第11話 事の顛末+1
なんとなく楠が怒るところまで想像できたところで、千秋は最後の追究を始める。
「だから、実際に丁寧に扱ったのは協力者なんですよ。それも、一人じゃない複数人ですね」
「確かに、これだけの量を一人で運ぶのは難しい気はするな。オレたちでもこの量を傷つかないように運ぶのはキツイ」
南谷は黙って夜居八の後押しを聞き、膝の上で握りしめた拳を解かないでいた。
「今時点で分かっているのは四人ですね。そのうち三人は今日、雪乃の動きのチェックをしたところを見つかったらしいですけど。ああ、そうでした。最後の一人はここにいる皆さんが必ず知っている人物ですよ」
「もしかして、さっきの部長さん?」
「前梁が? ……いや、なるほどな。部長なら、オレたちにとって持ち込んだものは多少違和感があるが、他の生徒には印刷用として誤魔化せばバレないのか」
「それと、単に彼女が南谷先輩の熱狂的な支持者だったこともあると思いますよ。俺たちが部室に入ろうとした時に嘘まで吐いて入らせないようにしてましたし」
桐谷は相槌を打ち、ようやく事件の概要が掴めたらしい。
これで良かった――はずだ。
夜居八もこれ以上の追究はせず、明日の再選挙を控える女子生徒を見る。
「どこから間違っていたのかしら。投票箱を持ち出したこと? 再選挙をしようとしたこと? ……それとも、兄がいたこと?」
「――!!」
千秋はこのことを恐れていた。
自分が悪いことをしたことを知られた上、逃れられなくなった人がやる行動だ。
自暴自棄になった人のやることは想像がつかない。
「会長は他の仕事がありますよね? 先に戻っていても大丈夫ですよ。後始末は俺が全てするので」
「え、最後まで付き合うよ?」
「締め切り近いんですから、早く手をつけてください。外に出たことで多少リフレッシュでしたでしょうし。遅くなるなら糸魚川先生を見張りにつけましょうか?」
「そ、それはムリっ!」
「それなら早く行ってください。カウントダウンでもしますか?」
「いい! いらないから!」
桐谷はすぐに立ち上がると、千秋のブレザーを羽織ったまま、廊下へと飛び出していった。
「俺のブレザー……後で返してもらわないとまた騒ぎになるな……」
千秋がポツリと不満を漏らして項垂れると、夜居八は立ち上がって体を伸ばす。
「生徒会長サマを行かせて良かったのか? 仲間外れにしてほしくなさそうだったが」
「そうですね。でも、生徒会はまだまだ多忙なので。それより、俺の仕事はまだあるのでもう少しだけ付き合ってもらいます」
千秋は席を立ち、ペン立てから油性ペンを1本とホワイトボードに止められていたポスターを持って南谷に差し出す。
「自分で悪いことをしたと思うなら、裏に名前を書いてください。思わないのであればしなくてもいいですが」
「……書きますわ」
南谷はペンとポスターを受け取り、ポスターの裏に名前を書いた。
家柄の影響なのか綺麗な字で、A4用紙の真ん中に大きく名前が現れていた。
「夜居八先輩、このポスターは我々生徒会が回収します。いいですね?」
「生徒会権限に拒否権が通用するとでも?」
「ありがとうございます。では、こちらはこちらで回収させていただきます」
千秋はポスターを裏が隠れるように四つ折りにして、一度開いてから破った。
見ていた生徒たちはいきなりの行動に理解できていないようだった。
「南谷先輩、再選挙の前に時間を取らせてしまってすみませんでした。明日の再選挙、頑張ってくださいね」
「え、え? どうしてですの…?」
「何がですか?」
「私はあなた方生徒会にも、壁新聞部やその他の生徒にも迷惑をかけましたわ。どうしてそんな普通の態度になれますの…?」
