ぼくがかんがえたさいきょうの……
前提として、ハルトはアルカナの一つを持っています。
「Grrrryyyaaaaa!?!」
『クッソ何だよこいつ!!暴走しやがった!!』
自分が流した血を見て、テンバランスは発狂して体から出た【黒】により、人間の有り合わせのような外見になった。
ハルトはそれを見て、既に逃走を開始していた。
「Krrrrooooaaa!?!!」
四つの口で奏でる不協和音がハルトの耳に届き、その表情には焦りが見えている。
『あーもう!こんなのどうしようも無ぇじゃねぇか!?」
ハルトは、己の顔を隠す仮面に触れる。これを剥がせば、あの狂える節制を完全に殺し切る事が出来る。
しかしその後が、ハルトにとっては恐ろしい。故にこの手は不要と判断し、数瞬の思考の末破棄する。
変異したテンバランスは、その場から一つとして動いてはおらず。しかし、何故ハルトはテンバランスに背を向けているのか?
『クッソ、まただ!!』
何かが変わった筈なのに、何も変わってない。
大きく歪んだ建物、捩れた時計塔を見て初めからそうだったと、そう思ってしまっている事が異常なんだ。
『“原型”の変異!!今のお前の能力はそれかよ!!』
地面が明らかな幾何学的構造に捲れ上がり、それを目の前で見たのに、それを“異常”であると感じれない。
「Rrrrrrraaaaaaaaaa!!!!」
『あぁっ!もう、うるせぇな!?人間が理解できる言葉を話しやがれぇ!!』
苦し紛れに魔力糸で薙ぎ、牽制を放つが『節制』は避ける事はせずただそこに“在る”だけ。
魔力糸は『節制』の体の寸前で静止し、それ以上の進行は権能の力に阻まれた。
ハルトは進まない魔力糸を見て舌打ちをし、その糸を回収し役目を果たせず魔力として霧散させる。
そして、試しにそこら辺の長い建物を『節制』の方に切り倒すが、ズドンと言う轟音と砂煙を立ち上げ、パラパラと豆粒程の大きさの石に打たれて現れたのは無傷の姿。
『マジかよ、無敵バリアとか使うなよ。多分、オレの『宝具』じゃ届かねぇ……いや、でもこれなら!!』
ただの魔術ではアルカナ持ちの肉体に傷をつけれず、しかし不用意に近づけば権能の餌食になる。
最悪な事に、今のハルトと『節制』の権能は相性がすこぶる悪い。
“原型”の変異と言う能力は、その“存在”があやふやであればある程効果を増して行く。
今のハルトは、【契約】により現世に留まっている。つまり生者なのか死者なのか、ハルト自身理解していない。
ハルトは、目の前で暴走している『節制』の権能に、僅かでも擦れば、存在そのものが抹消されるのだ。
ハルトが打てる手は必然的に限られており、逃げながら魔術で牽制をするだけである。
しかし、先ほどハルトが放った魔力糸が、ハルトの元に帰って来た事を見て、不可侵と変容を押し付ける節制に致命打を与える方法を見つけた。
『ーー【ヴィネ・アルテリエ】!!【ロア・ギアラ】!!』
オレは同時に二つの『宝具』を展開する。【ヴィネ・アルテリエ】は、赤と青の二色が混ざらず混同する人馬の弓。
本来の大きさの為、オレの腕が肩まですっぽりと見えなくなる程の大きさ……弓というより、バリスタだな。
【ヴィネ・アルテリエ】の能力は、指定した魔術を魔力を消費する事なく際限無く増やす。と言う能力だが、いかんせん火力がアホみたいに高くなるので、使い勝手が悪く街中で扱うものでは無い。
しかし、今回はそれを逆に利用する。
【ヴィネ・アルテリエ】は、大きさこそ規格外ではあるが、本来の用途は弓。つまり、矢を打ち出す部分がある。
まず、矢の代わりに【ロア・ギアラ】を起動せずにセット、そして【ロア・ギアラ】に僅かな魔力で作った『円削』を付与し、魔力糸をハルトと【ヴィネ・アルテリエ】【ロア・ギアラ】に括り付ける。
そしてそれを、何の躊躇いも無く佇んでいる『節制』に向けて放つ。
『節制』を中心に展開する不可侵は、自身に向けた敵性のある物全てを平等に停止させる。これのせいで、さっきの魔力糸は肉体の寸前で完全に停止していた。
ここで重要なのは、『敵性がある物』と言う事。先程の建物の倒壊の時、あいつは豆粒程の瓦礫に打たれて現れた、つまり……
『あいつは、自分の意思で不可侵を制御出来無い!!』
放たれた『宝具』が、節制目指して突き進んで行く。
「Krrrroooooaaaaaa!!!!」
ぎょろぎょろと体中に生み出した目で、飛んでくる“敵”に権能を行使する。
『宝具』は不可侵を進むが、進むにつれ『円削』は極限まで威力が減衰していく。
『いや、ギアラ以外の『宝具』だったら、止められてたよ絶対にな』
進む、進む、進む。
不可侵を掻き分け、ものともせず『節制』めがけてただ進む。
それを不思議な顔で、『節制』は見つめる。
ーー何故止まらぬのか。
ーーどうしてこちらに来るのか。
ーー何か、間違っている?
そう。そうだ。そうなのだ。何か、勘違いをしている。僅かな、たった一つの、そうたった一つの致命的な間違いを。
何故、剣のような形を何かが、こっちに来るのだ?
『分かるわけねぇよなぁ!!ただの杖にどうやって危機感を持てって話だ!!』
でも、それだけじゃあオレは勝てない。
残りの最後の一欠片は……魔力糸だっ!!
『ーー【ロア・ギアラ】【ヴィネ・アルテリエ】起動!!』
魔力糸を通じて、二つの『宝具』を起動させる。消えずに残った『円削』が、【ヴィネ・アルテリエ】の術式で息を吹き返す。
虫の息だった『円削』が『宝具』の効果で、爆発的に威力を増して行く。
それを察知した『節制』は、権能を使って『宝具』を停止しようとするが、何故か自分の体が『宝具』の方に引き寄せられていた。
『おいおい……お食事中は、席を立つなって親に言われなかったのか!?』
起動した【ロア・ギアラ】が周囲の空間を巻き込み、『宝具』と『節制』の間の距離をゼロにする。
「Ooooooaaaaaaaa!?!?!?」
『静かにしろよ……狂人が……』
曲がり唸る空間の中で、静かに極星が放たれた。




