閉幕
「ーー【再演】」
紡がれた言葉に呼応し、フィールド全てを結界が覆う。
構築される世界は、先程とは違い豪華な装飾や、座席は無く。寄せ集めのガラクタの様な物でできた、オンボロの劇場。
『マジか……』
(二度目まではギリ分かる。けど!三回目の【領域】なんて自殺行為だぞ!?)
カツン
足音が聞こえてくる。明かりが灯らず、ドロドロとした影がさしている舞台の上から。
カツン
また、まただ。革靴の音と言うには、いささか甲高く。おそらく、捨てられていた革靴を改造したのだろう。
カツン
顔に光と影が、同時にかかる。眩しいと思って目を瞑ることも、恐怖を感じて背を向ける事も、彼は久しぶりに穏やかに笑みを浮かべた。
「ーーさぁ、始めよう」
最初に仕掛けたのは、メトゥールが展開した【領域】の効果を警戒していたハルトだった。
メトゥールが出て来たのに、自身の身体や、周りの空間に異常が見られないことを察すると、いの一番にメトゥールの元へ駆けていく。
メトゥールとハルトが目と鼻の距離になった時、メトゥールは焦る様子も無く口を動かした。
「ーー『第一楽章』開始」
ガチャ。と何かがはまる音が劇場にこだまし、唐突に景色が変わる。
ハルトはなんの抵抗も無く、元の場所に戻っていた。
『ーーは?』
口から紡いだ言葉は疑問。自身は先程までメトゥールの目の前にいたはずだと、頭では分かっている。が、メトゥールが何かを言った瞬間、それまでの“過程”が全て無かった事になった感覚。
ーーそして、舞台には二人の影が佇んでいる。
「さぁ、行きましょうか……ねぇ?」
「えぇ!久しぶりだから、上手く出来ないかもしれないけど!!」
少女の様な見た目、赤い髪と、横に伸びた耳。一目見ただけで亜人族だと分かる外見。
『エルフ……か?』
その、何処か見た覚えがある外見にハルトは眉を顰める。
「さぁ始めましょう……『第一楽章』【過去の再演】」
ーー少女が、ハルトに向かって駆ける。
いつのまにか握られていた剣を振りかぶり、ハルトの脳髄めがけて振り下ろす。
その一連の動作に、一切の澱みは無く。まるでその道を極めた剣客の様な動きを、彼女は演じる。
「やぁっ!!」
頭の次は、胴、太もも、足、と次々に流れる様に剣を操る。
その尽くを、ハルトは『魔力糸』を指先から射出し、剣先を弾く事で捌き切る。
そして、ハルトの『魔力糸』に耐え切れず剣が粉々に砕け散る。ホッと、ハルトは僅かに気を緩める。
その直後、ハルトの顔に一本の槍が飛び出す。
慌てて避けるが、避け切れず顔を覆うフードと仮面に僅かに亀裂を入れる。
『あー、そう言う感じね』
(『第一楽章』って事は、最低でも“第二”はあるわけで、“第一”は過去とするなら“第二”は今なのかな?)
