第96話 ダンジョン都市
アシュレイは時間を計る魔道具を持っていた。ポータルのある10階層の広い空間には日付と時刻を示す魔道具があるんだが、ダンジョンの中では時間や日付が分からなくなる。
そのせいで、生活リズムが狂って体調を崩すものも多いのだとか。草原の階層には昼と夜があるんだが、ダンジョンの外と同じ時間周期ではないそうだ。
ダンジョンの気まぐれなのか、3時間程度で夜が明けてしまうこともあるし、夜が何十時間も続くこともあるのだとか。
だから、草原ではまだ昼間でも、外に出たら夜になっていて、街に戻っても食堂が全て閉まっていたり、宿が取れなくなったりする冒険者も多いらしい。
俺たちはアシュレイに時間を決めてもらい、装備も買いに行かなければならないから、早めにダンジョンから出ることにした。
俺たちが10階層の探索を終えてポータルのある空間に行くと、アリサとココはもうそこにいた。優雅にテーブルと椅子を出してお茶を楽しんでいる。
その周りに倒れている冒険者たちは、恐れ多くも彼女たちをナンパでもしたんだろうか?
実力がわからない愚か者たちの末路とはこんなもんだろう。
「アデル、アシュレイ、あなたたちもお茶する?」
「そうだな」
「私は9階層の入り口でレオンとドランに合図だけ送ってきます」
アシュレイは9階層の階段に向かったが、すぐに戻ってきて4人でお茶を楽しんだ。
なんであんな奴が美女たちとお茶しているんだ? エルフは男か? じゃあもう一人のあの男はなんなんだ?
そう周りがヒソヒソしているのを俺は知っている。
昔の俺なら卑屈になっただろうが、今はちゃんと実力があるからいいんだ。悔しくなんかない。例え顔が美形でなくても、俺は人間辞めるほどの実力があるんだから。
雑魚たちめ、思う存分に羨ましがるといい! はっはっは
「アデル、変な顔してるけどどうしたの?」
アリサにそんなことを言われたが、俺は傷ついたりしないんだ。傷ついたり……
「俺は変な顔などしていない。己の努力を肯定していただけだ」
少しするとレオンが戻ってきたが、やはりドランが一番遅いか。ポチがついているから心配は無いが、9階層では満足できなかったのかもしれない。
ドランがズボンの裾をポチに引っ張られながら戻ってくると、ポータルですぐにダンジョンの入り口に戻った。
ポチ、お前は本当に優秀だな。
「へぇ〜これがダンジョン都市か〜」
「賑やかね。都心とも違うし、観光地とも違うし、なんていうんだろう?」
「冒険者ばっかだよね〜」
「人種が色々いるから、人だけ見たら混雑時のテーマパークって感じだけど、みんな武装してるからちょっとピリピリしてる感じもあるし、通勤ラッシュの東西線って感じ?」
「あ〜それ近いかも。なんかみんなピリピリしてるよね。スーツっていう武装してると思えば近いものがあるかも〜」
相変わらず何を言っているのか分からないが、人が多くそのほとんどが冒険者で荒くれ者が多い。睨みを利かせて歩いている奴もいるし、一触即発という空気の奴らもいる。
可愛い店員さんがポーションや保存食を売り込んでいる姿も見える。
ダンジョン都市というだけあって、店はダンジョン探索の際に必要となりそうな物を売っている店が多い。落としても割れにくいライトや、アシュレイが着ていた防熱難燃素材の防具や、魔石の買取りや販売の店も多い。
一応俺たちはアシュレイの勧めもあって防熱難燃素材のブーツとローブを買った。布だけも買った。刺繍の得意なドランが25階層に潜るまでにマスクを作ってくれるらしい。
他にも地図や攻略本みたいなのを並べている店もあるが、ギルドが公式で出している物でないと内容は怪しい。安いしな。
武器屋や防具屋も多い。服屋も普通の街では普段着やおしゃれな服も売っているが、この辺りに並んでいるのは戦闘用の、動きやすさと耐久性重視の服ばかりだ。
冒険者でないと楽しめない都市というわけでもないのが料理だ。各地から冒険者が集まるせいか、見たことのない食材を売っている店もあるし、食べたことのない料理の店もたくさんある。見たことのない食材は、ダンジョン産のものなんだろう。
「アリサー! カフェオレあるよ!」
「本当? 飲みたい!」
「みんなも飲むよね?」
レオンとアリサが泥水のような不快な色の飲み物を飲みたいと言った。しかも俺たちにまで飲ませようとしている。
「アデル、お前あの泥水のような色の液体飲めるか?」
「正直飲むのは怖い」
ドランは俺と同じ意見らしい。あれは抵抗あるよな……
「私は飲んでみたい。知らない飲み物って楽しみだわ」
「私は飲んだことがありますが、美味しいですよ」
ココはチャレンジャーだ。アシュレイが美味しいというなら、ひどい味ではない気がする。エルフの味覚は分からないが、ゲテモノを好むとは聞いたことがない。
「おじさん、カフェオレ6個ちょうだーい」
「毎度あり! 砂糖はどうする?」
砂糖を入れるのか? お茶のような感じなんだろうか?
