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異世界転生審査課 ―死後の市役所で、仮職員になりました―  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)


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8/12

第8話 疲労と心労と、迷いのない転生と

随分とお待たせしました。

 次の日、俺は異世界転生課に一番早く来ると、謝罪とお礼を伝えた。

 自分自身が死というものを軽く受け止めていたのかも知れないし、きっとまだ自覚が無かったんだと思う。

 それはとても、自分の命というものに対して失礼なことだと理解したんだ。


 次に訪れた田中さんは、吹っ切れた様子の俺に少しだけ微笑むと、「仕事のミスは許されませんよ」と言って、今日審査する方々の書類を手渡した。

 ミスは許されない――。

 それは、第二の人生に向かうための手伝いをしているのだから、絶対にミスは出来ないのだと、今なら強く理解できる。

 だからこそ俺は、苦手な死因についても事細かに読み、転生する予定の書類をしっかりと読み込んだ。


 谷崎さんと栗崎が一緒に来ると、俺の様子を見て笑い、そして今の俺を受け止めてくれる二人の優しさに、ホッと息が吐けた。

 ――正直言うと、皆の死因は良く解らない。

 ……それを聞くような野暮な真似だってしない。

 この市役所で働く職員は、全員死者であることは理解しているし、それを一々聞いて回っていれば、それは許されない行為だと思う。


 そして――最後に神田がやってきた。

 俺がいることに驚いた様子ではあったけれど、駆け寄ってくると深々と頭を下げてきたので、彼女の頭を昔のように優しく叩いた。

 それは……俺が神田に対し『もう怒ってないよ』と伝えるときの、いつもの行動だった。


「色々吹っ切ることが出来たよ。神田のことだって怒ってない。寧ろ、ここで神田とまた出会えたことに、何か意味があるんだって思ってる。だから、顔を上げて」

「中島君……」

「きっと俺がここに来た理由は、この場所で皆と一緒にいる理由は、意味があるんだよ」

「そうだね……私も中島君が未練無くできるように、お手伝いするよ」

「ああ、よろしく頼むな」


 互いに握手し合い、やっと神田の笑顔を見ることが出来た。

 確かに神田は変わった子だったけれど、それは彼女の一つの個性だと理解していたし、それを否定する事は絶対にしない。

 人の個性を否定することは、自分を否定するのと同義だ。

 けれど、社会に出れば、人の個性は無価値になる。

 それこそ、特殊な職業にでもつかない限りは……。


 ――しかし。


 この異世界転生課では、そんな余裕が生まれるかと言えば、それは結構難しい事だという事実に直面する。


 ◆◆◆◆


「だからさー? 俺ツエーしたいわけよ? 余裕持って仕方なく世界を救うしか無いな~みたいな?」

「なるほど」

「で、特殊なスキルとか持っていてさ。それを隠しながら目立ちたいの。解る?」

「相反する内容ですね。中々難しいです」

「いやいや、できるっしょ? そもそも第二の人生に挑もうっていうのに三つしか願いを叶えられないとか、けち臭い事言わないでさ~? 大盤振る舞いくらいしても当たらなくね?」

「規定によって、そのようなことは不可能となっております。ご理解の程、よろしくお願いします」

「だからさ――!」


 今日も今日とて、そんな異世界転生希望者がやってくる。

 俺ツエーがしたい。

 世界に役立つスキル持ちなのに、ひっそりと力を使いつつ目立ちたくは無い。

 余裕を持って魔物に対峙して、余裕綽々で倒したい。

 あわよくば、かわいい女の子達とハーレム。


 この手の話は、否応にも何度となく聞いた言葉だ。


 男性ならば、物語の主人公を演じてみたいのは良く解る。

 モブに成り下がるなんて、ハズレを引くようなものだろう。

 だが実際に異世界転生した上で、平和に、そして幸せに暮らしていける転生者は、後者を選ぶ。

 前者を選ぶ転生者は、早々にお亡くなりになるパターンが多いのだそうだ。


「取りあえず! 世界最強のギフト?っていうのかな? スキル持っていて、尚且つ日陰にいつつも目立たず人々の役に立って、んでもって、かわいい子沢山のハーレムを築く。妥協できるのはそこまで」

「解りました。そのように転生するべく進みますが、ペナルティに関してのご説明は必要でしょうか?」

「いらねぇ。そもそも異世界転生したら最強で最高だろう? ペナルティなんてクソにもならないっての」


 田中さんのペン先が、カツ、と机を叩いた。

 その一言を最後に、彼は異世界転生の扉を潜り、第二の人生を歩むことになった。

 疲労と心労……大抵の異世界転生者が選ぶ道というのは、さっきの男性のような第二の人生を歩みたがる。


「……モブでも良いから、平和に、幸せに暮らしたいって思わないのが不思議だよな」


 ――ふと呟いた言葉。

 人生設計盛りの人生を歩んだところで、ペナルティの大きさを考えれば、マイナスの面が明らかに大きすぎる。

 それでもなおロマンを追い求めるのは、ある意味称賛するけれど。

 その反面、馬鹿らしさを感じずにはいられなかった。


「現実世界に疲れたから、現実世界で爪弾きにされたから、欲望に忠実なんでしょ」

「あまり良い人生を歩んでいなかったってことか」

「そりゃそうでしょう。押さえつけられ、求めるものにはほど遠く、それを語り合える友人すらもいない孤独。そんな人間にこそ多い傾向にも見えるわ。そうしないと、前世の惨めな自分が更に惨めに見えるんでしょうね。中々に滑稽だわ」


