笑う笑う笑う
ゴキリとヘルメの首が音を鳴らしてあらぬ方向に曲がり、その体が糸を切った人形のように倒れない。
レオのボヤけた視界に映ったのは、己の蹴り足を首と右肩で挟んでいるヘルメの姿。
「ぁあ!!今のは、良いもん入ったぜぇ!?」
「な!?死んどけよ人としてぇ!!」
今までで一番ギラついた目をしたヘルメが、腰にあるもう一本の刀を振り抜く。刃が真横に弧を描くが、レオは挟まれて無い方の足で、ヘルメの肩の高さまでジャンプして避ける。
「やっぱ良いじゃねぇかお前ぇ!!」
空振った刀を地面に突き刺して、宙に飛んで身動きが出来ないレオめがけてパンチを繰り出す。
レオは右の肘でパンチを受ける。メキャリとヘルメのパンチした手が中指と薬指から二つに分かれるように裂ける。
中指と薬指の第一関節から歪んでおり、裂けた所から赤に塗れた骨が見えて、その周囲にはほつれた糸のように、肉が不自然に千切れてそこから赤と青色の血管が見えている。
それを見たヘルメは、ゆっくりと口元を歪ませる。
「ひひっ!!」
ヘルメの変な笑みがレオの頭に響く。不思議とその声が邪魔とは思えず、心地よい音として脳が処理した。
ヘルメは原型を留めない己の左手を見て、まだ使えると思いは脳に走る危険信号を無視して拳を作る。
そして挟んでいた足を開放する。支えを失ったレオの体はゆっくりと頭から落ちて行く。
レオは着地の為、咄嗟に両手を地面の方に向ける。ヘルメはあえてワンテンポ遅らせて、レオの顔面に突きを落とす。
両手を地面に向けているからレオは今、繰り出された突きに腕で防御する事が出来ない。
ヘルメは、このタイミングを狙っていた。
すぐ下には地面。前には拳。擬似的なマウント状態の一発で相手を殺すために。
「あばよ!!」
ゴギャリとヘルメの拳がレオの顔に突き刺さる。
「地面への衝突は、避けたっぽいな……ん?何で抜けねぇんだ?」
レオの顔面に叩き込んだ拳が、何かに締め付けられるように動かなくなる。
「ほうひひゃよ」
顔面に放った拳を、レオは口でヘルメの左手を噛んで動かさないようにしていた。
「マジかよお前ぇえ!!」
次は右の拳でレオを殴ろうとするが、レオは口に咥えてる腕を押さえ付ける。
その時、ヘルメの長年の“戦士”としての勘が危険を告げる。
殴ろうとしていた右手を解き、刺していた刀を手に取ろうとするが、ぐるりとヘルメの視界が反転する。
ヘルメとレオの位置が逆転する。
ヘルメは見た。目の前で見た。しかし、見ていながら何をしようとしてるのか分からない。
レオの両足が、ヘルメの首と咥えてる腕の二つを挟み込む。それを合図に、レオの足先がヘルメの頭の後ろでガッチリと組まれる。
それと同時に、レオは掴んでる腕を自分の方に引き込む。
すると、一気に頭がボヤける。考えようとしても、まるで水のように形にならず、溢れて行く。
未知の技にヘルメは、逃げ出そうと笑いながら足掻くが、初めて喰らうそれがどうしても抜け出せない。
ーーその技は、知っていなければ極められず。知らなければ抜け出せない。
「ーーなぁ騎士様よ、三角絞めって知ってるかぁ!?」
ヘルメは足掻こうとレオの足に爪を立て、引っ掻き回す。しかし、赤子の様な力しか出せない。
「ふ、ふへへっ……」
この世には、まだ知らない事があるのだと、最後にそう考えながらヘルメは意識を手放した。
その顔は、新しい玩具を見つけた子供のようだった。




