第13話 【異世界転生警備課】が連れてきた男
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朝から呼び出された俺達は、重々しい警備の中で行われる「異世界転生審査」を行うことになった。
重々しいのは、一人の男性につき【異世界転生警備課】の方々が多く警備と備えをしていたから……。
(一体この人は何をしたんだ?)
そう思わずには居られない状態の中始まった、未来への切符を得るための――。
「だから!! 俺はハーレム作ってどんどんと俺ツエーがしたくて、いずれはハーレム王国を作るんだよ! それ以外の未来なんて必要ないね!」
「そうですか」
「そもそも、男なら一度はハーレムを夢見て何が悪い! ハーレム王国最高じゃねーか!」
「はぁ……」
「叶うなら早死にだろうとなんだろうとも気にしないね!」
「ふむ」
本当に自己中心的な事を叫ぶだけ叫び、こちらの職員の話は一切聞かない。
三つの願いは叶える事。
その願いには〝ペナルティ〟がつくこともあること。
それを説明したくても、自分の理想を捲し立ててこちらの言い分を一切言わせないつもりなんだろうな。
恐らく、生前もそういう生き方をしてきた……と言うのがよく分かる言い方だった。
自分の言い分を曲げてきたことがない。
そんな横暴な態度。
確かに、生前そういう人間が少なからず居たけれど……。
でも、それなりの人生に折り合いを付けて居たように思う。
目の前の彼は、それすらしてこなかったんだろうか……。
(いくらなんでも、マシンガンのように言われたら、こちらも言葉を伝えるのが難し――)
そう思った時だった。
谷崎さんが会議用の小槌を鳴らし、「ドガン!!」と鳴らした。
その瞬間シーンと静まり返った。
谷崎さんの綺麗なリーゼント頭に鋭い目。
睨まれた男性は、びくりと体を揺らして固まった。
さ、流石と言うか……谷崎さんにしか出来ない止め方かも知れない。
「それで、職員側としましては……夢を叶えて差し上げたいのですが、その場合のペナルティがあまりにも重すぎましてね。普通に生きることも、願いを受け入れてもハーレムを作れる段階まで生きていられる可能性があまりにも低いのです」
「はぁ!?」
「生前の行いもペナルティとして発生するのですが、貴方の場合、相当なペナルティが発生するようでして」
「死んだ以上、そういうペナルティ無しでいきましょうよ。何で生前のものが必要なんですか。必要ないでしょ?」
「いえいえ、生前どれだけ善い行い……善いカルマを積んだかによって、転生先での生き方や場所さえも左右されます。貴方の場合は善いカルマが殆どない状態でしてね」
一体どんな人生を歩んできたんだ?
思わず驚いて目の前に座る男性のファイルを開いて中を読んだ。
生前の状況を読んでいくうちに、思わず眉を寄せる。
弱者を踏み台にしてきた人生――。
怒りより先に、胃の奥が冷えた。
確かに【異世界転生警備課】がつく筈だと納得する経緯が書かれてあったのだ。
とても……異世界に転生しても、善い行いをするとは思えない人種。
なぜこの人を転生させなくてはならないのだろう……と言う違和感。
相手に対して抱いてはならない感情だろうけど、職員としては仕事はこなさないといけない。
でも、感情がついて行くかどうかは――難しい案件だった。
「そもそも、貴方の望む未来を得るのは、不可能に近いです」
「はぁ!? 三つの願いを叶えるんじゃなかったのかよ!」
「ええ、一般的にはそうです。ですが貴方の場合、生前の負のカルマがあまりにも大きすぎて、転生……は、なさらないほうが身のためと思います」
「なんだと……?」
「素直に、大人しく……ありのままのご自分として、死を迎えたほうが良いでしょう」
――これまで、異世界転生審査課において、そんな人を見たのは初めてだった。
大体は「異世界転生しましょう」と言うのが大前提だったからかも知れないけれど、この男性は、その異世界転生すら死に直結すると坂本さんは結論づけた。
俺も実際そう思う。
彼の経歴は……あまりにも酷いものだった。
中身は口に出すのもおぞましい。
こんな経歴の人が存在すること自体、前世の世界の闇を見たような気分だった。
「するってーと、俺はこのまま普通に死ねと? 普通にあの世に行けと?」
「それが、貴方にとっては一番の安全策です」
「ふざけてんじゃねーぞ!! 安全策ってなんだよ安全策って!! 男なら危険に身を置くのもまた一興じゃねーのかよ!!」
「……そうですね。ハッキリ言いましょう。異世界転生しても、貴方は、ほぼ確実に数日で死にます」
「……は?」
坂本さんの淡々とした言葉に、彼は固まり喉の奥から絞り出した声を上げた。
「なので、再度苦しい死に方をするよりは……と申し上げたんですが」
「待て待て、俺が? この俺が? ほぼ確実に死ぬってなんだよ」
「わかんねーのかオッサン。お前の生前の負のカルマがあまりにもデカすぎんだよ」
ここで、谷崎さんが声を荒らげて口にする。
彼のような人間相手には相当凄みのある視線と口調のようで、男性はびくりと震えて身体を強張らせた。
(谷崎さんのような人が苦手なのかな……?)
