剣聖という名の異常者
『剣聖』が空から落ちて来た暴牛にやられ、斃れる。
ドシャリと音を立て、血が辺りを流れ出して行く。
「ーーほんっと、アランって器用な事をするよねぇ」
「あ?そんな言うほどかよ。つっても、ほんの少し動きを変えるだけだろ?」
大剣を肩に担いで、その男は鼻をほじりながらそう呟く。
「まったく。『宝具』の術式を使って真下に加速して、それを『剣聖』の目の前で今度は横に回転しながら腕だけを斬り落とすとか言う神技を、平然とやらないでくれない?」
「あぁ?神技でも何でもねぇだろ」
「音より速く落ちて来て、下手したら地面のシミになってるかもしれないのよ?」
「まぁ、そんな事になれば再生すりゃ良いだけだろ」
「ーーそれは、敵である僕としてもあまり気分が良いものじゃないね」
アランとルクトは、自身の背後から聞こえた声に反応して振り向くと、斬られた腕を再生しながら立ち上がる、『剣聖』の姿があった。
「ーー部位欠損を治療できるほどの【回復魔術】は、存在しないはずよ?」
ルクトの問いにフラベルは確かにとうなづき、苦笑いしながら答える。
「別に、これが【回復魔術】では無いだけだよ。とても簡単さ。ただ切断した部分に魔力を流し続ければ良い」
こいつは何を言ってるのだと、フラベルを除いた二人は呆気に取られていた。
いや、理解は出来る。体が動けば影がその形を追うように。
魔力もまた、身体を通らないといけないのだから。
「つまり、フラベルさんは食人族みたいな“再生能力”じゃなくて、魔力の通り道を作る為に肉体が、魔力に引っ張られたってことかよ……」
「あぁクソッ。ハルトさんが言ってた事が、ようやく理解出来たぜ……」
アランの脳内で再生されるのは、飛び降りる前にハルトがアランに言った注意事項。
《オレの友人……フラベルって人とは、絶対に戦うな》
「最初は、何かのホラかと思ってたよ!」
アランが大剣を両手で持って、水平に構える。
金牛宮、適合率41%。
十二宮第十位。
彼が持つ大剣型の『宝具』は、『直線行動がただ速くなる』と言うシンプルな能力。
そして、彼自身“食人族”と呼ばれる稀な亜人種族の特性として、高い再生能力を誇っている。
「ルクトぉ!おめぇは下がってろ!!」
一歩。踏み切った衝撃で土が舞い散り、それを置いて行く。
二歩。『剣聖』とはそこまで離れておらず、おおよそ三歩で着くと予想し、思考を置いて行く。
三歩。既に『剣聖』とは、目と鼻の先にいるーー景色を置いて、アランは剣を振った。
「ーーごめんね。もう慣れた」
その一閃は、フラベルの手刀にて体が斜めに切断された。
ハルト達は、上空にてその景色を目の当たりにしていた。
『いつかやるとは思ってたが……ついにフラベル、人間辞めたよ……あいつ』
二回でアレ見切るとかさ、人間業じゃなくね?フラベルがおかしなだけで、アランもあの時音速の手前までいってたのに、切り伏せられた。
『気を付けろよ……そいつはただの“剣士”じゃねぇからな』
ハルトは、自らの体がゆっくりと動き辛くなるのを感じ、それをただ見るしか無かった。
目の前には、倒れそうな体を大剣で必死に支えている青年と全身傷だらけのルクトの姿。
ルクトはもう既に魔力が枯渇寸前であり、全身の裂傷からその戦闘の激しさを物語る。
しかし、より重症なのはアランの方であった。再生能力が無ければ、既に二回は死んだであろうダメージの数々。アランは今にも意識を手放しかけているのにもかかわらず、その目からは闘志は絶えていない。
しかし、それを見るフラベルには目立った外傷は存在していない。
「いゃぁ凄いや、君たち。ちょっと舐めてたよ、うん……その姿に敬意を表そう」
目覚めるは、己の【権能】。この世の全ての魔術に通じる、魔術の祖。
周囲の魔力が、フラベルを中心に可視化される程の密度で集まっていく。
魔力が渦巻き、過度に集まった魔力により空間がひび割れ始める。
圧倒的なまでの“暴力”による、殺戮の権能。
「ーー『魔術師』起動」
この戦争にて、守征二十一柱の一角がその猛威を存分に振るう。




