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復讐狂気の不等録  作者: 工藤
帝都強襲
32/34

勝負


 眼前に広がる十三の首。真っ白な修道服が血を吸い上げて、紅く変わっていた。


「ひっ!……ぅうわぁぁ!!」


 残された二人が、この惨劇を造ったエルに恐怖の目を向ける。

 半ばで折れた剣がガリガリと地面を割りながら、ゆっくりと近づいて来る。


 二人の兵士は、己の死を明瞭に感じて息が詰まった。


「少し……良いだろうか……『正義の魔人』と言う名前を聞いた事は、あるかい?」


 人を情け無く両断して見せた人がまるで、聖人のように穏やかな表情で問いかける。


「た、確か……軍の共同、ぼ、墓地に小さく、刻まれていました……」


 震える体と飛びそうな意識を必死に繋ぎ止め、エルの顔を伺いながら答える。


「そうか……そうかい。ありがとう、麗若き青年兵よ」


 折れた大剣が元の十字架(ロザリオ)に戻る。戻った十字架を、ミシミシと音が鳴る程握りしめる。


「どうやら、先に逝かれたようですねーー守れる者は、護れましたかねぇ……先輩?」


 その顔は、どこか羨ましそうに笑っていた。


















「なぁ、ハルトさん」


 帝都に襲撃をする前。ちょうどメトゥールとの決闘が終了してしばらく経った時、獅子の亜人ーーレオがハルトの後ろから声をかける。


『ん?どうした、レオ。お前がオレに用があるなんて珍しいけど?』


「いやぁ、ちょっとだけ気になった事があって……」


『なんだい!そんな遠慮しなくて良いからさ、どんどん聞いて良いよ?』


「なら……ハルトさんの、師匠って誰ですか?」


『あー、別に師匠がいるってわけじゃないだよ。ただ、オレが勝手にその人の戦い方を真似てるだけだよ。別に、何か師事してもらったわけじゃないしね』


「その人、結構やべー人なんすね」


『だってさぁ、訓練前に酒を仰いでやって来るんだぜ?もう酒臭いのなんのって』


「なんなんだよそいつ……」


 ハルトの口から溢れる言葉のほとんどが、顔も分からない人間への愚痴ばかり。

 でも、内容とは裏腹にまんざらでもない顔をしていたのは、くっきりと覚えていた。













 