「ん〜俺は少しだけ入れて〜」
「あたしは無しで」
「私も無しがいいわ」
「私はたっぷり入れてくれ」
「アデル、どうする?」
「初見で迷ってるなら少し入れておくか?」
「じゃあ俺とドランはそれで」
それぞれ、レオンと俺とドランは少し入れてもらい、アシュレイはたっぷり、アリサとココは無しで作ってもらった。
「あ〜懐かしい」
「久々のカフェオレ。これ毎朝飲みたい」
「だよね〜」
レオンとアリサが喜んでいたのは、元いた世界で飲んでいた飲み物だったらしい。
「甘いものは疲れを癒します」
アシュレイは甘党なのかもしれない。栗のジャムも美味しいと言っていたしな。
「あら、これは香ばしくてまろやかで美味しいわね」
ココもこの飲み物が気に入ったらしい。
ドランは手に持ったまま、まだ口を付けず少し迷っている。
6人中4人が美味しいというのであれば、色は泥水だが、味はいいのかもしれない。
目を瞑って口に持っていき、ほんの少しだけ喉に流し込んだ。
ん? 泥じゃないな。ココが香ばしいと言ったように、香ばしくとてもいい香りがする。これは牛かヤギのミルクでも入っているんだろう。なかなか美味い。
ドランも覚悟を決めて飲んだのか、眉間に皺を寄せていたが、喉がゴクリと音を立てると、強張った表情筋が緩んでゴクゴクと一気に飲み干していた。美味いと思ったならもっと味わって飲めよ。
後で教えてもらったんだが、さっき飲んだカフェオレという飲み物は、勇者の伝記にも出てきたコーヒーという飲み物の派生なのだとか。それならそうと最初に言ってくれれば、あんなに覚悟を決めて飲むこともなかったのに。なぜ名前を変えているのか分からない。
夕飯は王都でも何度か食べたカリーを食べた。王都のカリーとは色が違ってカラフルだった。王都のものはオレンジ色だったが、ここのカリーは黄色も赤も緑も茶色のものあった。
「あ〜やっぱりご飯が恋しい」
「やっぱカレーはライスがいいな〜、ナンでもいいんだけど、やっぱり人参とかジャガイモがゴロゴロしてる家庭のカレー食べたいよね」
「こっちのカレーって、日本とか洋風のカレーじゃなくて、インドとかタイとかそっち系だよね〜」
「それもいいんだけどね。やっぱり恋しくなるよね」
レオンとアリサは何やらカリーに拘りがあるらしい。カリーなのにカレーと呼ぶのも謎だ。
「では私は宿に戻ります」
「そっか、アリサとココもこっちの宿に泊まる? 俺たちはワイバーンのご飯あるから森に戻るけど」
ココとアリサはアシュレイと同じ宿に泊まることにしたらしい。
俺たちはワイバーンの肉焼き職人の仕事があるから森に戻る。シュアが次男に囲われているしな。
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