捻じ曲がる思惑
ゲミニを言っていた言葉は、ある意味の“暗示”だろう。
『碌な死に方はしない』そんな事、最初から分かってる。分かってる上で、オレはコレを選んだ。
体内で蠢き続けるナニカが、オレに牙を剥き続ける。
それとはもう一つ、別の大きな繋がりが本来なら消えているオレを、現世に繋ぎ止めている。
『これで……これで合ってるよな『■界』?』
ーー誰か答えるわけでも、無ぇのにな。
帝国の王城は、慌ただしく。しかし毅然とした体制でこの事態の対応に追われていた。
「フラベル様の転移魔術により、民間人えの被害はありません。しかし複数の衛兵と勇者様の何名かは連絡がつきません!!」
「そう……下がって良いわ」
「はい!失礼します!」
連絡した衛兵を下がらせ、『聖女』であるノエルは椅子に腰掛け現状を思案する。
決断を迫られている。『聖女』として、この国を運営する者として。
「しょうがないですが、今動かせる『四卿』を出撃させましょう」
(『犠牲』は既に出ている『親愛』に戦闘は不利。『勝利』や『苦難』辺りが動かせると思いますが、果たして命令を聞いてくれるか……)
「申し上げます!!」
すると部屋の扉が勢いよく開けられ、慌ただしく衛兵が報告に来た。
「どうしたのです?そこまで慌てて」
「『苦難』様が、護衛兵を殺して出撃なされました!!」
ノエルは天を見上げた。
「ふーー。それで、『苦難』様は何とおっしゃられました?」
「それが……『僕の庭に居る害獣を駆除してくるよ』と残して」
「チッ、これだから亜人差別者は……」
ノエルは痛む頭を押さえて、衛兵に命令を告げる。
「『苦難』様は、守征二十一柱を持っておられますし、万が一もありませんし、元々出撃予定でしたので、大目に見ましょう」
「は、はいっ!分かりました。そして、残りの『勇者』様に関しては……」
「そうですね……出るのは愛莉様と一真様だけで良いです。これ以上犠牲にするのも、ダメですからね」
そう言ってノエルは窓越しに、戦場となってる街を見る。その目はからくりのように無機質であった。
「はぁ、ようやく見つけましたよ。僕の庭を這い回って穢す害獣が。全く酷い匂いだよ、早く絶滅したらどうだい?」
しばらく首塚の前で呆けていたら、何やら敵が呪詛を呟きながらやって来た。
「どうしたんだい?僕が話しているのに、何か言ったらどうかい?いや、やっぱりいいよ。亜人なんかと言葉を交わすつもりも無いし」
『ハッ、嬉しいならそう言えばいいじゃねぇか。ダッシュでハグしてやるよ、腐敗臭ひでぇけどな』
「はぁ。五月蝿いな。僕は君とは喋りたく無いって言ったんだけど?」
『んじゃあお前ぇが口閉じろや!!』
ハルトが指先から『魔力糸』を出し、人体を容易く切断するそれを、目の前の青年に向かって振るう。
「はぁ……これだから亜人は嫌になる」
何ら抵抗も無く、目の前の青年は真っ二つになった。
下半身がバランスを崩して膝から落ち、泣別れた上半身が、空中で回ってベチャリと地面に落ちた。
『ーーは?』
(え?え?切っちゃった……あんだけなんかガンくれてたのに、なんか真っ二つになってるんですけど!?)
そこら辺で拾った瓦礫の先で、別れた上半身と下半身をそれぞれ慎重につついて回る。
『え、死んでるよな。死んでるよなこれ』
「結局そうやって、暴力でしか解決しようとしないのがさ」
その時、断たれた上半身が唐突に喋り出した。
『うわっビックリしたぁ……早よ死ねよ』
「本当に五月蝿いなぁ……あぁもう亜人って嫌になる。元の産まれは下賎なくせして求めるのは清廉潔白な物ばかり、一々こちら注意したら変に反発して受け入れるって言う手順が無いんだ。これだから世界的に迫害されるんだ、だって自己中で厚かましくて馬鹿で能無し、相手にするのが嫌になる。そんな亜人をきちんと間引いてる僕が陰で『差別主義者』なんて呼ばれてるんだぜ?」
(いやもう……早よ死んで……)
「はぁ、ほんっとに嫌になるよ。何で穢らわし亜人に、純粋なる人間族が淘汰されるんだ?あぁ本当に……世界って何で『不公平』なんだ!!」
(うん。切ろう)
そう思ってハルトはまた、指先から『魔力糸』を出して振るおうとする。
『ーーあれ?』
ハルトの視界が背中に感じる衝撃と共に上に固定された。
視界に映り込むのは、先程まで上半身と下半身が別れていた青年が何事もなかったかのように、立っていた。
「ーーさぁ、ここからどうする?」
“四卿”『苦難』ダーケイト・テンバランス
その権能は、“公平”を謳い“不公平”を調律する者。
守征二十一柱の一柱、当代の『節制』
「『死神』クン?」