槍は止まる事なく、打ち出される。
「はぁっ!!」
剣よりも長いリーチから繰り出される“突き”は、その人外の膂力を持ってハルトの体を食い破りに来る。
それをまた『魔力糸』で絡め取ろうとするが、糸は役割を果たせず霧散する。
『ちゃっかり対策してくんじゃねぇよ!!』
『魔力糸』の唯一の欠点として、物理にはとても強いが、魔力を含んだ攻撃には糸屑の様に千切れてしまう。
彼女が持っている槍は、先程の打ち合いにて既に『魔力糸』の弱点に気づいており、既に魔力を槍に纏わせている。
「やぁっ!!」
『可愛い声でオレを殺しにかかってんじゃねぇぞ!!』
繰り出される連続の突きを、ハルトは曲芸じみた動きでかわし続け、時には結界魔術で防いでいる。
『どうだオラァ!!やってやったぞ!!』
全部の突きをかわしきったハルトは、肩で息をしているが目立った外傷は負ってはいない。
「ーーおや……僕を忘れてちゃ、ダメです
よ?」
直感で、受け身やその後の動き全てをかなぐり捨てて、“今”避ける為に体をしゃがめた自分を褒めて欲しい。
『あっぶねぇっ!!』
しゃがんで、横に『魔力糸』を伸ばして脱出する。が、メトゥールがその手に持っている剣を投げつけて、『魔力糸』を切断する。
「えいっ!!」
オレの回避方向を読んでいたのか、オレが止まった所に槍の次は斧を振り下ろして来た。
メトゥールの方に圧縮した『魔力糸』をビームの様に発射して足止めをし、振り下ろして来た斧を右の手で掴んだ。
バキッと折れた音がしたが、そこは『魔力糸』で補強すればいい。右手で掴んだまま腕を外に開いて、彼女の胴体ががら空きになる。
左手には『魔力糸』を数百本を限界まで捻って一本にしたものが今も捻り、回転を続けている。
(何でかは知らねぇが、彼女の攻撃はオレに効いてる。だからこそここで堕とす!!)
その“捩れ”は、全てを巻き込んで平等に無に帰す。
『『霧喰い』!!』
ゴヴッと空気が振動する。悲鳴も上がらず、削り、捻り、ただそこには喰われた跡が残るのみ。
この技をモロに喰らったのだ、即死とはいかずとも致命の一撃にはなっただろう。下から魔力を帯びた剣が伸びなければ、の話ではあるが。
『なっ!?』
たとえ数百を一にまとめたとして、『魔力糸』である事には変わらず、故にメトゥールは彼女とハルトとの攻撃線上に寸分狂いの無いタイミングで剣を床から出したのだ。
「ははっ。いやー危ないとこでしたよ、実際」
メトゥールがパチパチと、手を叩きながらゆっくりとこちらに歩いて来る。
その表情には僅かな“焦り”が見えている。
『何が危ない所だ。オレの攻撃にバッチリタイミング合わせて来やがったくせに』
「いえいえ、僕と彼女の二人を相手してのこの大立ち回り、“役者”として素直に賞賛してるんですよ」
『本当かよ……ぶっちゃけ、片方の女の子が見るからに技量が上がってるんだけど?どう言う仕組みだよこれ』
「そこはまぁ、秘密という事で。ね?」
『うわぁ……ぶん殴りてぇ』
(やべぇな……アンから貰った魔力があと三割切っちまった)
ハルトは考え、答えを探す。二対一と言う人数不利。そして【魔術技師】としての技量負け。残り少ない魔力……故にハルトが出した答えは。
『短期決戦って事かぁ……』
ハルトの後ろにはもう、彼女が復帰して真ん中にハルト、前にメトゥールと挟み込んだ形になっている。
ハルトはそっと自らの手を心臓部に置く。
『ーー飛ばすゼ。着いてこいよ?』
駆動音が、メトゥール達にまでハッキリと聞こえる程に、大きく稼働する。
【身体強化】と呼ばれる魔術がある。しかし、それを進んで扱おうとする人物は、極端に少ない。
理由は、その制御の難しさにある。常人の生身であれば、心臓の鼓動だけで血管が千切れる程、血流が速くなり、筋肉の動きで骨が潰れることなんぞザラに起きる。
しかし、ハルトはとある理由で、内臓のほとんどが存在しておらず。故に【身体強化】の恩恵のほとんどを危険無く、享受出来る。
