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「ーー『魔術師』起動」
フラベルの紡いだ言葉を皮切りに、周囲の魔力がフラベルの周りを渦巻くように集まる。ただ集まるだけであれば、ルクト達もそこまで警戒する必要は無いだろう。
しかし、フラベルの周りに集まる魔力の量が、周囲の空間を歪めてしまうほどの過密な量がフラベルに集まっていたのだ。
「ーー逃げるぞ、ルクト」
アランが即座に判断を下し、自身の『宝具』の術式を使ってルクトを抱えて逃走を始める。
「何だい、釣れないじゃ無いか」
『魔術師』とは、この世で一人しか承れる事が出来ない称号と力。ほとんどの魔術技師達が目指す、魔術を扱う者の完成形。
『魔術師』が扱う魔術は、魔術技師の扱える許容量を遥かに超える。
「ーー【原典】『原初の炎蜥蜴』」
「ちょっと!いい加減放しなさいっ!!」
「うるっせ!喋るな!追いつかれるぞ!!」
アランはルクトを左脇に担いで、大剣を前に突き出しながら移動している。
「それに……ルクトお前、魔術が使えねぇんだろ?」
アランがそう言うと、ルクトは悔しそうに顔を顰め、おとなしくなる。
「ーーフラベルって人が、『魔術師』かな?それを起動した時から、ずっと空気中の魔力が言う事を聞いてくれないの……まるで何かに支配されてるように」
「そいつぁ……やべえ奴だな。なら、何で俺の『宝具』は使えるんだ?」
「魔術を扱う時に魔力の流れとして、“体外”に出るか、“体内”で完結するかの二通りあるの。『魔術師』で封じられるのは、“体外”放出した魔力が術式を組めず霧散する……それが、『魔術師』の能力の一端だと思う」
「ーーどちらにしろ、逃げねぇどっ!?」
メキメキと音を鳴らして、アランの体にフラベルの拳が右側の横腹にめり込んで、背中に突き抜ける。
ルクトがフラベルの存在に気が付いたのは、アランの血が背中に生えるように突き抜けたフラベルの手から、こぼれ落ちた時だった。
(追い、つかれて……!)
ルクトが感じたのは、己の体が宙に漂う浮遊感。アランがルクトを投げ飛ばし、フラベルの攻撃範囲から逃したのだ。
「早すぎなんだよっ!!」
アランが大剣を振り上げ、フラベルめがけて下ろす。
ゴウッと剣が吠えて、大地を分つ。しかし、フラベルはそれを避けて、地面に刺さった『宝具』の持ち手を右足で押さえ、アランを蹴り飛ばす。
そしてそこにーーフラベルが置いて来た魔術が、原初の炎を纏った蜥蜴が、アランに直撃した。
「ガチ……か……」
追い討ちとして食らうには、いささか過敏な火力ではあるが、食人族である自分の体に確かな重傷を負わせた。
そして何より驚いたのが、先ほど自分が食らった魔術が、術者であるフラベルより遅れて来た事である。
フラベルは発射した魔術を追い抜いて、アラン達に追い付いたのだ。
「どうしたのかな?……最初の威勢はどこに?」
アランは蹴り飛ばされた事により『宝具』を手放し無手の状態、そして先ほどの魔術によって治しきれていない火傷。その事に僅かに焦りが浮かんでくるが、その思考を捨てフラベルの動きに集中する。
「ーーハッ。良かったよ、アンタがこっちに来てくれて。おかげさまで、他の奴の負担がゴリゴリ減ってく」
「ふふっ、確かにね。おそらく僕は、今君たちの罠にかかっているんだろう。まぁでも……全員殺せば良い話だ」
「ーー化物かよ」
「確かに、自分でも少し認めてるよ」
状況は、依然変わらないままである。しかし、まだ“最悪”にはなってはいない。
(“最悪”は、あのバカがこっちに来る事。そうなる前にこいつから逃げ切る!)
心の中でそう思い、気合を入れ直して構える。
「じゃあ、やろうか」
そう言ったのは良いが、基本アランは無手での近接は苦手である。
この世界では普通の部類に入るが、身近にヤバい人がいるせいで、アランは自身を少し過小評価しているのだ。
もっとも、“少し”では『剣聖』に逆立ちしても勝てはしないが。
それをアラン自身も、理解している。現に『剣聖』と呼ばれる人外に一発として、攻撃を当てられてないのだから。
「ぐあっ……」
もう何度殴られたか、朦朧とする意識の中アランは考えていた。
何度も再生しては潰され。再生しては潰されを繰り返し、幾重にも重なる再生能力の行使によって体力の限界であった。
「結構時間を稼がれたね。大分耐えたじゃ無いか、十分凄いよ。君以上にタフな人は初めてさ」
「お前、『剣聖』って言う肩書きがあんのに、拳でかかってくんじゃねぇよ……」
「ごめんごめん。僕が剣で切ると、被害が大きくなるからね……あんまり使わないようにしてるんだ」
フラベルが笑みを浮かべて、アランに歩み寄りアランの頭を乱雑に掴む。
「ーーまずは一人目だね」
そう言って、フラベルはアランの首に向かって手刀を繰り出した。
このままいけば、アランの首と胴は亡き別れだったはずだ。
そこに、演出家がいなければの話だが。
「ーー【開演】」
ハルトが用意した、“協力者”が『剣聖』に時間を稼ごうと領域を展開する。
ーー場は、上下左右どこを見渡しても“演じる”事を主にした、空間であった。
彼はそこで、楽しそうに足で音を鳴らし、手で音頭を取り、体中から楽しんでいるように踊っていた。
そして踊りを止め、こちらを向いて丁寧にお辞儀をした。
「始めまして、『剣聖』様。僕は魔神七将、“ニ”の座を承らせていただいております。メトゥール・バルセロナと申します」
メトゥールと名乗った男が、フラベルに手を差し伸ばして。
ーーさぁ、僕と一緒に踊ってくれませんか?




