくらいでいいだろ。日向は布巾を敷いてきて。絞るのは俺に任せればいいから」
「手、痛くならないようにね?」
「分かってるよ」
内心ご機嫌な日向は少し水気のある布巾をテーブルに広げて置く作業を計4回行い、すぐに暇を持て余してしまった。
千春が先に焼き上がったグラタンを布巾の上へと乗せ、千秋は残り二つのグラタン皿をオーブンへ置いて時間を延長して焼く。
「これで終わりか?」
「そ。明日も忙しいなら先に食べたら?」
「俺より先に雪乃だろ。でも、雪乃は熱いの苦手だから結局は時間を開けないといけないけどな」
「みんな一緒に食べようよ。その方が美味しいよ」
「日向ちゃんが言うならそうだね。私は料理のことは全て日向ちゃんに一任してるので」
「わたし、そんなに責任重大なの…?」
実際、日向が四人の中で飛び抜けて料理ができて、それから千秋、千春という順に料理ができる。
料理に関しては日向の言うことが絶対であるというのは、3人にとっては自然なことだ。
雪乃は……たまにミラクルを起こして千秋以上のものを錬成することがあるが、大抵は料理かどうか怪しいものが出来上がる。
一応、お菓子はまともに作れるが、それ以外はもってのほかである。
「今度、日向ちゃんがワンプレートランチを教えてくれるらしいから、みんなでやらない?」
「それはいいな。是非参加したい」
「そんなに難しいことしないよ。七くんはしようと思えばできると思うし」
「いやいや。俺の知らないやり方があるかもしれないし。参加するくらいいいだろ?」
「いいけど、そんなに期待されても困るよ」
三人が談笑していると、あっという間に時間を追加したオーブンが終了を告げた。
一旦話を切り上げて、日向は雪乃を呼びに、千秋はスプーンを用意しに、千春はグラタン皿を運ぶのにそれぞれ動き、1分もあれば四人で食卓を囲んでいた。
長方形の机に千春と千秋が辺の短い方にそれぞれ座り、日向と雪乃が長い方の一辺に二人で座り、そのうち日向は千秋に近い方に座った。
みんなで手を合わせて、「いただきます」と言葉にしてからスプーンをグラタンへ向かわせる。
スプーンでチーズの表面を割ると、パリッとしたチーズの割れ目から粘性の高いシチューが湯気を立てて現れる。
何度も息を吹きかけて十分に冷ましてから一口。
「ん! ベーコンとマッシュルームが食感をよくしてるし、薄く切った玉ねぎにちょっぴり甘さがあっていい。短い時間でよくここまでできたな」
「わたしとしてはじゃがいもにあんまり味がついてないから、もう少しルーを溶かしてから時間を経たせるべきだったなって反省してたんだけど……」
「口の中に入れたらすぐホロホロになるから、日向ちゃんが思うようなことは全然感じないよ。」
「うんうん。私も千春ちゃんに同じく。七くんも日向もよく分析できるね? 私は全然分からないよ」
全員から称賛されたのにも関わらず、日向は「まだ成長する余地があるから」と料理に対しての熱が入っていた。
他3人からすればもう一度美味しい料理が食べられるのでありがたい話だ。
「じゃがいもは半月切りにしてたから、次はいちょう切りにしたら?」
「それだと火を通した時に形が崩れちゃうから、結局のところ火を通す時間が大切かな」
グラタンを食べながら次への改善点について話し合う3人だったが、千秋は雪乃が深刻そうに考え込んでいるのに気がついた。