 気がつくとレオは宙を舞っていた。


 殴られたと、そう理解するのは背中から無様に着地し、地面の泥が体を汚した後である。


「へぇ、ちったあ骨があるじゃねぇか。俺の拳でとばねぇ(失神)、気合いの有る奴なんて、そんないねぇんだぜ?」


 殴った張本人であろう男が、草履をパタパタと音を立てながら近づいて来る。


 見つかったと、そう感じてレオは己の失態に顔を歪める。


 ()を見かけた時に、落ち着いて撤退すれば良かったのだ。いつものレオならそれが出来てた。

 しかし、その時のレオは妹のルクトが怪我を負ったと、勘で察知し冷静な判断が出来なかった。


「おいおい……まさか、こんな所で負けるなよ。獅子坊?」


 二本の軍刀は鞘すら無く、剥き出しの刀身は赤錆に覆われていた。武具への敬意など欠片も感じさせない、忠義のかけらも無いおよそ騎士とは思えぬ男だった。


 パタパタと鳴る草履の音が、ボサボサでまとまりの無い髪が今は無性に腹立たしい。


「ほんっとに、因果なもんだな。まさか……ハルトさんの先生に会うなんて」


 その時、目の前の男の表情が驚きに変わる。


「晴翔?おめぇ今、晴翔っつったか?」


「そうだけど。なんだよ?」


 その言葉を聞いた後、男は肩をワナワナと振るわせ……爆笑した。


「ガハハ!!やっぱ生きてたか!!あの馬鹿は!!」


 頭を掻きむしり、フケが笑うほどに落ちてくる。


「よく覚えてるさ!俺のことをジロジロと見てたクソガキだろ!?全く、あークソ。こんなに笑ったのは、久しぶりだぜ」


 レオは目の前の、敵を目の前にしても余裕と笑い、一切の構えをとらない男に、警戒をさらに強める。


「ーー構えろよ、少年」


 【笑顔】とは、【威嚇】を示しているとどこかで聞いた覚えがある。

 突如として、男が構えをとる。彼は、凶悪と言うには溌剌な、純粋と言うには重たい笑顔を浮かべていた。


 その事実に、レオの全身が震え上がる。


 足を肩幅よりも少し広く開け、腰を落として重心を前に屈める。その姿はまるで獣のように、荒々しいものだ。

 両手を軍刀の持ち手に添えて、いつでも抜刀出来るような体勢をとる。


「元々、つまみ食いの予定だったんだが変更だ。お前に興味が湧いたよ、だから食い潰してやるよ。その前に、お前の名前は?」


「レオ、俺の名はレオだ」


「そうかい。んじゃあ俺も。『四卿』『勝利』だっけ?まぁ良いか。ヘルメ・ビクトリア、それが俺の名前だ」


「そうかいっ!!」


 レオが前に踏み込み、地が爆ぜる。その時、レオの首筋に生暖かい違和感が這う。


 ーーと、同時に後ろに下がる。


 ゴウッ!!と先ほどまでレオの首があった場所を通るように、軍刀が横に一閃を描く。


「やるじゃねぇか、あそこまでの緩急をつけれるなんてなっ!!」


 軍刀の持ち手を両手でしっかりと握りしめ上から下、一歩踏み込んで下から上へと刃が迫る。


「グッ!?」


 レオは首を傾けて回避するが、左胸から鎖骨にかけて傷が入る。あと数センチ深ければ、骨ごと断たれただろう。


 だがその程度では、レオは止まらない。


「ーーフッ!!」


 切り上げと同時に右側の足を軸にして半回転、そして相手の顔面めがけて左足の踵で、回し蹴りを繰り出す。


 ヘルメはにこにこと笑いながら、回し蹴りをもろに受けた。

 

 蹴られたヘルメは、回し蹴りの勢いを利用して側転し、左手を不自然に握ったまま立ち上がる。


 レオは追撃のために、こちらに向かって走って来る。それを知ってたのか、ヘルメは右手に持った軍刀を、レオに向かって投げ飛ばす。


 レオの視界に、赤く錆びた刀がまっすぐ迫る。


 焦る事なくその場にしゃがむことで、問題無く回避する。

 武器となる刀を失った今、膂力に分が有るこちらの方が勝てると判断する。


 もう一本の軍刀が、ヘルメの腰にあるが近づけば容易に抜くことは、逆に命取りとなる。

 既にレオとヘルメの距離は、大股二歩分の間合い。


 腰の軍刀を抜くより先に、レオが拳を振り切る方が早い。

 殴り合いになると、レオは予想してどう立ち回るかを考えてる時、ヘルメが左手を振るう。

 

 その中身が、レオの顔に投げられる。茶色の粉が宙に舞った。

 瞬間、レオの両目に痛みが走る。目の奥にザラザラとした感触にレオは異常と思い、慌てて距離を離す。


 

「砂かっ!?」


 やられた。そう思い、直感でレオは顔と心臓の所に腕を被せる。が、殴られたのは腹だった。


「おいおい、どうしたよ!?さっきまでの威勢はどこ行った!!」


 レオは殴られようが、蹴られようが一切の抵抗を見せず、ただ必要最低限の防御のみをし続けている。

 やがてその猛攻は、終わりを見せた。ヘルメの呆れた表情と共に。


「チッ、んだよ。俺の勘が鈍ったか?歯応えねぇな、オごッ!?」


 レオはずっと待っていた。目を潰された状況で、耐え続けれは何処かで警戒をとくと。


 亜人族随一の怪力を持つ、虎人族であるレオが()()で繰り出した蹴りがヘルメの首を、あらぬ方向にへし折った。


 






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