07.記憶喪失のアラタ
少しの間、アリシアの泣き声が宿屋のその部屋に響いたかと思うと、
アラタのいたその位置がキラキラと光り、
そこに、アラタが普段の姿の状態で現れた。
ひなた「アラタ…さん?」
アリシア「アラタさん!! …よかったぁ…。
でも、今…。」
私もアリシアも、不思議そうな顔をする。
アラタ「…ん…。
…あれ? 俺…なんでここに…。」
目を開けたアラタは、何も分からないといった表情を浮かべた。
ひなた「あの…アラタさん?」
アラタ「…。えっと…キミたち…誰?」
ひなた「え…?」
アラタもまた、不思議そうに私とアリシアを見つめてきた。
ひなた「アリシア様…これって…。」
アリシア「…う~ん…もしかして今、アラタさんは死んで、
それで…死に戻りをし、記憶の混濁が起きたのでないでしょうか…。」
ひなた「記憶の混濁?」
アリシア「はい。アラタさんは何度となく死に戻っています。
でも、生き返るといっても、死ぬ時の苦しみや痛みは、
毎回のように感じているんです。
だから、脳が防衛本能として、
次に転生をした際に記憶の混濁や喪失を起こし、
本人の精神を守っているのでは…と、思いまして。」
顎に手を添え、考え込むように話すアリシア。
ひなた「そっか…なるほど。」
じっと、アラタを見つめる。
アラタ「あ…ごめん。もしかして俺、また死んだ?」
ひなた「ええと…多分?」
アラタ「そっかぁ~。あれだろ、きっと。黒い煙のやつ。
あれ起きるとさ、その場で死んで転生して…とか、起こすんだよなぁ…。
しかも、こうやってその時の前後の記憶が無くなるんだよ。
はぁ…ほんと、やっかいだな、あれ…。」
頭を無造作に掻いて、ため息をもらす。
ひなた「…。それで、ええと…私たちのこと、分からないんだよね?」
アラタ「そうだな。ごめんだけど。」
ひなた(確かに…今のアラタさん、さっきの死に戻りをする前とは、
まるで違う喋り方だもんね。)
ひなた「ええとね…私はひなたで、こっちは…」
アリシア「聖女のアリシアといいます、アラタさん。」
アラタ「あぁ、うん。俺、アラタ。2人ともよろしく。」
ひなた(何回も自己紹介するのって、なんだか変な気分…。)
アリシア「私たちはアラタさんと会うために、ここまで来たのですが…
どこまで覚えていますか?」
アラタ「…マジ、ごめん。まるで記憶ない。」
ひなた「私たちのこと自体、分からない?」
アラタがこくりと頷く。
アリシア「ユーザー掲示板に、アラタさんが投稿したことは?」
アラタ「…マジ? 俺、そんなことしたんだ? どれ?」
アリシアが青い半透明のウィンドウ画面を出し、
ユーザー掲示板をアラタに見せた。
アラタ「あ~…確かに。これ、俺っぽいなぁ…記憶ないけど。」
アリシア「そうですか。…では、これからどうしましょう?
私の神聖魔法が効かないようですし、
私も、聖女としての務めがありまして、あまり長いもできず…。」
ひなた「あぁ、そっか。そうですよね。」
アラタ「あ~…なんか、多分…俺、2人に迷惑かけたよな。
…マジでごめん。」
アリシア「いえ、そんな。
私こそ、掲示板でお役に立てるかも、なんて豪語しておいて、
全く役に立てず…。聖女なのに…申し訳ないです…。」
また、シュンと落ち込んでしまった。
アラタ「いや、俺こそこんな…聖女?様を呼び立てて、
迷惑かけてマジ、すみません…。」
アリシア「あ、いえ、私こそ…。」
ひなた(なんか…謝る無限ループ始めちゃったなぁ…2人とも。)
2人の様子にそんなことを思いつつ、
あと何往復かするそのループを、ただ無言で見守っていた。




