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異世界転生審査課 ―死後の市役所で、仮職員になりました―  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)


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第29話 『異世界安置所』にて特殊任務

「回収班から緊急連絡ー!」


 陽気な彼岸花の声に……異世界安置所の奥で、俺は眉をひそめた。


「魂IDが一致しなーい」

「は?」

「同一人物が二人いるー」


 届いた死者の書類は一つ。

 だが、同じIDの人間が二人……。

 魂の分裂か、はたまた何かの不具合か?

 この手の問題は多々起きるが、正直言って魂IDが一致しないなんてのは初めてだ。


「くそっ! 新手の異世界転生審査課の嫌がらせか!? 許される問題じゃない!」

「それにしては手が込んでる気がするけどー?」

「制度の穴を突かれたか……」

「暇人っているんだねー」


 呑気に答える彼岸花に、俺は頭を抱える。

 こうなると、最早自分たち『異世界安置所』案件ではないのだ。


「……異世界転生審査課に特殊依頼を出せ」

「はいはーい。まともな人が来ることを祈ろうぜー」


 前回は散々だった。

 異世界安置所内で好き勝手やった挙げ句、依頼を処理しきれず去っていったのだ。

 それが三回続けば俺も流石にツノが生えそうだった。

 最後は、坂本チームと言われる面々が来て解決してくれたが……。


「おい、彼岸花」

「なにー?」

「坂本チームに依頼を出せるか?」

「ああ、坂本さんねー? 出そうかー?」

「俺はあの面子にしか頼りたくはない……他の審査課の奴らはクズばかりだ」

「あははははー。鬼灯は手厳しいなぁー」


 とは言え、彼岸花も同じ気持ちだろう。

 上に掛け合い、異世界転生審査課の『坂本チーム』に連絡する。

 そこから誰が来るかは運次第だが……。


 少なくとも、一人でくることはないだろう。

 この案件は少々問題が大きい。

 同じ魂IDなのに二人いるのが大問題だ。

 転生した世界でどうなっていたのかもわからない。

 由々しき事態だ。


「困った時の~坂本さーん♪」

「の、チームな?」

「とりあえず特殊依頼は出したよー。問題はねー……すぐ来てくれるかなぁ?」

「すぐ来てもらわないといつまで経っても仕事が終わらん!」

「イライラせず、仕事終わりの甘い甘味でも考えて待とうよー」

「あ――!! 毎度何かあると異世界転生審査課の馬鹿野郎共が――!」

「落ち着いてー? 怒っても糖分減るだけでイライラしちゃうよー?」


 そう言って口にキャンディをぶち込まれ、俺は暫し沈黙する……。

 くそ……。この手の嫌がらせは俺達に対してでもあるが、転生する彼らに対しても行われる姑息なやり方だ。

 まともな神経の異世界転生審査課の者達はこんな手間暇掛かる嫌がらせはしないんだが、どうしても一部……そういうバカが現れる。


「坂本さんチーム連絡ついたってー。二人来るみたいだよー」

「助かる……。出来ればパパっと終わらせてくれる坂本さんに来てほしいが……」

「難しいんじゃないかなー?」

「背に腹は代えられない。坂本さんチームを信じよう」

「まぁ、笑ってる場合じゃないんだけどねー。これ、放っとくと回収記録ごと壊れるよー?」



 ■■■■



 その頃俺は、ファイルを棚に戻しつつ谷崎さんと会話をしながら作業をしていた。

 すると坂本さんが現れ、俺に一枚の紙を手渡してくる。


「中野君、特殊任務です」

「え?」

「谷崎さんと一緒に行ってきなさい」

「お、特殊任務っすか? どこの部署です?」

「『異世界安置所』案件です」


 その言葉に中野へなる前、彼らと話した記憶が蘇った。

 あの時のお礼も言いたいし、是非行こう。

 そう思ったのだが、用紙を谷崎さんがひょいっと取り、中を読むと……。


「……この案件、やばくないですか?」

「ええ、こちらでも誰が行ったのか調べを進めることになっています」

「どうしたんですか? 何か酷い問題の案件なんですか?」


 そう俺が聞くと、谷崎さんはリーゼントをかき上げ大きく溜息を吐いた。


「死者への冒涜だ」

「え?」

「この案件、揉めるぞ」

「一体何が……」

「読みながらついてこい。俺と中野のバディで片付けるぞ」

「え、あ、はい!」

「あと、数日ここには戻れない事は坂本さん、他の奴に伝えておいてください」

「わかりました」


 そう言うと俺の腕を掴んで谷崎さんはずんずんと歩いていく。

 引っ張られながら俺も書類を読んでいくと、思わず眉を顰める。


「魂IDが一致せず、更に同じ人物が二人……?」

「どこぞの馬鹿がやらかしたんだろうな。制度の穴を突いたバグだ」

「制度の穴を突いたバグ……? でも、本来なら願いを三つ叶えて異世界へ行くのでしょう?」

「その際の装置を触っているのも……異世界転生審査課の人間だ」

「じゃあ……」

「その時、意図的にバグを発生させて魂を分裂させたんだろう。願いも叶わず、まともな人生も送れず……そのまま死んで、安置所行きだ」

「酷い……そんな事をして、何が楽しいんだ……っ!」


 そんなことをする異世界転生審査課の人間なんているんだろうか?

 いつ頃転生したのかも今は分からないけど、そこは坂本さんたちが虱潰しに探すことにもなるんだろう。

 膨大なファイルから被害者のIDを探すのは大変なはずだ……。


「こんなこと初めてですね……」

「いんや。お前がいる間、そういう事件が起きなかっただけで……結構な頻度で問題は起きる」

「そう……なんですか?」

「市役所の闇だ」

「え?」

「制度には必ず穴がある」


 ――市役所の闇。

 規約や規則の穴を突いたバグの発生方法。

 これらは、市役所職員にとって相当なペナルティになる問題なのだという。


「制度のバグを作る方法があるんだ。妬ましいのはわかるけどよぉ……。頻繁にあったら困る案件なんだよ。信用問題に関わる」

「そうですね。最悪それを行った方はどうなるんですか?」

「神々の査定を受けることになる。ただそれだけだ」


 その査定がどんな結果を出すのかは……誰もわからないのだと言う。

 ぞっとする反面、〝起こしてはならない異世界転生審査課の意図的失敗〟。


 ――そのしわ寄せは毎回『異世界安置所』になるのだと、谷崎さんは語った。


「ちゃっちゃと終わらせられたら良いんだがな」

「難しそうですか?」

「ID問題はデカい……。すぐに片付けられないかもしれないな……」

「魂IDって一人一個ですよね?」

「当たり前だ」

「じゃあ二人いるって……」

「制度破壊だよ」

「え?」

「役所そのものが壊れる」


 それをバグで一人のIDに二人を作り出した罪はかなり大きいのだと感じ取り、俺は拳を握りしめ谷崎さんの速度に合わせ小走りで異世界安置所へと向かった――。


 だがその時、俺はまだ知らなかった。

 異世界安置所で待っているのが、ただの事故ではないことを。

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