第9話 女性たちの転生の裏側と相園の暴走
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翌日、女性だけを集めた異世界転生の説明となった。
女性たちは女性たちで、男性とは随分違う感じが漂っている。
しかも、求める転生が幅広い。
なぜだろうか?
「モブでもいいから堅実に幸せになりたいですね」
「えー? 私は華やかなのがいいわ。乙女ゲーの世界なんて憧れるし」
「私は聖女になって世界を救ってチヤホヤされたいわ!」
「アタシは悪役令嬢になってザマァしたいわね」
なんて言葉がどんどん飛び出してくる。
小さな笑い声が重なる中、相園だけがムスッとした顔をしていた。
そんな彼女達に淡々と、「三つの願いを叶える代わりに、ペナルティがある」という事実を伝える田中さんに、女性陣は不満げな声を上げたが――。
「確かにうまい話なんて、そう無いか」
「でも、ペナルティを打ち消す方法なんてある訳ないし」
「ペナルティで地獄に落ちるなんて馬鹿はしたくないものねー」
「一回死んでるんだから、慎重にもなるわよね~」
――と、女性陣は結構しっかりした未来を持って転生を望むようだった。
ほっと俺も安堵しつつ、書類をまとめ上げていく。
「……意外と、現実的な人が多いんだな」
「そりゃそうよ。二度目の人生だもの」
神田と短く会話しながら様子を見ている。
しかし……。
「アタシ、異世界に行くのはまだ先でいいわ」
そう声を上げたのは言うまでもなく……相園だった。
直ぐに異世界に旅立ってくれたら良いものを……と思ったのは言うまでもなく。
ただ、どうして異世界に行くのはまだ先でいいのだろうか?
「相園さん。なぜ、異世界に行くのはまだ先でいいと?」
「だって、そこの連中二人を地獄に落としてないもの」
そう言って俺と神田を指さした。
地獄に落とすって……言われてもな。
俺達は死んでこの異世界転生審査課に来ているわけだし、地獄に落とされるなら、とっくに落とされていても不思議ではない。
それなのに相園は腕を組んで、悪役のように微笑んだ。
「アタシの心残りは、その二人がちゃんと報いを受けてないことよ」
「そうですか」
「だから、その二人が地獄に落ちたら、転生してあげる。優しいでしょ?」
周囲の女性たちが、一瞬だけ言葉を失った。
「きっつ――い地獄に落としてくれたら、喜んで転生するわよ」
「理解しました」
「で、いつ地獄に落としてくれるの?」
「そうですね。まず、貴女が地獄に落ちることへなりますが、宜しいですか?」
「は?」
さもありなん……というか、それを考えなかったんだろうか?
俺達は一応『異世界転生審査課』で働く職員。
その職員を地獄に落とせと言っているのだから、ペナルティはとんでもなく大きい。
それは坂本さんから事前に聞いていた情報だが、たまに誰かの不幸を見てからじゃないと転生をしたがらない者に対する処置だと聞いていた。
その場合、求めた者にはそれ相応の罰が課せられるそうだ。
「職員を地獄に落としたい……という愚かな考えを持つ人は、少なからずいるんです。こちらは予防策として、そういった発言をした者には『異世界転生の許可を白紙』という義務があります」
「白紙……白紙ですって!?」
立ち上がった拍子に、相園の座っていた椅子は倒れ、彼女は素早い動きで田中さんの前に行くと、ドンと机を叩き威嚇した。
しかし、その程度で動く田中さんでもなく……冷たい眼差しで相園を見ている。
相園は今にも田中さんを殴りかかりそうな雰囲気で、谷崎さんが警戒を強めた。
「このアタシが、異世界行きを白紙ですって!?」
「職員を地獄に……というのでしたら、白紙ですが、なにか?」
「くっ」
「無論、白紙になれば貴女は再度査定され、行き着く場所に流れ出るでしょう。その先がどんなところかは……想像に固くありませんが」
「ふざけんじゃないわよ!」
「では、職員を地獄に落とす……というのは撤回でいいですね?」
「ッチ!!」
盛大に舌打ちする相園。
だが、目は俺達を見つめていて、忌々しいとでも言いたげだ。
けれど、直ぐにニヤリと笑みを浮かべると――。
「なら、仮職員の中島は……仮職員だから別にいいのよね?」
「というと?」