「だって、反省した人にそれ以上いう必要ないじゃないですか。同じことをずっと言われる時間があるなら、次に進むためのチャンスを掴みに行こうとする時間を作る方が断然良いと思いますから。……行ってください。先輩には今やるべきことがあるはずです」
南谷は席を立ち、深々と頭を下げた。
数秒の沈黙の後に頭を上げた女子生徒に千秋は小さく頷いて行くように再度促した。
一人の女子生徒が部室から出ていくのを見送り、千秋はそっとドアを閉めた。
「これで一つ目の条件は達成ですか?」
「一度振り返ってくれないか。オレは生徒会長サマやお前のように頭が回らなくてな」
「分かりました。ざっと言ってきたこととしてはですね――」
まず、壁新聞部が作ったポスターにより、何人かの生徒がその話を知り、投票率が下がったと感じた南谷美琴が再選挙を申し出た。
次に、再選挙を申請した南谷はポスターを制作した壁新聞部へ何らかの嫌がらせをしようと試み、再選挙に使用する投票用紙を回収して選挙を妨害するとともに犯人を壁新聞部に擦り付けることを思い付いた。
ただ、それを自分自身でやることにリスクを感じた南谷は自分を慕う人を何人か集め、今日の放課後が始まる前に生徒会室に立ち入らせて投票用紙を回収。仲の良かった壁新聞部の部長の前梁に頼み込んだのか弱みに付け込んだのかは定かではないが、壁新聞部の部室に投票用紙を置いておくように指示をしたのは間違いない。
しかし、投票用紙が500枚しかないと分からなかったので南谷は改めて生徒会室に赴き、一ノ瀬と長森と接触した。生徒会立候補者の権利でその場で投票用紙を確認すると、それが残っている全てだと一ノ瀬から聞くことができた。直後、千秋が解散の連絡をしたことにより一ノ瀬と長森が生徒会室から離れたので、誰もいなくなったところを狙って投票箱ごと持ち逃げした。
事前に前梁から受け取っていた鍵を持っていざ壁新聞部の部室の前に来ると、電気は消えて人の気配がなかったので警戒もせずに入ってしまった。
最後に、今に至るまでの会話があったということだ。
「これで満足ですか」
「ああ。オレは約束は守るからな。一つ目の条件は良いだろう」
「その言い方からして、本当にするんですか…?」
「今年度最も気になってると言っても過言ではないくらいには知りたいかもしれない」
壁新聞部部員の二人も凄く聞きたいようで、激しく首を縦に振っている。
「ないことを証明するだけですからね。先輩方が思っているような展開はないですよ?」
「それでも気になるものは気になるだろ」
「本当に聞いても後悔しませんね?」
「しないしない。オレたちの仲だろ?」
「どこに仲の良かった時間があったんですか。俺の記憶にはどこにもないんですけど」
「細かいところはいいから。聞かせてくれよ」
念押しのように頼まれて千秋は仕方なく桐谷との関係を話すことにした。
心のどこかで桐谷に申し訳ない気持ちはあったけれど、どうせ誰にも納得されないと思って話した。
「……つまり、仲が良ければああなると」
「そうですよ。会長は男女関係なくああなるんです」
「なんだよ。もっと衝撃スクープを期待していたのにさ」
「あの仕事の中で恋愛事ができる人なんて、世界中どこ探してもいないと思いますよ」
とてもガッカリする三人に苦笑して、千秋はようやく二つの条件を達成することができた。
ドアが少し開いていて、少し肌寒く感じた頃には、夕日が山々へと消えていく途中だった。
「俺はそろそろ戻ります。施錠は先輩方が行ってくださいね」
「ん、待て? 鍵って確か」
「南谷先輩が持っているんじゃないですか? 帰る前に気づくといいですね」
「お前っ、マジで言ってんの!?」
「俺と会長のエピソードを期待している方が悪いんですからね」
三人の焦った声を背に、千秋は投票用紙500枚と投票箱を持って、一足先に部室棟から出た。