威圧的に感じるかも知れないが、ここまで異世界転生する相手に対して声を荒らげたことは、谷崎さんは俺が見ている限りなかった。
それだけ……ファイルに載っている情報が許せないということだろう。
「普通なら地獄行きだ。それを際どいところで蜘蛛の糸でも掴んでるような状態な訳よ。でも、正直その蜘蛛の糸も〝慈悲〟の糸じゃねぇ。掴んでも〝地獄行き〟の蜘蛛の糸だが、アンタ……それでも掴むかい?」
「じ、地獄行きの……蜘蛛の糸」
「だからこちら職員は、貴方に普通の魂の死を……と思っているのです。貴方はおっしゃいましたね? 『男なら危険に身を置くのもまた一興』と」
静かに響く会議室で口にする坂本さんの声に、男性は震え上がって頭を抱えると、小さく「俺は悪くない」と連呼し始めた……。
「確かに他の方なら説得力のある一言でした。貴方のように……〝地獄行き〟でなければね?」
「……あ、う、えぁ」
「どうなさいますか? 転生して地獄に行きますか?」
最高の笑顔で質問した坂本さんに、男性は力なくパイプ椅子に座ると……暫く呆然としていたけれど――。
結果的に……〝魂の死〟を受け入れた。
それが、一番〝苦痛のない〟。
俺達【異世界転生審査課】で出来る、彼への最大の〝未来への切符〟だったのだと思う。
その後、彼の未来が決まったことで、彼は【異世界転生警備課】に連れられ、魂のまま消える場所へと連れて行かれた。
その後のことは――転生審査課の俺達職員が考えることではないだろう。
でも……。
「あんな生前のファイルの人でも……分け隔てなく……ではないんですね」
「ええ、異世界に行くのは分け隔てなく良い場所とは限りません。最初から〝地獄〟が用意されている場合もあります」
「……」
「地獄の未来に行かせるのも、私達の役目ではありますが。出来るだけ、地獄ではない人生を歩んで欲しいのは市役所職員として思うのは当たり前のこと。最も双方が納得する未来を選んで頂けたら、それが一番良いのですよ」
「勉強になります」
――こうして、彼の審査は終わり、ファイルは棚に戻されて消えていった。
彼がちゃんと魂として消えた……と言う結果だろう。
「地獄に落ちるような人が、次の人生をまた歩むのね」
「でも、その時は……次こそは全うな人生を歩んでほしいと願うよ」
「偽善者。でも、そう思わないといけないのは、私の方なのよね」
「職員だからね。仕事だと割り切らないと」
「まだまだ、私は職員としての自覚が足りない……。駄目ね。この前も田中さんに叱られたばかりなのに」
神田の言葉にツノを生やした田中さんを想像して、ちょっと怖くなったけれど。
でも、職員として割り切って人の人生を見ないといけないんだ――。
俺は一つ、また勉強することが出来た日だったと同時に……。
割り切れないまま、それでも仕事を続けるしかないのだと理解した日だった。
――この仕事に慣れる日は、きっと来ないのかもしれない。
それでも、職員のうちは……仕事を全うしなくては。
明日もまた、呼び出しは来る。
慣れないのは救いだと――目を閉じて自分の胸に手を当てた……。
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