第31話 魂IDの改竄問題②
――坂本Side――
魂ID改竄問題。
これは部署内でも大きな問題となりました。
どこのチームの誰が行ったのか、明確にしなくてはならない。
そのため、うちのチームから谷崎さんと中野さんを出していることを告げると――。
「確かに坂本チームはこの手の仕事が早いからなぁ」
「でも、毎回坂本チームに手柄を持って行かれるのは癪ですな」
「ははは、では、お宅がこの案件を持ちますか?」
笑顔でそう告げれば相手は押し黙る。
チームの一番上の上司によって、働いている者たちの質が変わってくる。
それを分かっていての発言だろうが、下手なことは言わないに越したことはない。
「さて、この魂IDの改竄と三つの願いを削除した犯人ですが、〝神の査定〟を受けさせる方向で間違いはありませんね?」
「致し方ないだろう」
「また一人……消えるな」
誰かがぼそりと呟いた。
神の査定とは――。
神々の間にて罪を暴かれ、罪を暴かれた職員は、その場で消される。
そのため、〝唯一の職員の死〟と言われている。
これまでにも、何人かが神の査定にかけられている。
彼らは塵と化して転生することも地獄に堕ちることもない。
いわば――〝無〟なる存在になる。
それが救いなのかどうかは、誰にも分からない。
そんな危険を犯してまで行った今回の『魂ID改竄事件』は、罪がとても重い。
「今、各所の手が空いている職員は、件の魂のファイルを探しているところです」
「膨大な数がありますからね……」
「何万冊あると思ってるんだ……」
「でも、急がねば魂が消えるのは確実。職員には必死に探してもらわねば」
「ですがこれもありますよ? ……犯人が内部犯。そのファイルを隠し持っている可能性も視野に入れるべきでは?」
私の言葉に、全員が渋い顔をした。
ファイルは職員が棚に戻すようなっている。
無論勝手な持ち出しは規則違反。
罰を受けることになっている。
この市役所では、懲戒免職なんてものはない。
あるのは職員の死のみだ。
ゆえに――冷たい。
「ネームプレート……か?」
「ええ、ネームプレートが赤い職員を探すしかないでしょうね」
全ての行動を記憶しているネームプレートは、職員が罪を犯した場合、白から赤に変わる。
赤いネームプレートは目立つ。
しかし、本人には気づかない。
なぜなら、本人には普通の白いネームプレートにしか見えないからだ。
それもまた、規則であり、罪人を逃さない為の市役所の規定でもあった。
魂IDを弄ったのであれば、痕跡は残る。
谷崎さんと中野さんなら間違いなくその痕跡を見つけるだろう。
問題は、魂がそこまで持つか否か――。
あまりにも時間が少なすぎるが、彼らに託す他ない。
「また……市役所内に居る、異世界転生反対派閥の……ですかね」
「恐らく」
「実に下らん。職員になった際契約したはずだ。異世界転生反対ならばサインするはずがない!」
「では、今回のこの『魂ID改竄事件』はどう捉えますかな? 泉さん」
「それは……単なる遊びだろう。刺激が足りなかったんだ」
「刺激が足りない……で、魂IDを改竄して三つの願いも無効にしてもいいと?」
「むぐぐ……。そんなのはやったやつに聞け!」
この泉という男のチームは既に五人の神の査定に掛かっている。
可能性があるとしたら……この男のいるチームなんだがな。
「何だお前ら、その目は!! うちから過去五人でたからって!!」
「今回も、お宅ではないことを祈りたいですな」
「全くですね」
同意する者たちが多い中、泉は顔を真っ赤に染めつつ机をばんばん叩いた。
威圧のつもりか、威嚇のつもりか。
誰もそれに驚いたりすることもない。
「魂IDの改竄は許され難い罪です。今回はチームリーダーも神の査定を受けてもらう」
「それが良いな……」
「死ぬ……までは行かないだろうが、神々の前で懺悔するくらいはしたほうが良い」
「ふざけるな!! たかだか人間一人の魂IDぐらいで!」
「……おや? 何かしらご存知ですか?」
「知らん、知らん! しらん!!」
何度もそう叫ぶと、泉は部屋から物音を立てて強い力で扉を閉めて出ていった。
それを冷ややかな目で見つめるのは……残ったチームリーダーたちだ。
「今回も泉のところでしょうな」
「可能性があるとすれば……ですが」
「だが、泉のところのファイルは毎回汚くて時間が掛かる」
「上からも文句が結構来ているようですよ」
「ああ、そろそろ上も黙っていないでしょうな」
「来たるべき日が近づいている……というだけでしょう。問題は『魂ID改竄事件』です。防ぎようのない事件なのかどうか、今一度話し合いをしましょう」
「煩く口を挟む者もいませんからな」
――こうして、泉を他所に我々は話し合う。
異世界へ送る際には、職員が装置を使い転生させる。
その際に、魂を弄る隙が生まれるのだろう。
今後は二人体制で装置を使う事を義務付けることにし、それを破ればペナルティ。
それを徹底することが大事だと話し合った。
問題は……名前プレートの赤い職員が早く見つかるかどうか。
谷崎さんと中野さんが異世界安置所に向かって既に三日。
そろそろ魂の限界だろう。
谷崎さんからの情報では、IDを弄った跡を見つけたという報告は受けている。
そろそろこちらにも動きがあるはずだ。
広い異世界転生審査課で、泉の罵声と雄たけびが響かないことを多少なりとも祈りつつ、私たちは会議室を後にした。
自分のチームの部署に戻ると、内線電話が繋がっていて、田中さんが何やら話をしているところに出くわした。
「そうですか。いえ、無事に見つけられたのでしたら良かったです。ですが……そうですか……。無念でしたね」
――魂IDの者が死んだのだろう。
薄くだが、中野さんの泣き声が聞こえてくる。
受話器を置き、田中さんが立ち上がり私に頭を下げると――。
「見つかったそうです。でも、同時に魂もまた……」
「そうでしたか……栗崎さん、田中さん、神田さん。直ぐに名前プレートの赤い者を探し出しなさい。今日の業務はそれです」
「「「はい!」」」
「とは言っても、直ぐに見つかるでしょうが、栗崎さん」
「なんですか?」
「見つけたら、締め上げて構いません。力いっぱいなさい」
そう私が告げて三人が走り出した次の瞬間――。
「室井……っ! 貴様かぁあああ!!」
「ひ、ひいい!!」
泉の罵声が響き渡り、三人はそちらに一気に走り出し――。
私もまた……革靴の音を立てつつそちらに向かったのだった。
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