第16話 部署が変われば色々変わり、業務は淡々と進み、理不尽である
異世界転生審査課は相変わらず忙しい。
日々ファイルに目を通し、転生させる相手がどんな人物かもしっかり頭に叩き込まねばならない。それは市役所の仕事だから、致し方ないところでもあるけれど。
最近も多い「ハーレム」を求める声。
それは、男性だけに留まらず、女性にも多い声だった。
「だぁ――……。本当どこに行ってもハーレムハーレム、うっせぇわ!」
「メグミちゃん、落ち着いて」
「そうよメグミちゃん、ハーレムに憧れるのは人間の本能よ」
「でもなぁ! 誠意が足りねーよ誠意がよお!!」
と、ファイルを投げつけて椅子に座る谷崎さん。
その様子を、くすくすと見つめる坂本さんと田中さんは、どうやら違うようだ。
「うちの課も忙しいですが、異世界安置所も最近、工事があったばかりでお忙しいようですよ」
「異世界安置所かー……。あそこ、まだこの市役所じゃ新しい課だよなぁ」
「ええ、ですから溜まりに溜まった魂を必死に……という感じだそうです」
「そりゃ大変だ」
「異世界……安置所」
そういえば、いつだったか、この世界に留まった二人が、異世界安置所の担当をしているという話を聞いたことがある。
俺も、この世界に留まった場合……今の中島という名前を捨て、違う名前でこの課に居られ続けるのだろうか……。
不安は尽きないが、皆さんの言葉を耳にしつつファイルを片付けていた。
「ちなみに、異世界安置所では――【ハーレムは地獄行き】だそうです」
「「「「ふぁっ!?」」」」
「そういう役所での規定がありますので」
「え、じゃあ、あんだけハーレムゲットだぜーって言いつつ消えていった、異世界転生してった奴らって」
「亡くなった後、もれなく地獄行きが決定ですね」
「わ――……」
「これも、異世界安置所での規約としての義務です。我々は願いを叶えるのが規則であり義務」
「それはそうだけど……」
「場所、立場変われば……というのは往々にあります」
異世界安置所では――【ハーレムは重い裁定対象】という事に、驚きを隠せない。
多くの異世界転生者は、ハーレムを夢見るからだ。
その願いは「3つの願いを叶える」という俺達〝異世界転生審査課〟においては【願いを叶えるのが義務】な為、適用されない。
ただし――死後、異世界安置所ではそれは罪となり、裁かれる。
なんとも……世知辛いというか、なんというべきか。
「だからこそ、ハーレムに関してはペナルティが高いんですよ」
「納得だぜぇ」
「でも、たまに願い3つも要らないから、ハーレム出来るのだけ下さいって人もいるのよね」
「けどそれって、安置所の人に言わせてみれば『地獄に行かせて下さい』って言ってるのと同義だったのね」
「まぁ、そういうことですね」
担当部署……というのだろうか。
管轄が変われば、内容が大きく変わることもあるのだろうなと……遠い目をする。
今後、必死に「ハーレムハーレム!!」って言ってる転生希望者を見ることがあれば、「地獄地獄!」と言っているのと同義だと思うと……なんとも言えないな。
「まぁ、私達も、あちらも、互いに市役所内の市役所職員として働いているのは事実です。その中での仕事を全うしているのも、また事実」
「異世界転生審査課は、これからも変わらず、訪れる方々の願いを3つ叶えるのが規則であり役目であり、全うすべき仕事です」
「安置所の方々も、俺達も、市役所職員としての仕事をまっとうするのが……この世界にいる理由、なんでしょうか?」
そう俺が問いかけると、坂本さんは目元を細くして小さく頷き、田中さんは優しく微笑んで頷いてくれた。
「そこに、相手への強い感情などは必要ないのですよ。淡々と事務的に行い、淡々と転生して頂く事が、私達異世界転生審査課の役目です」
「なるほど」
「中島っち~? 貴方、どんどんこの審査課に馴染んできたじゃん!」
「栗崎さん、近いですよ」
「つれないなー? 中島っちと私の仲じゃん!」
と、栗崎さんに抱きつかれて身動きが取れず……。
栗崎さんの行動には未だに慣れないけれど、これも慣れていくんだろうなと思う自分がいる。
確かにこの仕事にも慣れてきた。
慣れてきたけれど、心が慣れることは無いのだと自分では分かっている。
だから線引きできるのだと。
だから自分を律していけるんだと思うんだ。
「でも、俺等。異世界安置所の奴らと会ったことねーよな」
「彼らは別棟が仕事場所ですからね。市役所内に大きな安置所があったら困るでしょう?」
「確かに」
「こう言ってはなんですが〝人生のネタバレの場所〟は、違う場所にあったほうがいいと思うんですよね」
「人生のネタバレ場所……」
「ふふふ」
坂本さんのブラックユーモア溢れる言葉と笑い。
谷崎さんも――。
「確かに、人生のネタバレは早いうちにあると楽しみ激減するよな」
「そういう問題かしら?」
「神田は硬いな」
「でも、知らない方が伸び伸び生きやすいのかも知れないと思えば……」
「知らぬ振りする優しさも大事というやつよ。第二の人生、好きに生きて、好きに地獄に落ちるのもまた人生だしね」
「それもそうですね。それもまた、人生なんでしょうね」
神田はどことなくまだ納得していないようだったけれど、確かにそういう人生があるのだと――そういう規則と地獄があるのだというのは、覚えておいて損は無いだろう。
ペナルティをあれ程強く言っていた坂本さんと田中さんの言い分が、より強く分かった内容でもあったしな。
――だからといって、安置所の市役所職員でも無い限り、転生する方々に「ハーレムは地獄行きですよ」なんてネタバラシはしない。
それが、職員としての義務だと、誰もが理解しているだろう。
生きている間、先人の知恵としての警告なり注意は受けてきた。
親としても、祖父母としても、自分の経験上で気をつけたほうがいいことは教えてくれていたはずだ。
それは、ある種の人生の痛みを伴ったからこそのネタバラシだったのかも知れないし、いい言葉を使えば、人生の知恵だったのだろう。
――だが、この市役所は理不尽で出来ている。
秩序は、理不尽の上にしか立たないらしい。
他の部署では、こう扱われている……なんてことは口にしない。
だから、淡々と自分たちの業務を行う。
その先に待っているものが……地獄でも。
「理不尽だなぁ」
「我々は、淡々と業務を行うだけですよ。そうでなくては、この世界の秩序は守られませんからね」
……死後の世界の秩序の為。
その為に職員は淡々と業務を行う。
それもまた――理不尽だと感じたのは、口には出さなかった。
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