声を上げるのは
普通、体が真っ二つになる傷を負えば、致命傷になるのは必然だろう。
如何なるスキル、魔術を用いてもそれは覆ることは無い。
ハルトは、外見は真っ黒な騎士服のような物を着て、その上からフード付きのマントを羽織って、顔面を真っ白の仮面で覆っている。
そしてハルトの体に対してのダメージはほとんど意味が無く、“魂”に直接攻撃を加えなければ、ろくにダメージを与えれない体になっている。
「へぇ……やっぱりそうなんだ」
つまり、ハルトはたかが体の半分が切れようと、己の“魂”損傷が無い限りほぼ意味は無いのだ。
『めんどくせぇな、お前の権能!!』
「そんなにジタバタしないでくれないかい?踏み潰したくなるからね」
『死ねッ!!』
吐き捨てるように言葉を投げかけ、落ちた上半身を『魔力糸』で縫合し、縫い目を補強して取れないようにする。
【身体強化】の魔術を発動して、入り組んだ裏路地に逃げ込む。
「あぁもう!!逃げるなよめんどくさいなぁ!?」
テンバランスが大声で何かを言っているが、全部無視して壁に魔力糸を刺して固定し、振り子のように自分の体を動かしてタイミングよく魔力糸から手を離して、また次の壁に糸を刺し込む。
(あの野郎の権能は、さっき守征二十一柱って言ってた。つまり……)
『こいつが効果バツグンって事だな!!』
オレの体に右手を左胸の少し下に突き刺して、ズルリとオレの中で蠢いていた『宝具』を引き摺り出す。
初めに見えたのは“持ち手”。しかし剣としては些か細すぎるもの。
次に見えたのは、“鍔のような物”しかしそれは大きく曲がっており、持ち手に巻き付くように曲がっていた。
最後にその刃であるはずの部分が顔を見せる。
円柱のような形のそれは“切る”事を目的とした形状をしておらず、あるのはただ“飲み込む”事それのみ。
「ーー何だい?そのおぞましい物は」
『なぁに、ちっとばかし身を削った物よ』
本来『宝具』の持ち主はハルトであり、部下に与える『宝具』もハルトの意思一つでハルトの元へ戻っていく。
つまり、ハルトはその気になれば全ての『宝具』の同時使用も可能である。
『ーー起動【ロア・ギアラ】』
それは剣とは言えず、それは杖の一つ。
捻り、潰し、喰らい、そして吐き出す。その四つの所業を為せる牡羊の『宝具』。
杖の標準をテンバランスに合わせて。
『【喰らえ】!!』
目の前には、両目を見開くテンバランス。ハルトの【身体強化】を施した拳がテンバランスの頬を殴り飛ばす。
「なっ!?」
テンバランスは、何が起きたか分からず権能の使用のタイミングを逃し、口から血を流し体をのけ反らす。
『【吐き出せ】』
『節制』の権能ですら抗えない強い何かが、知った事かとその体を退けさせる。そして、弾き出されるように地面に叩きつけられた。
「あ……っ!?」
口から漏れた、二、三滴の血液を見てしまったテンバランスが、それに怯えるように、発狂し始めた。
「あ、うああああぁぁっつ!!?血が!?血だぁ!!?」
ジタバタと、手足を動かして、地面に落ちた血液から距離をとるように後退る。
血が付着した上着を脱ぎ捨て、魔術で燃やす。その後、血が付いた唇を両の手で引きちぎった。
『おい!?……何して……』
「汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いッ!?」
テンバランスは、自身の僅かでも血が付いた部分……己の服を、皮膚を、歯を、肉を、指を手を骨を神経を、血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!血を!!!
“不快”を取り除く為、徹底的に“血”を取り除いた。
「僕をッ!!穢すなぁ!!」
皮を剥ぎ肉を削いだ顔で、まぶたも無く剥き出しの目玉が、真っ黒にハルトを見つめる。
その時ーー
【黒】が溢れた。
「ゔぉおああああAああ、あAaaaaaaaaaaaa!!?!??」
そのテンバランスから溢れた【黒】が体を肉塊に変えて行く。とても人とは言えない、“異形”の姿に。
【黒】が晴れた時、現れたのはテンバランス、だった何か。
四肢が体中のあちこちから生えており、その長さや太さ、指の数まで一切の揃いは無く。
顔も、顔のパーツがグチャグチャに配置され、口が四つ、目が一つ、耳が六つで鼻が三つ。
何一つとして、“人間”として整えられた部位は無く。あるのは【人間の寄せ集め】であった。
「Gaaarrrryaaaaa!!!」
四つの口から、声のような何かを吐き出して、振動として耳に伝わり、不快な音が脳を震わす。
『何だよ……こいつ……』
ハルトの眼前に、化け物が現れた。




