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復讐狂気の不等録  作者: 工藤
帝都強襲
31/34

木槌


 帝都、大通りに一人歩いている人物がいる。人がおらず、静寂に固められた街並みにゆっくりと歩みを進める人がいた。


「やっぱり……誰もいなさそうだな」


 首から十字架(ロザリオ)をぶら下げて歩いていたのは、十二宮の第一位。エル・カマリであった。

 

 光に照らされた彼の顔の半分は、酷い火傷の跡がある。それを隠すためハルトと似た様なフード付きの服を着ている。一つ違いを挙げるなら、それは修道服に近いものだ。黒の部分は無く、汚れが目立つ()()()()修道服だった。


 今回の作戦では、最低二人での行動を命じているが、エルは一人で帝都を散歩している。


 理由の一つは、エルとハルトは実はあまり仲が良く無い。何故かと言うと、エルは“殺人”を一番忌避している。しかしハルトは、場合によっては殺人を平気で犯す。それぞれの命に対する価値観が余りに乖離しているからだ。


 二つ目は、他の『十二宮(ゾディアック)』のメンバーとあまり上手く馴染めなかったのだ。

 別に亜人族の事が嫌いではない、ただほんの少しだけ遠慮して、あと一歩が踏み出せずにいた。


「はぁ……こんな事なら、レオかゲミニを連れて来た方が良かったか?」


 己の不甲斐なさを憂いたその時、前から複数の人影が現れる。


「貴様が魔神七将、“七将”直属『十二宮(ゾディアック)』の一人で間違いないな?」


 ーー十五人。おおよそ一個中隊が重厚な甲冑に身を包んで、エルを囲うように陣を組む。


 エルは焦るそぶりすら見せず、ただ何かを見定めるように目を凝らす。


「ーーバツバツバツバツバツ、マルバツバツバツバツ、マルバツバツバツバツ。そうか……たったの二人か」


 全部で十五。その数はちょうどこの場にいる、エルを囲う兵士の数と一致する。


「何だ、貴様はッ!!」


 ただ悲観せず、まるで機械の様な眼差しに、兵達は言いようのない不安に駆られる。


「なに、どうと言う事も無い。()()()()()()()の数だよ。どうやらその“二名”は、佇まい的に新兵のようだ」


 一歩。兵達の内、言い当てられた二名の新兵が、何か得体の知れないモノを見る目でエルを見て一つ下がる。


「私は、如何にしても人が人を殺す行為が、理解出来ないんだ。なぁ、教えてくれないか。何故、人を殺めたのか?」


 人数的不利の状況。普通の山賊なら命乞いをする所で、この男は衛兵達(彼等)に問いを投げたのだ。何故殺したのか?と。


 その場にいる全員が口を開けず、ただ己の身を守る武器に力を入れるだけであった。

 押しつぶされるような重圧では無く、しかし、全てを飲むような狂気でもあらず。ただの疑問を持った一人の人間として。そこにいた。


「ーー答えは、出ない。か」

 

 どこか、諦めたような。懐かしむ声調で彼は紡いだ。

 首にかけた十字架(ロザリオ)をゆっくりと外す。


 ーー赦しはあれど、しかし無慈悲にも彼は()量る(与える)しか出来ない。


「ーー【照明せよ】」


 断頭の、裁きが聞こえた。


「【六罰】」


 十字架(ロザリオ)が歪む。想いを砕く、木槌(ガベル)となって。


「ーー第四罰、【罪血纏わる斬首の剣(リヒトシュヴェアート)】」


 エルの身丈と変わらぬ剣となった。

 

 その剣は先端が半ばで折れていた。しかし、衛兵達は理解した。あれは()()()()()()()のだと。


 大きな鉄の塊が、バランスを崩して地面を割る。エルはゆっくりと、ガリガリと地面を押しのきながら進む。


 兵達はただそれを、じっと見ている。動こうとすればする程あの手に握られている、折れた大剣に吸い込まれるように観てしまう。


 真っ白な処刑人(エル)が、無機質な表情で己の眼前に迫っていた。


「う……あ、ああっ……」


 気づいたら、彼の眼前で跪いていた。まるで執行されるのを、裁かれるのを今か今かと、震えてせがむ囚人のように。

 その顔には、僅かな悦びがあった。


「ーーさらば。名を知らぬ者よ」


 一刀。


 ただそれだけ。彼の過ちを両断するのに、それ以上は無粋であった。

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