 にこやかな笑顔で言ってのけた神田に溜息を吐くと、確かに前世では陰キャであればあるほど、はっちゃける場所が欲しかったのかも知れないとさえ思う。


 ――人生に不自由はしていない。

 ――ただ、刺激というものは足りない日々。

 その中で降って湧いた異世界転生への道――……。


「せめて、転生前に前世のことを整理するとか、そういう期間って考えないものなのかな」

「必要ないでしょ。未練が無いのならね」


 淡々と語る神田に俺は異世界への扉を見つめ溜息を吐くと、今日一日分の転生者への書類をまとめ、棚に整理した。

 ――過去に未練が無いままの気ままな転生。

 聞こえは良いけれど、それには超えなくてはならないペナルティが存在してることを無視している異世界転生者が多すぎる。


 かろうじて、女性の転生者に関しては冷静にその辺りを見据えて話を進めることは出来た。

 女一人での異世界転生は、リスクが高い事を理解しているのだろう。

 ただし。


 女性転生者に多い一つの特徴として、自分の異世界の家族。

 自分の異世界の生い立ちに対し、ある一定の家のランク、家族のランクというものが存在する。


 流行の悪役令嬢とて、公爵家だのと良いところの家だ。

 聖女ともなれば、シンデレラストーリー。

 そういう、自分へのステータスを絶対に求める女性は多いことが、女性転生者の特徴でもあった。


 野性的な男性とは違い、守られた場所からのスタート。

 男女の違いが明らかに出るのは、ここだろう。


 保守的なスタートをした場合の異世界転生では、それなりに平穏な日々を送ることが可能なことも多い。

 無論、望むものにもよるが……。


「保守的な女性の考えは仕方ないわよ。元々女性とは妾だろうと愛人だろうと、自分の家庭や自分を支えるだけの財力を持っている男性に惹かれるものだもの」

「そういうものなのか?」


 何かのメモを取りながら、神田が楽しそうに笑う。

 女性だからこその考えだろうか?

 でも、生活を最も大事にする女性からすれば、妥当なことなのかも知れない。


「かたや男性は、古女房より、若くて自分の子を産んでくれる女性を選びたがる。なんら可笑しいことは無いわ? 大昔から脈々と受け継がれた生きる術ですもの」

「そこまでドライな考えだと、俺もなんとなくモヤモヤはするけど、そうなのかな? って思い始めたよ。特に異世界転生課で働き始めてさ」

「男はより良い若い女性と子孫を残す事が本能的な使命。女はそんな自分たちを飢えさせず、必要最低限の生活の安定があってこそ。……もちろん例外はあるわ。例外のほうが、観察は面白いもの。この異世界転生審査課で働き始めて、その辺りの脳の構築を考えると楽しくて仕方無いわ」

「神田らしい……けど」


 思わず遠い目をして神田を見る。

 胸の奥が、ほんの少しだけざらついた。

 それでも神田は、いつも通り楽しそうで――俺は笑うしかなかった。

 彼女らしい考えだが、少々古臭くも感じたし、思考が偏っているようにも感じる。


「トゲがある? ふふふ。だって色々見て思ったでしょ?」


 思わず苦笑いが零れた。

 だが、俺は一つだけ気に掛かる事がある。


 この市役所にいる『ハズレ』と呼ばれる相園たちを含める人間達は、何を思ってこの市役所で暇を持て余しているのだろうか。

 いつ、俺や神田に対して暴力が振るわれるかも解らない危険を冒してまで、ここで生活することは、精神的にも宜しくは無い。

 せめて、あの相園を異世界転生させて、神田への危険を減らした上で将来を考えたいのだけれど……。


「そう言えば神田。お前は相園に会ったっか?」

「会ったよ?」

「え。いつ!?」

「私が仕事始まりの時かな。相園、ずっとイライラしたまま、中庭のベンチに腰掛けてるの。その内動きでもありそうだけれどね」


「楽しみだな~」という言葉が続きそうな神田に頭を抱えると、坂本さんに呼ばれ、その日の仕事は終了することになった。

 明日は女性を中心とした異世界転生へのヒアリングらしく、受け取った書類には相園の名前もあった。


「厄介ごとって、必ずついてきますよね」

「相園さんですか。ご安心ください。私が相手をしましょう」

「田中さん。お願いします」


 こうして、書類を手にワンルームへと帰ると、重いため息を吐き、静かにベッドに倒れ込んだ……。


「一体どんな異世界にいきたいやら……興味半分、どうでもいい半分だなぁ」


(ハズレと呼ばれる人たちを欲しがる神様か……)


 その神様達は、なぜハズレを欲しがるのかは理解出来ないけれど。

 もしかしたら意味がある事なのかもしれない。

 理由はまだわからないにせよ――。

 明日の仕事を考えると、胃に鉛がのしかかるような重さを感じてため息を吐いた。

 まだ何も起きていない。

 それなのに胃の奥だけが、先に「嫌な予感」を掴んで離さなかった。

応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い観点のお話しですね。練った話しなので作品になるまで時間かかりそうですね。 [一言] 完結に行きつきますかね?このお話しは年齢により、練り上げ方が変わりそうな内容ですかね。じっくりと仕…
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