ーー壊れる物が無い彼だからこそ扱える、魔術である。
気付くとハルトと目が合っていた。その目は暗く、深く、澱んでいるのに……何処までも澄んでいた。
『ふっ!!』
前にいるメトゥールと、後ろにいる女の子、両方に『魔力糸』を巻き付け、こちらに引っ張る。
外からちまちまとメトゥールの妨害を受けるより、純粋な二対一をしようと、ハルトが行ったのは超近接戦である。
今、彼女の武器は“斧”のまま。オレを切るだけなら問題無いが、容易に振り回せる状況では無く、振り下ろしてもハルトは持ち手の部分で、肝心の刃の部分がメトゥールに直撃してしまう距離。
いざ武器を変えようとするが、ハルトに顎を殴られ、意識を僅かに手放してしまう。
その隙にハルトはメトゥールに飛びかかり、頬、鳩尾、膝と順に殴り、蹴っていく。
“魔力”が絡まない戦闘では、勇者の中では一番の実力があるハルト。魔術による援護も、高火力の武器も“距離”を潰す事で、どちらにも対処している。
彼女が斧を振り上げようとする腕を押さえ、おそらく何らかの再生能力があると踏んで肩の関節を外す。
少しの合間の後、メトゥールが剣を手に取り切り掛かる。
当然の如く魔力を帯びており、『魔力糸』は使えない。
流れる様に切り掛かるその剣を、横から殴り飛ばした。
剣が吹き飛びはしなかったが、軌道が明確にそれてオレの脇を通って行く。その顔面に拳をぶち込む。
後ろから斧が横薙ぎに振るわれるが、魔力を纏わせるのを忘れたのか、通常の斧のまま振るっている。
顔面を殴ったとしても、メトゥールを気絶する事は出来ず、こちらを睨んで来ている。
だから左手から地面に向かって『魔力糸』を発射させ、地中を潜航しオレと彼女の間に入る様に飛び出させる。
ガキンと音を鳴らして、斧はその動きを止める。
二対一の状況で、絞め技、蹴り技は論外。殴って気絶させようとするなら、もう片方が絶対に邪魔に入って来る。
一方に近づき過ぎず、かと言って距離を空けすぎない。そんな絶妙な安牌が、今の戦場に求められている。ハルトはいまいちそこが決められず、そしてメトゥール達はそこに救われていた。
「クソっ……」
(ただただ、上手い。戦闘が、位置取りが達人のそれに近い。よほど努力を積み重ねたものなのでしょう。ここが【領域】で無ければ、負けてたでしょう)
突如、ハルトの上空がありとあらゆる武器達が地面めがけて、落ちて来た。ハルトは結界魔術で落ちて来る武器達を無傷で防いだが、ハルトの顔から更に余裕が消えた。
『やられた……!』
メトゥールが潰したのは“足場”。ハルトとメトゥール達の“距離”が重要となる場所で、その一歩を落とした剣軍で詰めさせないようにする為に。
まず動いたのは、意外にも傍観していた彼女であった。
斧を捨て、両手に剣を持ちハルトに肉薄する。魔力を流している為、『魔力糸』で遠距離からの妨害は無い。
ハルトと距離を詰め、メトゥールを離脱させる算段であったのだが、切り掛かるその時急に視界が上にしか見えなくなった。
『馬鹿がぁ!!』
蹴飛ばされた。そう感じたのは数歩、遅れた後である。何故と考えるが、腕に残る圧迫感とハルトの手から出ている『魔力糸』で答えはすぐに出た。
ーー要するに腕を『魔力糸』で押さえられて、顎を蹴り抜かれたのだ。
時間にして数秒。体感では数時間と、体が動かず地に臥す。
ーーその数秒が、わずかにメトゥールから目を離し、ハルトからもぎ取った時間だった。
「ありがとう……『第二楽章』開始」
立ち位置が変わる。また、あの感覚に入って行く。
ーー第二楽章は“現在”を演じる演目。
出て来るのは自分自身。
ハルトの目の前には、メトゥールと彼女の代わりに、黒で出来たハルトが佇んでいた。
「仕切り直し、ですね」
メトゥールは怪我のほとんどが治っている。おそらく“楽章”が変わる度に、メトゥールのみに対して治癒が施されているのだろう。