「別に地獄へ落とせとは言わないわ。中島と一緒に転生する」
「「は?」」
「中島、アンタはアタシの為に転生するのよ。生まれてからすぐアタシのために尽くしなさい。地べたを這いつくばって、常にアタシに媚びるのよ。アタシを怒らせたら、生きているのが辛い目に合わせてやるわ」
「なっ」
「それなら、転生してあげる。どう?」
「それも、申し訳ないですがペナルティ案件ですね」
「何でもかんでもペナルティ、ペナルティ!! うぜーんだよババァ!!」
そう言うや否や、相園は田中さんが持っていたファイルを奪い、彼女に叩きつけた。
舞う書類……。俺は直ぐに田中さんに駆け寄り――。
「大丈夫ですか、田中さん!」
「おい、クソガキ。職員への暴行は許されない行為だぞ。テメーは死んでんだから、こっちのルールに合わせるのが筋だろうが!」
「決めつけないで!! アタシのルールはアタシが決めるの! 今さら変えろって言うの!? アタシの言う事を聞けないやつなんて、全員死ねばいいのよ!」
「――では、死にますか?」
支離滅裂に怒鳴り上げる相園。
淡々と口にしたのは……坂本さんだった。
騒ぎを聞きつけ、部屋に駆けつけてきたようだ。
「貴女のような人をね。〝特別対応部署〟があるんですよ」
「特別……え? 部署?」
「ええ。強制処遇に移行し、転生と輪廻も停止する方法があります。そちらなら直ぐに用意しましょう」
「い、嫌よ。何を言って……」
「これは〝罰〟ではなく〝処遇〟です。こちらの世界では、私達がルールです。ルールを破るというのなら、それ相応の覚悟でやってもらわねば困りますね?」
その言葉に、相園の笑みが一瞬だけ引きつった。
なぜなら坂本さんは――目が笑ってない。
坂本さんは本気で相園に怒り、そして淡々と語っているのだ。
その目は数々の人生を生き延びてきたからこそ感じる凄みがあって……背筋に冷たいものが走るほどの恐怖を感じた。
そして女性陣は空気が凍りつき――誰も息ができなかった。
「【異世界転生警備課】の方々を呼ぶなら、俺が行ってきますよ」
「ええ。彼女はそちらをお望みのようですし」
「望んでない!! 何よ、私を悪者にして楽しいわけ!?」
「アンタ、素で悪役出来るクズで良かったな。規定通りに拘束されるだけだ」
「ふざけないでよ!! ちょっと中島も、なんか言いなさいよ!」
「俺は職員側だからね。言うことはないよ」
「はぁ!?」
「君と一緒に転生するなんて、冗談でも無理だ。それだけは言っておく」
「な……なっ」
そう言われるとは思わなかったのだろう。
俺がきっぱりと返事を返すと、相園は顔を真っ赤にしながら怒りに震えている。
最早彼女に、これ以上何かを言う権利はなかった。
「警備課行きがいいか、発言の撤回か」
「く……撤回するわよ」
「じゃあ、馬鹿でも出来んだろ? 謝罪しような?」
「――しないわよ!!」
そう叫ぶと、相園は扉を開けて外へ出ていった。
あとに残された女性たちは呆然とするのみ……。
誰も、相園を追おうとはしなかった。
田中さんは淡々と紙を拾いながら、記録に『暴行』と打ち込んだ。
そして坂本さんは静かに告げた。
「本日の件は記録します。次は撤回では済みません」
(そうなるよな……。あれがハズレ……と呼ばれる人間の動きなんだな)
なんというか、異世界もので言うなら、転生した悪役令嬢にザマァされるヒロイン側っていうか……。
でも、相園がヒロイン側だったら、面倒だろうなぁ。
「神田、お前は大丈夫か?」
「ええ。私のことは眼中にないみたい」
「俺がターゲットか……」
「でも、職員という肩書が貴方を守るから安心して」
「ああ、そう願っておくよ」
――それから数日後、相園は再度の呼び出しにも答えず、部屋に閉じこもったそうだ。
まだ転生には時間があるとは言え、次に騒ぎを起こしたらどうなるか。
とりあえず、俺と神田も様子を見守ることにして、身を守る事にしたのだった。
(自分がルールだと、今もきっと思っているだろう。自衛はしないとな……)
いつの間にか、線を引く側に立っている自分がいた。
願わくば、もう問題を起こさず転生していって貰いたいけれど……。
そう願いつつも、俺と神田は互いに【相園対策】と称し、自衛しながら過ごしていくことになる――。




