表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生審査課 ―死後の市役所で、仮職員になりました―  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

第10話 皆さんの優しさが心に染みて……思いがけない人の転生を手伝う

 相園の一件から、栗崎を始めとして皆さんが警戒してくれるようになった。

 特に面倒見のいい谷崎さんは、ピリピリしているくらいだ。


「地獄地獄うっせーわ!」

「メグミちゃん落ち着いて」

「そうよメグミちゃん。結果として暴行の記録は取れたんだから」

「すみません、田中さん。俺のせいで殴られて……痛くは」

「死んでるんですから、痛くないですよ」

「……でしたね」


 つい、生きている頃の感覚でいる自分が、少しこの場では恥ずかしい。

 けれど田中さんはフッと、初めて優しく笑い、俺の頭を撫でると、眼鏡をクイッと上げてから顔をそらした。


「でも、生きている人間のように扱われるのは……少々心地の良いものですね」

「田中さん……」

「さ、仕事を始めましょう」


 いつもの田中さんらしく、キリッとした顔を整え、ヒールを鳴らして歩き始める。

 今日も今日とて、異世界転生の方々が来ているのだ。

 俺も心を入れ替えないと……。


 大きく深呼吸してドアを開けて中に入ると、そこには見知った顔がいた。

 ――相園と仲の良かった、梅津だ。


「え……? あ、え?」

「梅津……? なんで」

「お知り合いですか?」

「あ、はい」

「そうですね」

「彼女の死因については、各自書類に目を通すように」


 田中さんの言葉に席について書類を見ると……殺害と書いてあった。

 えっ!? 殺害!?

 思わず梅津を見ると、居心地の悪そうに座っているのが見える。

 一体何がどうして殺害なんてされたんだろうか……。

 通り魔という可能性もある。

 それだけで片付けていい話じゃない気もしたが――。


 それでも、淡々と田中さんが説明して、異世界転生の話とペナルティの話をしていき、梅津はしばらく悩んだ様子で言葉を出さなかった。

 周囲が和気あいあいとする中、梅津が発した言葉はというと――。


「あの――」

「何でしょうか?」

「異世界転生……とか? そういうのって、いわゆる悪役令嬢に転生してとか、そういうのですか?」

「そういった、所謂そういった世界へ行けますよ、というご案内です」

「なら私、平民でいいので、普通の生活がしたいんですが」

「平民ですか?」


 思わぬ提案に俺達は驚いた。

 相園と仲の良かった彼女なら、もっと派手な人生を送りたがると思ったんだが……。


「ちょっと、前の人生で……人間関係に疲れちゃって」

「それで?」

「きらびやかな世界でも、派閥争いとか苛烈なんでしょ? 私はもう派閥とか、上下関係とか、そういうのは要らないなって思って」

「……そうですか」

「あの……その……今更謝罪しても遅いけど。中島くんと神田さんには、死んでも償えきれないほどのことをしたのに……転生……で幸せになって……いいのかな」


 語尾が段々消えていく梅津。

 先の発言を聞くに、相園達とつるんでいた事や、学校の派閥だの、そういうのに疲れ果てたかのような発言だった。


 すると、神田は淡々とだが梅津に話しかける。


「私は既にこの市役所での職員です。職員の言葉で言えばですが……さっさと転生して頂けた方が、仕事が捗って助かります」

「う……」

「無様に残られると、後で書類だなんだと手間が掛かるんですよねぇ……。誰とは言いません。相園さんとかね」

「え。相園もここにいるの?」

「「いますよ」」

「げ……最悪……。あの、転生したいので、プランを練ってもらっていいですか?」

「畏まりました」


 梅津はあんなに相園と仲が良かったのに……。

 上辺だけ仲が良かったタイプなのかも知れないな。

 だとしても、人を陥れたり、人を悪く言ったりは許せないが――……そんな考えが、ふと頭をよぎってしまった。

 理由を探したくなる自分が、そこにいた。

 ……そんなふうに結びつけたくなる自分が、少し怖かった。


 正直、インパクトのありすぎる死因だった。

 とても口には出せないが……。


 その間、田中さんと梅津は転生するために、ギリギリのペナルティを受けながらも、平凡で幸せな平民として生きるという道を選んだ。

 そしてその日のうちに彼女は転生していった。

 最早この世界に――いや、元の世界に未練などないとばかりに。

 ――違うな。

 元の世界に恐怖を残して……転生して行ったんだろう。


「殺害……か」

「理由が書いてないわ」

「書けない理由でもあったんですか?」


 そう俺が問いかけると、坂本さんが口を開いた。


「書けない理由はないですよ。……通り魔殺人に遭ったようです」

「通り魔……」

「犯人は捕まっていないようですが」

「現実世界は物騒になったのね……」

「何が起きるかわからない。だから未練なんて残さないように生きないと駄目なのよ?」


 俺達がしんみりしていると、栗崎がずいっと近づいて来て口にする。

 確かに、今の時代、何が起きるかわからない世界なのかも……しれないな。

 いや、もう俺達死後だけどね。


「生きてるうちに、それは知りたかったな」

「知っていても、霞みかかった状態でしか受け入れられない言葉だったかもよ?」

「確かに、それは言えてるかも」

「ぶ――。あなた達、もっと自分の人生を楽しまないと駄目だったのに……本当もったいない!」

「あはは……」

「返す言葉もありません」

「その分、今を楽しんでるなら別に構わないわ。私もあなた達と仕事するの楽しいもの!」


 天真爛漫な様子で語る栗崎さんの言葉に、俺と神田は顔を見合わせて微笑み合うと、今度は谷崎さんから大きな手で頭を強く撫でられた。


「確かに素直な後輩ってのは……可愛いわな」

「だよねー!」

「確かに、中島君と神田さんはいい後輩だと思っていますよ」

「皆さん……」

「ありがとうございます」


 ――なにはともあれ。

 梅津は転生していって、相園とは会うことなく次の人生へと向かった。

 これはきっと、運が良かったんだろう。

 もし会っていたら、相園は梅津を都合よく使っていた可能性が高いしな。


 ……本当に運が良かった。


 無論、俺にしたことや神田にしたことを許せるかと問われたら、許せないけれど。

 でも、職員としては――早く転生して貰ったほうが助かるのは事実だ。

 感情を切り離し、一歩引いて物事を見られるようになったのは……皮肉にも相園のお陰だな。


「よし、明日の仕事も頑張ろう」

「明日は休みよ」

「え? 市役所に休みは……あるか」

「一応ね。明日付き合ってくれない?」

「どこへ?」

「適当に」

「分かった」


 こうして、待ち合わせは市役所内の待合室と決めた俺達は、明日二人で何気ない会話をするのだろう。

 まだ俺が死んで一週間と少しばかり。

 三ヶ月までに自分の今後の人生を決めないといけないけれど――。

 まずは……俺も落ち着きたい。

 そのための一日にしよう。

 そう――心に決めたのだった。

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