ーー最悪、【権能】の使用も視野に入れてはいる。
(あのコピーが、どのタイミングかのオレなのかが、分からねぇ)
すると、メトゥールとハルトが近づいて来る。
メトゥールは両手に剣、ハルトは無手でやって来た。
「さぁ、いきましょう!!」
『ほんっと、叫ばんとダメなんかねぇ!!』
拳と剣、糸と拳が交差する。剣が振るわれ、その軌道を捻じ曲げる。拳を振るって、動きを止める。
先程よりも、目まぐるしく変わる戦況に、ハルト達の集中力は着実に落ちていった。
しかし、ハルトは既に勝ちを確信していた。
『ふっ!!』
今度はハルトを挟み込む形では無く、メトゥールとハルトが並んでいる状態で攻めて来ている。
それをハルトは地面に突き刺さっていた剣を両手に持って、剣賽にて迎え撃つ。
二刀流故の筋力不足を身体強化でカバーし、魔術の強化先を腕と足に集中させる。
メトゥール達の連携を捌く片手間に、地面に突き刺さっている剣を、手に持った剣と『魔力糸』で切っていく。
足場を押さえているのと同時に、蹴り技が満足に扱えない状況を打破する為にハルトは切って行く。
と、その時。ハルトの手から剣がすっぽ抜けた。
それもそのはず。メトゥールとハルト、どちらも魔力、気力と共に限界に近い状態で戦闘を続行している。
だがしかし【領域】がいまだ健在な為、メトゥールの方が有利ではある。
なけなしの魔力で発動した【身体強化】も、残り時間は少ない。
魔力消費が少ない『霧喰い』や『円削』も使う事は出来ない。
一度大きく息を吐いて、構えを取り直す。
仮面はもう所々にヒビが入り、埃や泥で汚れている。ローブに限っては、最初より何割か小さくなっている。
ハルトの拳が、ハルトの顔面に正確に吸い込まれるようにやって来る。
膝を曲げ、魔力を集中させ溜めを作り。あえてその拳は額で受ける。衝撃が頭を揺らし、チカチカと視界が点滅している。
『第二楽章』は、『第一楽章』での戦闘記録を元に、対象そのものを模った人形を産み出す魔術である。故に先程の拳は、本物の拳と大差無い。
しかしハルトにとって、ハルト個人は敵にすらならない。
拳を繰り出したハルトの、ガラ空きとなった懐に少量の魔力を圧縮した“爆弾”を叩き込んだ。
大きく後ろに吹き飛んだハルト。叩き込まれた腹から胸、頭部にまで裂傷が広がっており、致命傷である事は誰の目からにも明らかである。
やがてハルトを模った人形は、その身が粉になり風に溶けていった。
『ーーメトゥール。あんたは一つ間違いを犯した』
埃が舞う舞台の上で、ハルトとメトゥールはお互いを見ている。
メトゥールの体には、切り傷や打撲跡が無数にある。
ハルトは目立った怪我はしていないが、その様子には余裕が無く、己の心臓とも言える魔力は残り少ないと分かる。
「へぇ……それは、何です?」
「お前の【領域】は、一個人が扱うにはあまりにも練度が高すぎた。オレはどうしても空間を隔てる結界が作れなくてな、その点アンタは【領域】の範囲を自由自在に変えれる』
「それが……俺の敗因だって?」
『あぁそうだよ。本当なら、入れなくても良い人間までお前は【領域】で取り込んだ。それが、お前の敗因だ!!』
「何を、言ってるのかさっぱりですねぇ。俺が楽章を更新すれば、この傷も綺麗さっぱり治るんですよ?時間稼ぎに付き合う道理はねぇんだよ」
メトゥールは会話を締めて、【領域】を次の段階に進ませようとする。
ハルトはただそれを黙って見ているだけだった。一人だったら、もう諦めてとっくの昔に負けていたのだろう。でも……
『ーー残念だったなぁ。一人じゃ無いんでねぇ』
腕は肩にぶら下がったまま、スッと右手を開いて手のひらを上に向ける。
ーー確かに握り返してくれた。
『ーー行くぜ。アン!!』
「ーーうん!!」
ーー蠍座の少女は、赤星に謳う。
