会合
「ーー久しぶり。で良いのかな?晴翔」
彼女が現れた。何の前触れも無く、ただ初めからそこにいたように。
『ーーえ?何で……?』
あの時と、寸分変わらない姿でオレを見ている。
「えぇそうね。何で生きてるのかは、分からないけど。まぁまた殺せば同じ事よね」
ずるりとオレの中から何かが引き摺り出される感覚、欠けてた何かがパシッとはまった。
ーー互いに溢れるのは“憎悪”
『死ね』
「ーー殺して、やるわ」
無闇矢鱈に『宝具』は晒せない。
『魔力糸にいこう』
彼女は腰に刺してた剣を引き抜き、オレは十の指から魔力糸を出して接近する。
彼女の腕に魔力糸を絡めてこちらに引っ張る。身体強化がかかってらから、人一人引き寄せる程度、造作も無い。
『オラァ!!』
メキリと人間が出して良い音でないものが、彼女の体から響き渡る。振り抜いた拳から、骨が折れる感覚や内臓の何個かが潰れるのを感じる。
ダメージが入ってない。
身体強化したパンチを喰らってなお、微動だにしない彼女を見て、そう感じた。感じるしか無かった。
「ふーん」
痛がる素振りもせず腕に絡みついた魔力糸を、強引に引きちぎる。
『おいおい、マジかよ』
物理的な干渉に強い筈の【魔力糸】を引きちぎった。
役目を果たせず、形を崩し魔力となって霧散する魔力糸に驚きはあったが、別に想定外と言うわけじゃない。
「魔力糸は物理的な干渉に強いけど、魔力的な干渉に弱いんだっけ?」
彼女の体表に走る赤い亀裂。オレにとっては見覚えしか無い。
『ーー【魔技駆動式】と、【身体強化】の合わせ技かよ……オレより良い使い方してんじゃねぇよ』
あるとは思ってた。身体強化はともかく、【魔技駆動式】はオレのオリジナルではあるが、その中身は至極単純。
【魔技駆動式】の本質は『学習』
事柄を見て、聞いて、触れて、考え、理解する。
本来の【魔技駆動式】は、全身の神経の一割程を置き換えて使用する魔術。
彼女もおそらく、オレのような偏った使い方じゃ無くて、本来の使い方のはず。
『あくまで、補助って事かい』
オレのように『適応』までせず、その事柄に対しての最適解を叩き出す。
「まぁ、いわゆる人工知能に近いものね。それプラス、私の魔術の制御装置がおまけで着いてるわよ」
『でしょうね!!』
【身体強化】の制御を自分ではなく、【魔技駆動式】に完全に委ねてるって事だな。ただ、当然デメリットだって存在する。
『魔力の供給、間に合ってないんじゃないか!!』
(魔力糸の欠点……は既にバレてる。ならッ!!)
先程の『節制』との戦闘跡、『宝具』によって倒壊した建物の瓦礫。
魔力糸でそれらを絡め取って、彼女めがけて叩きつける。衝撃と同時に砂埃が空に舞う。
『流石にって、言いたい所だけど……やっぱりか』
煙が晴れて、現れたのはその存在を主張するかのように彼女は一つとして、その場から動く事なく佇んでいた。
「んー、ちょっと驚いちゃった」
『はっ、他に感想はねぇのかよ。最低限、恐怖ぐらいは感じとけよ』
「ふふっ、飛んで来ただけでしょう?瓦礫が」
『普通の人はそれだけで充分感じるんですよ。死にそうって恐怖をな』
(スキル……にしちゃあ、些か能力に関連性が無い。マジックアイテム、呪具って言う線も薄そう。となると……)
【権能】それもただの権能じゃなくて、二十一の柱を冠する者の、どれか一つを彼女は持ってる。
『魔術師』はその名の通り、魔術に関する能力。『節制』は名前からは想像は出来ないが、能力保持者が言いふらしていたし、隠す気も無かったからよく知っていた。
が、目の前の彼女の【権能】には一切の情報を持っていない。つまり、それが意味するのは未知との戦い。
最低限、彼女が持っている【権能】の名前を知る事が出来れば御の字。最悪、逃げればいい。
そう、思っていた。思ってしまった。
「ーーあら、どこに行くの?『もう決着はついてるのに』」
オレの意識は、闇に落ちた。




