謝罪
ーー私が“彼”を初めて見たのは、図書館での出来事でした。
「ーーあぁ、手伝おっか?白井さん」
一人で本の整理をしていると、背後から声をかけられて、びくっと肩をすくめながら振り向く。
自分の黒の髪をでこが出るほどバッサリと切って、見慣れた学校の男子の制服。
「ーー■■……君?」
「え、何かタイミング悪かった?」
意外な人物が私の背後にいたから、ちょっと驚いちゃって、なんか変な感じになっちゃったんだよね。
「いや、そうじゃ無くて。愛莉さんとは、帰らなくて良いのかなーって……」
「愛莉か?あー愛莉は、部活があるって言ってたからそっちに行ってて、今は一人なんだよ。暇だったし、それに俺結構、本が好きだからさ図書館に来たのよ」
「んで、白井さんが何か困ってそうな顔をしてたから、声をかけたって感じかな」
「あ……うん。分かったよ。それじゃあ手伝ってくれる?」
「オッケー、分かった」
そう言って静かに手伝ってくれて、その時だけ不思議と時間がゆっくり流れて、少し緊張していたな。
でも二人だと、そんな時間もすぐに終わっちゃったんだよね。
「うん。あとは私の方でやるから、手伝ってくれてありがとう。■■君」
「いいよ。俺も好きでやりたかっただけだし。それじゃあ、あとよろしくね」
「うん。それじゃあ」
何でもない、ある一日の、二十四時間のほんの僅か。それなのに、不思議と心に引っかかっている。
ーーあぁ……これが“走馬灯”なのかな?
「ハルトさん。そっちは何人終わりましたか?」
『あー、大体九人は殺したと思うよ。まぁ何かこの女は、最後に何か言ってたけど。もしかしたら、仲間に連絡したのかもしれねぇし、注意しとけよ』
首から大量の血が地面に流れ落ちていて、それをビチャビチャと血の上を、服が汚れるのも厭わず不遜に歩いて行く。
ゆっくり、ゆっくりと意識が、私の命と共に遠くに行ってる。
「……っぁ、ふっ……」
『ん?まだ息があったのか。んー流石にしぶといな』
痛い。痛い。クラスで唯一の【再生魔術技師】の私が傷を治せず、首を掻き切られて血が溢れてる。
でも、不思議だ……切られた首より、壁に打ち付けられた背中が今は痛いな。
あぁでも。これが報いなのかもしれない。あの時、■■君を長く苦しませろと脅されて、回復魔術をかけ続けた。
『さーて。あんまり苦しめるのも、アレだし。スパッといくか』
多分、バチが当たったんだ。他人を見殺しにしたから。こうなってるんだな……終わるんだ、私。
目の前の人物が誰かは、分からない。でも、言わなくちゃ……
すぐそこに“死”が迫ってーー
「ごめん、ねぇ……」
呆気なく、首が落ちた。
ハルト達の作戦は、驚くほど順調に進んでいた。
『よし。とりあえず最初の方に殺すのは、回復要員だよなぁ。回復役があるってだけでめんどくせぇし』
先ほど切った勇者の首を前に投げ飛ばし、グシャッと不快な音を出して地面に落ちる。
取った首は十や二十では収まらず、衛兵含め五十を超えていた。
『これが首塚ってやつか』
「わざわざ生を遂げた者の首を掻き切り、一つの塊にしてそのような呼び名で呼ぶのか。貴殿の世界は何とも残酷よの」
どうやら長い時間呆けていたのか。いつのまにか隣に人がいた。
金色の髪に僅かに赤のメッシュが入っていて、凛とした顔立ちに首には僅かに鱗があった。
「まったく。死者の首を取ってまで何をするのかと思えば。首で山を作るなど、その者に対する冒涜よ」
『んな事言うなよ。ゲミニ……ほら自分の強さを強調する的な』
「であればこそ、尚の事タチが悪い。己の力を誇示する為に他者を辱める行為に、嫌悪しか抱かんよ」
『あちゃー。共感出来ない感じ?』
「共感と言うのは、他者と価値が似た者にしか使わぬ言葉よ。俺と貴殿には共感も何も無いだろう」
『そりゃそうだね』
ゲミニがハルトに背を向けて、どこかへ歩き出す。その足取りは重く聞こえる。
「ーー別に人を殺す事は、否定はしない。事実人類は他者を貶し、傷つけ、害する事で繁栄している。しかし、貴殿のソレは何の意味も成長も無い……無意で悪趣味な行いよ」
『ハッ……オレの所にまで来て、言いてぇ事はそれだけか?』
「黙れ。狂人にも、盲信にもなれぬ半端者が、 “常人”であろうと足掻く姿は滑稽なものよ。生者と死者の間を彷徨うしか出来ぬ半端者が、いずれ己の力で消え去るだろうよ」
そう言い残して、ゲミニは影に消えた。一人残されたハルトは、五十を積み上げた塚の前でただゲミニが消えた方を、ずっと見続けていた。
己を遮る仮面に付いた、ほんの僅かな血を乱雑に拭って。
ーーどす黒く、前を向いた。
『あぁそうだな、その通りだ。最初っから決まってんだ』