ハルトは、触れている間のみ、彼女達の体に刻まれた魔術式を行使可能となる。
メトゥールの【領域】の結界を用いて、ハルトとアンは【領域】を展開する。
ーー主役が変わる。
『「ーー【天蠍】」』
舞台が崩れ落ちた。
蠍座の【領域】は、『領域内部にある固形物を、毒に強制変換する』という能力だ。
アン自身の技量が未熟な為、基本ハルトがそばに居ない限り扱う事は難しいものであるが、その【領域】が容赦無く牙を剥く。
初めに異変を感じたのは、“呼吸”からであった。
「ー!?ごふぇ、あがっ!?」
吐き出したのは“血”、それが何か固形物と一緒に口から排出された。
「これは……内っ臓、ですか?」
『ご名答。アンタの体の中身を“毒”に変換したんだよ。もう既に血液の二割近くが毒になってる』
「ははっ……中々に強烈な【領域】っ、ですね。何で、最初から使わなかったんですか?」
『あー、使わなかったって言うより、使えなかったって言った方が正しいな。オレってさ、魔術の才能無いんだよね。『魔力糸』も魔力を体外に放出するやつの延長みたいなもんだし、空間を隔てる結界なんて……夢のまた夢よ』
メトゥールは必死に息をするが、息を吸っているのに苦しいという状態がずっと続いており、頭に酸素が回らず段々と意識が薄れて行くのが分かる。
「ーー結局……なーんにも……」
できなかったなぁ
でも……
「楽しかった、ですよ」
ボロボロと、結界がその役目を終え崩れて行く。
光が差し込み、地に臥すのが一人。勝者の二人は、互いの存在を確かめるように手を、強く握っている。
地面に落ちたシルクハット。泥で汚れているそれを、泥を払わずハルトは頭に深く被る。
そして、僅かに微笑んで。
『ーーこれにて終幕。ご視聴、ありがとうございました』
そう言ってハルトは、ゆっくりと頭を下げた。
同時刻、某所にて。
ハルトの部下、十二人のうちある程度の目安として、“順位”が建てられている。
『宝具』への適合率の高い順からとなっており、最下位はマイナスを記録している。
ガシャン
最下位から五位までは、『宝具』への適合率はおおよそ五十から六十であるが、四位から上は七十を大きく超える。
しかし、現存している『宝具』は全部で十一個のみ。
『宝具』は個人専用として作成された物であり、使用者本人、または使用者の遺伝子を持つ者でなければその力を振るう事は出来ない。そして、絶対に壊れることは無い。
ガシャン
そして今、ハルトの部下の中で一番の適合率を誇る逸材が、十字架を自分の手に突き刺した。
「ーー証明せよ」
ガシャン
突き刺した十字架が、血を吸い上げ“赫”になり、その形が歪んでいく。
ガシャン
「ーー【六罰】」
ガシャン
「第三罰、【鉄管廻る絞首の縄】」
然るべき罪人には、然るべき罰を。
目の前の罪人が逃げる。“罰”から逃げて行く。しかし、もう既に告げられたのだから、自らが負うべき“罰”を受けなければ。
足がもつれ、不恰好に地面に転がる。逃げようと、逃げようと、足を、手をバタバタと動かすが、ついに“罰”が罪人に追いつく。
「ーー!!?」
何かを叫び、喚いているが、既に執行は為されている。
縄が首に巻き付き、ゆっくりと命を締め上げて行く。
縄を外そうと手をかけ、引っ掻き回す。千切れないかと、千切れてくれと、千切れろと、そう願って掻き回す。爪が剥がれようが、涎が垂れようが、糞尿を漏らそうが、“生”にしがみ付こうともがき続ける。
だがもう既に、手遅れだった。
罪人が物言わぬ遺体と成り果て、それを冷えた目で見る青年が一人。
「ーーお前は直近四年間で、五人の少女を暴行を加えた上で殺害している。良かったな……“三”で済んで」
縄が役目を終え、元の十字架に戻って行く。
遺体を背に、青年は歩き出した。
ーー魔神七将、“七将”直属《十二宮》第一位。
『天秤宮』適合率『測定不能』。
エル・カマリ。
「もう直ぐ……か」
“戦争”がーー始まる。




