第14話 〝この世界に残ると言う特例〟があるということ
【異世界転生審査課】で働き始めて、分かったことがある。
それは、前回の転生させるか、そのままの死を選ばせるかの話の時のことだ。
――谷崎さんはこういった。
『正直その蜘蛛の糸も〝慈悲〟の糸じゃねぇ。掴んでも〝地獄行き〟の蜘蛛の糸だ』
つまり、転生したとしても――その先は地獄が待っている可能性があると言うこと。
転生者を待つ神様といえど、しっかりとした未来を用意しているわけではないこと。
だからこそ市役所職員は、例え神の采配が決まっていたとしても、最もベストな未来をオススメするのが責務であることなどが分かった。
「死んでもなお、人生ってままならないものですね」
「ああ、前回の?」
「ええ、だからこそ市役所職員はベストな未来をお届けする義務があるのだと」
栗崎さんと書類整理をしながら会話していると、栗崎さんは「そうねぇ」と呟いてから苦笑いを浮かべた。
「正直、あの手の人間ってそれなりにいるのよ。元の世界にもいたでしょ? 『俺が』『俺こそが』っていう勘違い人間」
「勘違い人間……というかは分かりませんが、確かに自己主張の強い方はそれなりには」
「他人を蹴落として、他人に尻拭いをさせて、自分の生まれを憎んで、それをいつまでも親のせいにして親に尻拭いさせる人間も少なからず……いるわけよ」
「まぁ……そうなんですね?」
「そう。人間っていうのは生きている間に善のカルマを積む、いわゆる徳を積むことも大事なのよ。でも、そういう人たちは徳を積むことを放棄してる。自分中心だから、負のカルマの方が溜まりに溜まっていくの」
負のカルマ。
生前の行いが悪いと、それもペナルティの一つになるのだと教えてもらっている。
人間何かしら徳を積んで善のカルマを持っていないと、転生にも不利なのだ。
「それが悪い生き方とは、流石に私も言い難いけれど……。結果として周りや他人を傷つけて蹴落として生きてる人間は、いい転生は行えないわね」
「なるほど……」
「次を生きるためにも、善行な行いは必ず必須なのよ」
「為になります」
「『男なら危険に身を置くのもまた一興』って考えも、少なからずあるのは事実だけど、それで死んでたら馬鹿馬鹿しいでしょ?」
クスクス笑う栗崎さんに、俺は眉を寄せて苦笑い。
ファイルを閉じて新しいファイルを作っていると、部屋をノックする音が聞こえた。
入ってきたのは田中さんだ。
「ファイリングの手伝いに来ました」
「ありがとうございます」
「やっほー! 田中さんがいれば早く終わりそう!」
「最近は異世界転生者も更に増えましたからね。転生済みのファイルは終わらせてきた所です」
転生済みのファイルは、特別な棚に入れられ上の神々の元へと届くシステムだ。
今やってるのは、今後訪れる転生者のファイリング作り。
量は……とても多い。
これからも異世界転生審査課に来る人々が多いと言う証だけど、この量を審査すると言うのは中々に骨が折れると思った。
「中島君はファイリング早いから、このまま審査課に居て欲しい~~!」
「栗崎さん? 中島君は転生かそのままの死を受け入れる人物ですよ。特例があるとは言え、市役所職員にずっといるのは」
「え、特例があるんですか?」
思わぬ言葉に俺が田中さんに声を掛けると、実際特例はあるらしい。
現在二名、特例で働いている人たちがいるそうだ。
「その方々は【異世界安置所】を管理してもらっているようですよ」
「【異世界安置所】……」
「ただ、この世界にとどまる以上、生前の名を捨てなくてはなりませんので、そこだけは致し方ないことのようですがね」
――〝この世界に残る特例〟。
その特例を使うには、生前の名を捨てる。
つまり、俺で言えば〝中島ハルアキ〟と言う名を捨てることだと理解できた。
なぜ、その二人は生前の名を捨ててまで、この世界に留まったのだろう。
理由はわからないが――この世界に愛着を持ってしまったのかも知れない。
この理不尽で、どうにも心の整理がつきにくい世界で。
それでもなお、この世界に居続ける理由。
――俺もそんな〝理由〟が見つかるのだろうか?
現段階では、答えが出るはずもないんだけどな……。
「とは言え、私も少なからず中島君がこの異世界転生審査課に残るのは……賛成ではあります」
「田中さんまで」
「貴方はこの課での潤滑油の役割をしている事に気づきませんか?」
「潤滑油……ですか?」
思わぬ言葉に目を見開くと、田中さんはくすりと笑い――。
「気づかずやっているとしたら、それは最早才能です」
「だよねー。中島君きてから言い争いとか喧嘩とかそういうの無くなったし」
「そう……なんですか?」
「皆、模範となろうとして自分を律していますよ。それに、神田さんも貴方に影響を受けて自分の歩く先を見つめている。とてもいい事です」
「そう……なんですね」
「この世界に来た理由が理由ですから、貴方にとっては都合のいいこと……と取られるでしょうが、私達は中島君を高く評価してますよ」
そう言われると嬉しい。
仕事をして評価されるって、こんなに嬉しいものなんだな。
胸がじんわり温かくなるような、自分が誇らしいような。
――死んでなお、居場所があるのだと言う安心感が胸に湧いてくる。
「とは言え、人生を決めるのは貴方です。残るのも、未来へ行くのも……ね」
「……はい」
田中さんに言われ、俺は頷きつつ三人でファイリングを続けたその日。
就業のチャイムと同時に仕事は終わったけれど、心なしか――特例について考える自分がいて。
「この世界に居続ける理由……」
この仕事はきっと、ずっと慣れないだろう。
いや、慣れてはならない仕事なのだと思う。
けれど……。
――田中さん達の言葉をゆっくりと噛み締め、考えていくことになる。
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